第34話 ユンside ②

 ジアンからアミの誕生日の事を聞いて、居ても立っても居られなかった。

だけど、大会が控えている。

何も出来ない。

アミも読書感想文を頑張っている。

それが救いだった。


 大会が終わってまた監督に呼ばれた。


「以前に比べて、活躍が少なくなったと自分で気付いているか?自分をコントロールする方法を見つけないと、エースじゃなくなるぞ。キャプテンになりたい奴がいっぱい居る事忘れるな。」



 俺はどうかしている。

監督に言われ、母親に睨まれているのに

アミの誕生日プレゼントを買い、また会う様になった。

好きな気持ちをセーブ出来なかった。


 だけど、アミはだんだんイライラする様になった。

わかってる。

どうして欲しいのか。

でも…

応えてやれなかった。



 クリスマスに決定的な事が起きてしまった。





「私…、私ね…。」


「な、何…」


――(やめてくれ。)


「私…」


――(頼むから言わないでくれ!)


「ユンくんが好き。大好きなの…。」





 俺はどうしようもなく弱い人間だ。

アミとバスケを天秤にかけてバスケを取った。


 監督に

「インターハイでキャプテンを誰にするか決めると思う。」

と言われていた。


 いま、アミを取ったらキャプテンになれない。

それくらいアミが全てだった。

恋愛とやりたい事の両立が出来ない人間だったのかと、酷く落ち込んだ。

自分が、こんなに不器用な人間だったなんて。

ただ、好きな人が出来ただけなのに、プレイに影響するような奴がプロになんかなれない。


 俺にはバスケしかない。

バスケが無くなった、ただの人間になった俺を、アミはずっと好きでいてくれるのか。

自信がなかったんだ。



 俺は、アミの永遠が欲しかった。

付き合ったら、いつか別れが来てしまう。

それを考えると耐えられなかった。

ずっと一緒に居られればそれで良かった。



《LINE》


ソジン:今から家行く。いいか?


ユン :うん




「お前、グダグダと何やってんだよ。」


「なんの事だよ。」


「アミちゃん悩んでるぞ。早く何とかしてやれ。」


「何とかってなんだよ。」


「好きって言ってくれたんだろ?答えは決まってるだろ。」


「無理なんだよ。好き過ぎて。」


「は?惚気てんのか?簡単な答えが出せないのは何なんだ。付き合うか付き合わないかの二択だろ。」


「じゃあ、付き合いたく無い。」


「は?頭おかしいのかよ。」


「嫌なんだよ!ケンカしたり別れる事になるのが!ずっと好きでいたいんだよ。好き過ぎてきっと何も出来ない。大事にしたいから手も出せねーよ。じゃあ、付き合わなくていいじゃん。1番近い人で居たいだけなんだよ!」


「お前、どうしちゃったんだよ…」


「俺はバスケを捨てるわけにはいかないんだよ!俺の夢だし親だって…。だから、無理なんだよ…。好き過ぎて無理なんだよ…。アミを想うとバスケなんかどうでも良くなっちゃうんだよ!それじゃダメなんだよ…くそっ。」


「ユン…」


「なんで決めなきゃいけないんだ!何で答えを求めるんだ!今じゃ無いといけないのかよ!!ただ好きなだけじゃダメなのかよ!うぅっ。くそ…。」


「わかったよ。分からないけどわかったよ。落ち着け。」


「ごめん。 好きだから…失う事が怖いんだよ。一緒に居たいだけなんだよ。今までの様に1番近くで笑っていて欲しいだけなんだ…。こんな事…初めてだから、どうしたら良いのか…分からないんだよ…。」




 アミに話したとソジンに聞いた時、マズイと思った。

色々と考えて整理がつき始めたのに、ソジンにその事を話してなかった。

次の日、アミに無視された。



〝キャプテンになってもならなくても、ちゃんと俺から付き合って欲しいと言うから、結果が出るまで待ってて欲しい。〟



 そう言いたかった。

だけど、耳を貸してくれなかった。

アミは俺と向き合う事を、完全に放棄してた。

毎日毎日連絡をしても、無視された。



―― 心が折れた。



 1番大切にしたかったのに

失ってしまった。


 完全な失恋だった。



 毎日毎日泣いた。

学校にいる間に泣けないのが辛かった。

家に帰ると我慢できずに泣いた。

アミと同じクラスだったら、授業中も泣いていたと思う。

泣いて泣いて涙が枯れたころ

バスケ部の奴から声をかけられた。


「俺の妹の友達が、お前に話があるみたいで、聞いてやってくれないか。頼む!この通りだから!」


 会ってやる事にした。




 目の前にいる年下の女子が泣いている。


「先輩の事が、ひっく、ずっと、うぅ。好きでした。ひっく。付き合って、くれませんか?」


 可哀想な奴だな。

と思った。

振られたら、俺みたいに泣いて暮らすのかな。

それは可哀想だ…。


「俺みたいになるな…。」


「え??何て言ったんですか?」


「あ、いや…。…いいよ。付き合うよ。」


――――――――――――――――――

 それ以来俺は、告白されると断れなくなってしまった。


 アミの様に好きになれる人を、探しているのかもしれない。

でも、何人と相手を代えようが出会わない。

誰かを思って胸が痛くなるなんて

アミ以外に味わった事がない。



 キスをしても、裸を見ても「そんなもんか」と思う。


「体だけの関係でも良いからお願い!」

と、言ってくる女は好都合だった。

呼び出せば面倒臭いデートも無しにやらせてくれる。

「どうして連絡くれないの?」

と言われたら「忙しかった」と答えるだけで良い。

それ以上言ってくるなら「別れる」と言って連絡を断つだけ。


 どれだけ相手を代えても、何も変わらなかった。

好きな女とやるって、やっぱり違うのかな。


 真剣に付き合って無いから、みんな短い間に去って行った。

たぶん、ユナもそうなるだろう。

それなら、それで良い。


 俺は悪魔に魂を売ってしまった。


 もし、アミの様に好きになれる相手が出来たら、悪魔から魂を返して貰うよ。





 なぁ、アミ。


 不幸であって欲しいとは思わないけどさ。

でも…


 幸せには…



 なっててくれるなよ。

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