第25話 悲しいクリスマス

 バスに乗り込むと少し混んでいた。


 綺麗に着飾った女の人や、小さな兄弟を連れた楽しそうな家族連れ、花束を抱えた男性などクリスマスの非日常に、心躍らせる人々が幸せそうに見えた。


立っている人が何人もいたが、1席だけ空いていて

「座れば?」

と、座らせてくれた。


すぐそばに立ったユンが、鼻で笑ったのが気になって、顔を見上げた。


「ん?」


「えらく、デカいもん持ってるな?(笑)」


 洋服屋さんの紙袋って、どうしてこんなに大きいのだろう。

プレゼント用に包んでもらったせいで、とても大きな紙袋になった。

バスパンとTシャツを入れられたから、いいんだけど…。


膝に乗せるとアゴの高さまでになる紙袋を、笑われた。


「隠せてなくて、ごめんね?(笑)」


「言っちゃうんだ?(笑)」


「だって、もう、分かってるんでしょ?」


「うん(笑)」


 笑いながら窓の外を眺めるユンを見て、イライラしていた事を申し訳なく思った。



 駅も平日の昼間だと言うのに、混み合っていた。

電車に乗り込むと、人に押されて流されそうになった。

ユンが私の腕を掴んで引き寄せてくれた。

向かい合って立つとどんどん人が流れ込み、どんどん距離が近くなった。

私の頭にユンのアゴが触れている。

体はギリギリの所でくっつかないようにした。

距離が近過ぎて顔が熱くなる。

急行で30分。

意識し過ぎて何も話せなかった。


――――――――――――――――

「混んでるね。」


「みんな考える事が一緒なんだな。」


「いま、レストランも混んでるだろうから、先に何か乗る?」


「時間いっぱいあるし、端から乗って行くか。」



 1つ目のアトラクションを見て、ユンが固まった。


「ごめん。俺、これ無理かも。」


「大丈夫、私も、無理。」


 多感な高校生にメリーゴーランドは、恥ずかしくて無理だった…。



 どこも沢山の人が並んでいて、いくつかのアトラクションは、乗るのを断念してしまった。

観覧車は絶好の告白場所だと思っていたけど、断念した物の1つに入っていた。


寒くて避難の為に立ち寄ったフードコートが、あまりにも暖かくて長い間滞在してしまった。



「もう、暗くなるまでここで良くね?」


「うん、いいよ(笑)イルミネーション見て回るし体温めてようよ。」


「ここでなんだけど、交換する?」


「プレゼント?」


「うん。」


「そうだね。じゃ、はい!」


「ありがとう。ずっと見えてた。」


「ぶっ(笑)ごめんね!買う時そうゆうの考えてなかった(笑)」


「アミらしいっていうか何て言うか(笑)」


「気に入って貰えたら良いんだけど…。出来たら使って欲しいな。」





「おぉ。あったかそう。俺、マフラー持って無いんだよね。」


「もしかして、首に何かあるの苦手だった?」


「あ、ううん。何が良いのか分からなかっただけだよ。」


「着けてみて!」


 大きい物だったから着け方が分からないのか、マフラーを見て悩んでいた。


「着けてあげる!」


 立ち上がり近づき巻いてあげた。

自分の居た席に戻って、顔とのバランスを見てみる。


「やっぱり似合ってる!カッコいい!」


 ユンは照れて笑った。


「まだ、あるよ。」


「え? 何これ。 あぁ。良いじゃん!」


「着てね?」


「うん!着る着る!こうゆうの何着あっても良いから。」


「良かったぁ。」



「じゃあ、俺からは…」


 斜めがけのバックから、クルクルと巻かれた小さな紙袋が出て来た。


「これはこれでどうなの!?(笑)」


少しシワと折り目が付いている丸まった紙袋を受け取りながら言うと


「あなたへのプレゼントです!って持ち歩いてるヤツに言われたく無い。」


 と、返って来て2人で笑った。



 紙袋の中にはアクセサリーケースが入っていて、前に貰った物より少し長かった。

開けてみるとネックレスだった。


 小さなハートのデザインで、右下のカーブの部分に透明のキラキラした石のような物も付いている。

このネックレスもゴールドだった。



「可愛い…♡」


 ユンは立ち上がると近づいて、ネックレスを取った。

今日、私はネックレスを着けていない。

髪を束ねて持ち、着けやすいように首を出した。


 元いた場所に戻って、言ってくれた。


「うん。似合ってる。……… 可愛いよ。」


 ユンの顔がみるみる赤くなった。


「言った人が赤くなるの…。なんなの…。」



 “可愛い”と言って顔を赤くするユンが、たまらなく愛おしかった。

好きな気持ちが込み上げて来て、泣きそうになる。

ずるいよ。こんなに好きにさせるなんて…。



 余所を向きながら飲み物を飲んで、誤魔化す姿を見て笑いそうになった。

話題を変えてあげよう。



「ユンくんに…」


 ユンと目が合う。

ニットの左袖を少し上げてブレスレットを見せた。


「これを貰ったから、金賞が貰えたのかなって思ったんだ。」


「金賞は元々決まってたよ。読んでみたけど、俺には一生かかっても書けないと思ったもん。」


「え?読んだの?」


「うん。ホームページに載ってたよ?」


「あぁ、出てるね。でも!私には金のブレスレットが連れて来たように感じたの。だから一生のお守り。ブレスレットもネックレスも本当にありがとう。」


「俺も大切にするよ。ありがとう。」



 少し早い夕飯を摂って、混み合う前にフードコートを出た。

それでも辺りは暗くなっていて、イルミネーションを見ている間に真っ暗になった。



「キレイ!」


「こうゆうのも、ちゃんと見ると良いもんだな。」


「また、来年も…一緒に来れたら良いなぁ。」


「そうだね…」



 帰りの電車の混み具合を考えて、閉園より前に遊園地を出た。

最寄り駅の前には大きな川があり、橋を見上げるような位置に公園がある。

そこへ行く事にした。



「俺、ここ好きなんだよね。」


「橋とか川とかキレイだよね。」


 フェンスの前に立ち、風景を見ていた。


「今からどうする?」


「どこか行く?」


「あったかいとこが良いよな。」


「どこが良いかなぁ…」


 考えながら

(いつ告白してくれるのだろう。)

と思った。




 また、衝動が…

私を動かしてしまった…。





「ユンくん…」


 ユンに体を向けて声をかけると

「ん?」と言ってユンも体をこちらに向けた。



「ど、どうした…の…。」



 ユンが困った声を出す。

前を開けていたダウンジャケットの中に入り込み、ユンに抱きついてしまった。

…暖かかった。



「私…、私ね…。」


「な、何…。」


「私…。」


「…………」




「ユンくんが好き…。大好きなの…。」




「アミ…。やめよう。」


 離れて顔を見た。


「どうして!?」


「…………」


「私の事、好きじゃ無いの?」


「そうじゃ無い。」


「どうして言ってくれないの?」


「もう…帰ろう。」


「私が嫌になった?」


「そうじゃ無い!このまま…アミと居たら帰したく無くなるから。そうなる前に帰ろう。」


「帰らなくっても良いもん!私の事連れ去ってよ。」



 ユンは困った顔をして、私を抱きしめた。


「頼むよ。今日はもう。帰ろう。」



 悲しかった…。

涙が溢れて止まらなくなった。

静かに泣く私の頭を撫でると、また抱きしめた。


「泣くなよ…。」



 抱きしめてくれるのに、好きだとは言ってくれなかった。

今日から付き合う事になると思っていたのに、記念日になると思っていたのに叶わなかった。


 帰りのバスも家までの道も、話す言葉が見つからなかった。


 手は繋いでくれるのに、最後まで

私の欲しかった言葉はくれなかった。

自転車に乗り走り出すまでずっと、待っていたのに

『好きだ。』『付き合おう。』の言葉はくれなかった。

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