第39話 4年ぶりの会話

「仲良かったよ。」


(え?)


「1番…。仲の良かった人だよ。」



 この後にウソクの質問責めや、あらぬ妄想で怒られてしまう恐怖よりも

喜びの方が強かった。

胸がいっぱいで、泣きそうになるのを我慢した。


「もしかして付き合ってた?」


「付き合ってない。」


「好きだったとか?」


 するとユンは、大きく息を吸って。



「全然!」


 と、言った。


「ホントに?」


「うん。全く。全然好きじゃ無かったよ。ただの友達だし。」


「そっか。」


 凍り付いたこの場を元に戻す為に、誰もが必死に言葉を探した。


 シオンが


「そ、そういや準備も撤収も早くてびっくりしたよ。女の子まであんなカメラ扱えるんだね?」


 と、話題を振ってくれた。


 私は言葉を発する事が出来なくなっていて、ハナが一生懸命に話をしてくれた。


 この後も、ユンと私は言葉を交わす事なく、終電に合わせてお開きになった。



「じゃ、また明後日宜しくね!」


 程よく酔っているシオンが、明るく声を掛けた。


 私たちも明るく応え


「じゃね!気をつけてね。」


 と、ハナとハミンに声をかけて、改札を通る姿を見ていた。


「あれ?アミちゃん電車乗らないんだ?」


「私たち、ここが最寄り駅なんです。」


「え?もしかして一緒に住んでんの?」


「そんな訳ないじゃないですか(笑)」


「一緒に住んでる様なもんじゃん!」


 そう横から入ったウソクの目が少し据わっていて、酔っているのか怒っているのか分からなかった。


「あ、あの、気をつけて下さいね。」


「あ、うん、またねー!」


 全員が改札を入ったのを確認すると、ウソクと一緒に方向を変え歩き出した。

その時、ユンに見せつけるかの様に肩を抱いてきた。


 嫌な予感がする。



 案の定、家まで歩いて帰る道中、質問責めに合った。



「一緒に住んでるの?って聞かれて否定する必要ある?」


「嘘が付けないタイプなの知ってるでしょ。」


「アイツ、3年のやつ、友達だったのに何で黙ってたの?好きだったとか?」


「違うよ。逆。意識してなかったから名前忘れてたんだよ。」


「1番仲良かったって!そんなやつ忘れる?」


「男の子も女の子も一緒にいたグループだったから。」


「てか、途中からめっちゃテンション低くなったね。ほとんど喋らなくなったし。」


「そんな事、無いよ。」




「全然好きじゃ無かったって言われたからだろ?」




 図星だった…。


 1番仲が良かったと、言ってくれて嬉しかったのに、

“全然好きじゃ無かったよ。ただの友達。”

の言葉に突き落とされ、悲しみに打ちひしがれていた。


 私の事が好きに違いないと、確信があったのに、

ユナに、ユン君の1番好きだった人だったと聞かされたのに、

ユンの発する

「全然好きじゃ無かったよ。」

が、本当の答えのなのだと悲しかった。


 もし、好きだったとしても、あの場では答えられない。

わかってはいるけど、言葉をそのまま受け取り悲しかった。



 高校3年の時の辛かった記憶が蘇る。

想いを無理やり閉じ込めて、何も感じない様にしていた。

その時の私が可哀想だった。



 アミの事、好きじゃ無かったんだって!

可哀想だねアミ…。



「はぁ?マジかよ?何で泣くんだよ!!」


 涙が両目からポロポロと溢れてしまった。


「だって、だって。…この状況が嫌なんだもん。ウソクくんに責められると悲しくなるの!」


 必死に誤魔化した。


「好きな人に、そんなふうに責められるの悲しいよ。やめてよ。全部ウソクくんの妄想なだけで、合ってないんだから。」


「ごめんごめん。わかったよ。」


「もう、やめてよ。楽しい話だけしてようよ。」


「わかったよ。僕の事好き?」


「うん。大好きだよ。大好きに決まってんじゃん!」


――――――――――――――――

 シャワーを浴びて部屋に戻る。

アクセサリーケースを開けて、ユンから貰ったブレスレットとネックレスを取り出し着けた。


 イケない事をしている気分だった。


 ウソクに対して、大好きだと言い辛かった。

高校3年の時の想いだけじゃ無く、2年の時の想いも少し蘇っていた…。


――――――――――――――――

 翌日、落ち込んでいていつもの様に振る舞うのが辛かった。

ちょっと貧血気味だと誤魔化した。


 ウソクと居るのに、ずっとユンの事が頭から離れない。

明日が待ち遠しかった。


・ 

――――――――――――――――

 撮影2日目。


 17時よりも前に着いて、長机を出し準備をしているとバスケ部の選手達がゾロゾロと入って来た。


 “全然好きじゃなかった。”

その言葉を引きずっていたため、ユンの所在を確認する事が出来なかった。




 今回は女子2人が最初に、大型カメラを担当する。

4人それぞれが持ち場に着いて、担当のカメラの作動を確認している時だった。




「そのカメラって、重そうだね。」




 後ろから声をかけられて体が固まった。

声の主はすぐにわかった。


 振り返るとユンがこちらを見ていた。


 嬉しくて、笑ってしまいそうになるのを我慢した。




「持ってみる?」


「え? 良いの?」


 ユンの表情が、柔らかくなった。


「うん。」



「ここが、肩の柔らかい部分に来るように担ぐんだよ。」


 と、説明をして補助をした。



「おもっ。こんなの持って撮影してんだ?」


「うん、毎日肩こりで大変。ここ覗いてみて。」


 左目を閉じて、右目でファインダーを覗き込む。


「へぇ。こんなふうに見えるんだ…」


 方向を変えたりして、色々と見ている様だった。



「はい。重いでしょ?もう、貰うよ。」


 と、言って返して貰った。

カメラを足元に置いてユンを見ると、ある事に気が付いた。



「え?え?あれ!?(笑)」


 嬉しくて、我慢できずに笑ってしまった。



 ユンは私がクリスマスにプレゼントをした、バスパンとTシャツを着てくれていた。

ブカブカに大きいのを着るのがカッコいいと思っていたから、大きいサイズを買ったのに

適正サイズの様にフィットしていた。



「小さくなってる(笑)」


「着心地が良いからまだ使ってる。」


 ユンは私を指差し


「お前はダッセーな。」


 と、言うと大きく笑ってくれた。


「失礼だなぁ!これは私の戦闘服なんですけどっ。」


「はははっ(笑)」

「ふふふっ(笑)」


 2人で笑った。


 心に…、暖かく甘い風が、流れ込んで来る様だった。

無理やり閉じ込めていたあの時の想いが、硬い扉を完全に開けて、出て来てしまった。


 変わってしまった様に感じたのに、何も変わってはいなかった。

今の一瞬で、あの時の関係に戻った気がした。

あの、1番仲の良かったユンがそこに居た。

見た目は、茶髪になってフープピアスをしているけれど…。




「あのさ…。 携帯の番号って…変えたよ…な?」


 息を吸って答えようとした時だった。


「そんな事聞いてどうするの?」


 驚いて体がビクンッと跳ねた。

ウソクがイライラしている。


「僕たち、異性とは連絡先を交換しない決まりにしてるんだ。聞いても教えないから。」


「あっそ。」


 と、言ってユンは戻って行った。





「まさか教えるつもりだった?」


 すごい剣幕で怒っている。


「そんな訳ないじゃん。変えたよ。って言うつもりだったよ。」



 この後私は、ユンと話す事は無かった。

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