第26話 ソジンの気づかい


「おかえり」


 母親の顔が見られない。


「アミ? どうしたの?」


――パタン



 部屋に入るとたまらなく悲しくなった。


「う、うっ。ひっく。はぁ。ひっく。」



――トントン

〝アミ?大丈夫なの?〟


 ドアの前からの問いかけに答えられない。



 私には、振られたに等しかった。

私は好きだと言ったのに、ユンは言ってくれなかった。

私の事は好きじゃなかったんだ。

恥ずかしかった。

浮かれていた今までの自分が恥ずかしかった。


 もう、自分からは連絡しない。

そう決めた。



――――――――――――――――

 あれからしばらく、ユンからも連絡がなかった。

1月1日の夜に、やっとLINEが来た。



《LINE》


ユン :《happy new yearスタンプ》

    どうしてる?

    こっちは、練習で死にそうになってる


アミ :《happy new yearスタンプ》

    変わらないよ。

    練習頑張ってね。


ユン :電話して良い?


アミ :うん



(もしかしたら、好きって言ってくれるかも!)

曇っていた心に一筋の光が差した。



「久しぶり。元気だった?」


「うん。」


「正月も練習ってやばいよな(笑)きついよ。」


「そっか。来月インターハイだもんね。風邪ひかないように頑張ってね。」


「うん…」


「……………」


「……………」



 沈黙が続く。

この沈黙がさらに期待を高めた。

言い出し難くて黙っているんだと思った。



「どうしてるかなって…気になってかけただけなんだ。も、もう、切るよ。」


「そ、それだけ…?」


「うん。声聞けて良かったよ。」


「ユンくん。もう、良いよ。無理に電話してこなくて。もう、電話なんて要らない。」


「そっか。無理はしてないけど…。」


「練習もインターハイも頑張ってね。」


「うん。」


「じゃね。」



 自分から切った。

直ぐに後悔の波が押し寄せた。

どうしてそんな事を言ってしまったのだろう。

期待を裏切られたから?

もう、見込みはない。

私は振られた。



――――――――――――――――

 新学期になり、久しぶりに6人で顔を合わせた。

ジアンやソアにはユンとの事を話してある。

ソジンとデヒョンは2学期と何も変わらなかった。

話しもせず雰囲気の悪くなっているユンと私をフォローするかの様に、ジアンとソアがソジンとデヒョンの相手をしてくれた。



 2日ほどすると、流石にソジン達も知ったのか私たち2人の様子を伺う様になった。

また2日ほど経つと、私たちは元の3人ずつに戻った。

ユンとは時々の「おはよう」と「バイバイ」それ以外は話さない。

連絡もない。

ユンへの想いが消えないのが辛かった。



――――――――――――――――

 2月の中旬、ソジンから突然LINEが入った。



《LINE》


ソジン:明日ひま?


アミ :急にどうしたの?


ソジン:明日バスケ部、準決勝と決勝がある

    会場が地方からソウルになったんだ

    一緒に行こうよ。


アミ :行きたく無い。


ソジン:話もあるから。


アミ :話ってなんだろ。


ソジン:絶対にこのままではダメだよ。

    明日9時半に駅でな。


アミ :行くとは言ってない。


ソジン:絶対に来い。来ないと許さないから。



 テヨンやユリ、ファンクラブの人達に会いたく無い。

恥ずかしい。

だけど、もしかしたらソジンが助けてくれるかもしれない。

一縷の望みに賭けてみる事にした。



――――――――――――――――

 春の大会とは違う体育館だった。

ソジンに頼んで、みんなに見つからない様に最後に入らせてもらった。


 ソウル西校が使う観覧席の近くを、避けて座る事にした。

試合中のユンはやっぱりカッコよくて、自分の気持ちを思い知らされた。

泣きながら見ている私を、ソジンは無視してくれた。



 結果は、負けてしまった。

ベンチで泣く選手達を見るのが辛かった。

お昼から3位決定戦がある。

それも応援する事にした。



「何か食べれば?」


「ソジンくん気にしないで食べて。」


「そうゆう意味じゃなくて!なんか、やつれたよな。」


「私?」


「お前しかいねーだろ。」


「スープでも飲むよ。」


「よし。許してやる。」


・ 


 午後の3位決定戦では勝つ事が出来て、3位になった。

表彰式でのユンの浮かない顔に、胸が締め付けられた。



「声かけないで帰るのは絶対に違うから。良いからついて来いって!」


 ソジンの説得に折れてついて行く事にした。


 テヨンとユリが気付いて、驚いた顔を見せた後、笑いながら手を振ってくれた。

苦笑いで手を振る私に困惑している様だった。


(後でLINE来るよなぁ。この2人には説明しなきゃか…つら…)



「おい、ユン。」


「あ、あぁ。」


 ユンがソジンの隣に居る私を、二度見した。


「残念だったな。」


「はぁ。」


「この後も忙しいんだろ?」


「うん、学校に戻って反省会と練習があるよ。お前たちは2人?なんかあんの?」


「うん。 俺たちは…。」


 そう言いながらソジンが私の顔を見た。

視線をユンに戻す。


「どっか遊びに行くかな。飯でも食って帰るんじゃない?」


「チッ!あっそ。」


 ユンは振り返り行こうとした。


「ユンくん!」


 ユンが顔だけで振り返った。


「ざ、残念だったね。だけど…3位だって凄いから!」


「…うん。」


 行ってしまった…。



――――――――――――――――――

 最寄駅に着き


「話そう。寒いからここに入ろ。」


 と、ソジンが言うので、駅ビルの中にあるカフェに入った。



「で?お前たち何があった?」


「聞いてないの?」


「聞いてない。アイツが話すわけ無いだろ。」


「聞いてるんだと思った。」


「何で?」


「6人で一緒にいなくなったから。」


「明らかにお前たちに何かあったのに、普通には出来ないって。とりあえず話せよ。」



 全てを話した。


「アイツ、アミちゃんの事好きだよ。間違い無く。」


「じゃあ、なんでこうなるの?」


「全く分からない。」


「じゃ、間違いなんだよ。」


「そんなわけ無いよ。とりあえずアイツと話すから早合点はやめておけ。」


「あまり無理強いしないで。負担になりたく無いの。」


「わかったよ。じゃ、これ飲んだら解散しよ。


「え?」


「アイツ、俺らがどっか行くって言ったら舌打ちしてたよな!あははは(笑)」


「………」


「アイツは俺の大事な親友なんだ。嫌がる事をしたく無い。こうやって2人で茶ぁ飲んでる事も、実は気が引けてるよ。」



 カフェの前で別れる事になった。


(ソジンくん、実は優しいんだな…。)


 私は、期待と不安でいっぱいになりながら、真っ直ぐ家へと帰った。

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