第41話 2度目の別れ

「ホントにごめんね!マナーモードだったみたい…。」


「あぁ!もう!ごめんごめん!僕も言い過ぎたよ。ごめんね!」


 ウソクはそう言って、私の頭をヨシヨシと撫でたかと思ったら、そのままおでこにキスをした。



 完全に見せつけだった。



 ウソクの真意が分からない。

ユンの事に気付いているのか否か。

ウソクの心に渦巻くモノが

ただ恐ろしかった。



 結局、

機材トラブルの原因は、後輩部員が接続を間違えていたからだったらしい。

無事に選手達のインタビュー撮影は、滞りなく終わった。


 バスケに対する情熱や夢、日々をいかに頑張っているのか

姉妹校に選んでもらった時のメリットなど、事前に渡していた質問表に沿って話して貰った。


 5人それぞれに熱いものがあり、自分の内に秘めている想いを聞かせてもらえて感動した。

この想いを絶対に無駄にしてはいけない。


“人の想いを映像にして世に残す”

自分のやりたい事の再確認にもなった。


――――――――――――――――

 打ち上げはソウル体育大学の会議室を使って行われる事になった。

ヒョヌ教授のスケジュールを聞く必要もなく、体大の理事長と教授がこの日に決めていた。


 会議室に入ると料理がたくさん並んでいて、お酒やソフトドリンクもたくさん用意されていた。

理事長と教授がいつも贔屓にしている料理屋さんに仕出しを頼んだそうだ。


(この2人が飲みたいだけじゃん)


 そう思ったのは私だけでは無いはずだ。


 会費は女子2人だけ男子の半額にしてくれた。

男子の会費も破格で、殆どを理事長と教授が支払ってくれる様だ。



 先に着いていた私たちがグラスや氷を用意している時、

「こんばんはー!」とキャプテンが顔を出した。

5人同時に入って来た。




(わぁぁ!)


 ユンを見て、息が止まりそうになった。



 自分の顔が輝くのが分かる。

目が合って、静かに微笑み合った。


 私がニコリと笑うと

それに答えるかの様にユンが笑い、

マフラーに手をかけた。


 目が合ったままマフラーを取ると丁寧に畳んで、空いている机に置いた。


 私がプレゼントした、白の大きなマフラーだった。


 決して高く無い物なのに、今のユンが着けると高級ブランドの様に見えた。


 我に返りウソクを探した。

こちらを見ていなかった。


(良かった…)





「まずは藝大の皆さんお疲れ様です。まだまだ大変かと思いますが宜しくお願いします。バスケ部のみんなもありがとう。今日はいっぱい食べて飲んで親睦を深めましょう!乾杯!」


 理事長の乾杯から打ち上げは始まった。


 立食スタイルで、食べたい物を取って飲みたいものを自分で入れる。

イスがいくつか壁沿いあってそこに座り、ウソクと2人で乾杯をした。


「おつかれー!」


「おつかれ!」


(きっと今日は、2人で食べて飲んで終わりなんだな…)


 ウソクを怒らせてまで、ユンと話したいとは思っていない。

蘇る想いをもう一度閉じ込めてた私は、ウソクと生きていくと決めている。

編集が終わって納品すれば、関係は終わる。

私のプレゼントを、見せてくれただけで満足だった。



「ちょっとトイレに行ってくる。」


「うん。いってらっしゃい。」



 席を立ち、飲み物を何にしようか迷っている時、ユンに話しかけられた。



「ねぇ。」


「う、うん?」


「これ、覚えてる?」


 と、言うとバッグからある物を取り出し、差し出した。



「あぁ!(笑)」


 思わず、ユンの手から取ってしまった。



 それは



 大きなマンボウの付いた、ボールペンだった。




 泣きそうになるのを我慢しながら、震える声で


「まだ…持ってたの?」


と、聞いた。



「うん。どれも… 捨てられない…。」


 ユンも、震える声で答えた。



「これ…私も、まだ…持ってる…。」


 私の言葉を聞いて、

ほんの少しだけ、泣きそうに顔を歪ませた。

その表情に、胸が痛かった…。


 ユンは慌てた様子で、私の手からボールペンを奪うと離れて行った。

ウソクが、戻って来たんだとわかった。

目に溜まる涙が引くまで、飲み物を悩んでいるフリをした。



――――――――――――――――

 打ち上げは3時間程で終わった。

片付けを済ませて、体大の門の所で解散となった。


「お疲れ様でした!」


「またね!」


 など各々挨拶をしている時、何を思ったのかウソクがユンに声をかけた。



「アミちゃんはずっと僕と一緒だから。何をするにも。1人の時は無いから、学校とか駅とか待ち伏せしても無駄だからね。近づいたら許さないよ。」


「何言ってんだお前? 意味わかんねぇよ。」


「了承したって事で受け止めるから。」


 ユンは表情も変えずに歩いて行った。



 帰り道、いろんな思いが駆け巡り一言も話せなかった。



 マンションの前でやっと、ウソクが口を開いた。



「僕の告白を保留にしてまで引きずってた男って、あのユンって奴だったんだね。」


「また、いつもの妄想?」


「事実だろ?」


「ありえない。」


「だって!アミちゃんも持ってるじゃん!」


「?」


「魚が付いてるボールペン!!」




 恐ろしかった。



 なぜなら


 そのボールペンは…




 机の引き出しの奥に、見えない様にしまってある物だったから…。

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