第35話 新しい私

 ユナと別れて街を歩きながら考えていた。


あの人は、新しい環境で頑張っている。

ユナという恋人までいた。


(よし。決めた。)



――彼に、会いに行こう。


 ある決心を胸に、彼に会いに行く事にした。

でも…。

その前に、やりたい事がある。

それは、



―― 髪を切る事。



 結べない位の長さにして、かなり明るく色も変えた。

我ながら似合うと思う。


 


 次に



―― ピアスを開ける事


 これは…また、今度にしよう…。





「ただいま」


「きゃー!!!アンタどうしたのー!!何それー!!」


「え…。ダメだった?」


「いやーーーん!可愛い!」


「あ、そっち?(苦笑)」


「どこのモデルさんが入って来たのかと思ったー!!」


「お母さんいっつも、そういう事言う。親バカなんだよ。」


「アンタこそいっつもそういう事言うの直しなさい!?もう!素直じゃ無いんだから!お母さんホントの事しか言わないのに全くもー!!」


「わかった!わかった!」



 お母さんの作ったご飯を食べたあと、

ハナにリモートで教えて貰いながら、今の髪に似合うメイクに変えた。


 服を着替えて家を出る。



 どんな顔するかなぁ。

早く見せたい。

新しい私を。



(あぁ、ちょっと緊張するな。絶対にすごい顔するから動画に撮っておかないと!)


 スマホの録画ボタンを押した。

お店の中が映らない様に注意しながら入った。



「いらっしゃいませー!」


 遠くで声が聞こえる。


(あ!いた!)


 彼の顔だけにピントを合わせて、スマホを自分の顔より下で構えて近づいた。



「!!!!!」



「あははははは!やっぱり!リアクション最高だね!演者側でも良いんじゃない?(笑)」


「うぇ〜??」


 目をパチクリして固まっている。

思った通りのリアクションで大満足だった。

録画を切って彼と向き合った。



「どうしたの!?アミちゃん!」


「どうかな?」



 そこそこ混み合うカフェの中で

ウソクは髪や顔をまじまじと見ながら、私の周りを2周回った。

正面に立つと

また驚いた顔をして後ろに回り髪を触った。




「ねぇ、どうなの?(笑)」


「似合うとかの次元じゃないのよ。美容師さんに感謝状送らないと。」


「何それ(笑)」



「お、誰かと思ったらアミちゃん?随分変えたね。」


 マスターがそう言いながら、カウンターに入った。



「似合ってますよね?」


「うん似合ってる。」


 ウソクが、自分の事を褒められたかの様に嬉しそうな顔をした。



「バイト終わるまで待ってて良い?」


「良いけど1時間以上あるよ?」


「ノートPC持って来たから、動画編集してる。」


「じゃあ、好きな席座って。飲み物何が良い?僕がサービスします!」


「じゃあ、ホットのカフェラテをお願いします。」


「りょうかーい!」





「カフェラテお待たせしました。」


「あ、ありがとうございます。」


「実はと言うとさ。」


 ウソクが、バツが悪そうな顔をしてそう言うと

続けた。


「さっきアミちゃんが入って来た時、誰か分かんなくて『可愛い子が入ってきたー!!』って思ったんだよね。(笑)アミちゃんで良かったってか、やっぱりアミちゃん可愛いって思っちゃうんだな(笑)」


「何て答えたら良いか分かんない(笑)」


「ウェイターの独り言だから良いよ(笑)アミちゃんは無条件でお代わりサービスだから、遠慮なく言ってね!」


「ありがとう(笑)」



 ウソクは帰り支度を済ませると、私の飲んだ2杯分のカフェオレの会計を済ませてくれた。


「じゃ、マスターお疲れ様でした。お先に失礼します。」


「はい。お疲れさん。アミちゃんまたね!」


「はい。ありがとうございました。」



「ごめんね、払わせちゃって。」


「僕が1番なんでしょ?」


「ん?」


「見せに来てくれたの1番なんでしょ?」


「うん。もちろん。」


「だから、感謝の気持ち!」


「ありがとう。ごちそうさまでした。あのさ、近所の公園に行かない?話があるの。」



――――――――――――――――

「どうしたの?何かあったの?」


「あのね。まだ、ウソク君の気持ちが変わってなかったら」


「ちょっと待って!まさか?そうなの?」


「うん♡」


「僕が言う!ちょっと待って!」


「ふふふっ」


「僕と付き合ってくれますか?」


「はい。宜しくお願いします。」


「やったー!!ありがとう!アミちゃんありがとう!」


「待たせちゃってごめんね。」


「そうゆう誠実な所も大好きなんだよ。」



 そう言うと、抱きしめてくれた。



「アミちゃん大好きだよ。」


「うん…私も…」



―― キスをした。




 初めてのキスは、とても優しいものだった。





「どうしよう。嬉しすぎて今日寝れないかも。」


「じゃあ、うちに泊まりに来ちゃう?」


――――――――――――――――————


「ただいま。ウソクくん泊まって貰っても良い?」


「良い…けど?」


「アミちゃんママ!」


「ん?」


「僕たち付き合う事になりました!」


「あらぁ。やっとなの…。待たせてごめんなさいね?」


「良いんです。こうなる事、わかってましたから!」


「本当に良い子ねぇ。」


「ありがとうございますっ」


「じゃあ、布団どうしようか。付き合い始めたならアミの部屋に敷くかぁ。」


「大丈夫ですよ。手出しませんから。」


「お願いね?このお家ではやめてちょうだいね?」


「あはは!大丈夫ですって。」


――――――――――――――――—————

 特別にベッドへ入れてあげた。

一つの枕で抱き合ってキスをした。


 長く待たせてごめんなさい。

の代わりの、長い長いキス。


「アミちゃんの事、大切にしたいんだ。」

そう言って、

ウソクは本当に手を出さないでいてくれた。





 あんなに苦しい恋は、ニ度と無いだろう。

苦しかったけど、幸せだった。

私の青春の、全てだった。

渡り廊下で見た笑顔は、一生忘れない。


 もう、彼女に余計な事言って、悲しませたらダメだよ?

私も幸せになるね。



 ずっと、ずっとこの先も

あなたが、笑っていられます様に。


 幸せでありますように…



―― 祈ってる。



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