第23話 表彰式

 電話の相手はミヨン先生の様だ。

母親が涙目になっている。


(もしかして?)


 心臓がぎゅーっと痛くなった。


「はい。代わりました。」


「アミさん!おめでとう!地方で金賞を取ったわよ!」


「あぁ!? はぁぁぁ〜。」


 暑い夏休みの間、学校に通ってヘトヘトになって書き上げた事や、ミンジュンの事など大変だった事が走馬灯の様に思い出された。

結果がどうなるのか?

といった緊張からの解放もあり、力が抜けてその場にへたり込んだ。


「このまま全国選考に送られるからね。」


「はい。」


「明日全校集会で賞状や記念品の授与があるから、式典用のリボンを忘れない様に持って来てね。」


「はい。分かりました。」


「あ、それから、少し感想とか話して貰うからちょっと考えておいてね。」


「え?言わなきゃダメですか?」


「今まで受賞した人はみんなスピーチしてたでしょ?」


「あぁ、そうですね。分かりました。」


「本当におめでとう!」


「ありがとうございます。」


「アミさんに声をかけた私も褒めてあげたいわ!今夜のお酒は最高に美味しいわよ!」



 電話を切り母親を見ると泣いていた。

心の底から嬉しかった。

母親と一緒に、単身赴任中の父親に電話をかけたら、今直ぐ飛んで来そうな勢いで喜んでくれた。

次の休みに帰るからお祝いをしよう!と言って行きたいお店を選ばせてくれる事になった。


(あ!ミンジュン先輩!どうなったのか聞き忘れた。)



――――――――――――――――

 ポケットに式典用のリボンが入っている。

嬉しくてニヤニヤするのを我慢するのが辛かった。

でも、全校生徒の前で話す事を考えると緊張する。

喜びと緊張。

様子がおかしいのは、自分でもわかる。



「ねぇ。アミ変じゃ無い?」


 ジアンが私を睨むと、ユンが続けた。


「やっぱり?変だよな。」


 昨日、LINEグループで伝えようとしてやめたんだよね。

びっくりさせてやろうと思って。


・ 

――――――――――――――――

 体育館に着くとナムシン先生に誘導された。

ジアン達は「どうしたの?」と困惑した。

先生達の列に行くとすでにミンジュンがいた。


(この人も獲ったんだ!?)


 ミンジュンの後ろに並び生徒達の方を向いてパイプ椅子に座わると、ちょうどユンが見えた。

お互いに気にして見ていて何度も目が合った。



「アミさんリボンは?」


 ミヨン先生が後ろから声を掛けてきた。



「あります。」


「貸して。」


 ミヨン先生に渡すとリボンを着けてくれた。

一連の流れを見ていたユンの顔が、みるみると嬉しそうな表情に変わって行った。

口パクで『もしかして』と言ったのを見て《うんうん》と頷くと、ユンの表情が一気に輝いた。



「では、続きまして今月の受賞者の発表です。前に出て来てください。」

教頭先生の言葉を合図に、ミンジュンと私は立ち上がり、舞台袖に上がった。


「今年の読書感想文、地方コンテストにて2人が入賞を果たしました。表彰式を行います。」


「では、3年4組クォン・ミンジュン」


「はい。」


「読書感想文地域コンテスト、銅賞。あなたは読書感想文地域コンテストにて優秀な成績を収められましたのでこれを賞します。」


 校長先生に賞状と記念品を貰い一礼する。


「では、クォンさん一言お願いします。」


「はい。まぁ、自分的には満足しています。3年の思い出になりました。ありがとうございました。」

一礼すると全校生徒から拍手を貰った。



「続きまして。」


「2年5組キム・アミ」


「はい。」


「読書感想文地方コンテスト、金賞。」


 生徒達が一気にざわついた。


「以下同文です。」


 一礼。


「では、キムさん。お願いします。」


「はい。 この様な賞を頂けて嬉しく思っています。応援してくれた皆さんに感謝しています。特に、私に本を読む場所を与えて下さった皆さん。本当にありがとうございました。」


 一礼をした瞬間、バスケ部男子のキャプテンが


「俺らの事じゃね?」


 と、言った。


 それを聞いたバスケ部男子の3年生達が

「おー!」

「だよな!?」

「いえーい!」

「すげー!」

と一斉に声をあげて、頭上で拍手をし沸き立った。


 その波はバスケ部男子の2年、1年と伝染して行き、呆気に取られていた他の生徒達も拍手をしてくれた。


 私はただ、ユンの笑顔が見られて幸せだった。



――――――――――――――――

「ちょっと言ってよー!それで変だったんじゃん!」


「アミ!金賞でしょ?マジですごいってー!」


 ジアンとソアが大騒ぎしている。


「記念品って何なの?」


 デヒョンの突拍子も無い質問に、笑ってしまった。


「何だろね…。万年筆だ!」


「おー。万年筆ー。」


 デヒョンは私の手から万年筆を取ると、キャップを取ったりはめたりして嬉しそうにした。


「あと、こっちは? 図書カードだ。金額やば!」


 1番額の高い図書カードだった。


 ユンが覗き込む。


「すげー。 良かったな(笑)」


 いつまでもニコニコと喜んでくれた。



――――――――――――――――

 ユンの全国制覇と、私の金賞のお祝いを6人でする事になった。

6人のスケジュールを合わせるのが至難の業で11月の末の日曜日になってしまった。


まず、映画を観に行き、その後カラオケでパーティーをした。


 4月の自己紹介でユンが、ラップが得意と言っていたので女子3人でねだって歌って貰った。

また新たな一面を見てしまい、私はさらにユンが好きになった。



 でもこの頃になると、私はユンとの曖昧な関係に疑問を感じる様になっていた。


 友達以上、恋人未満。

手を繋ぐ事以外は何も無い。

好きの言葉も聞いた事がない。

でも、ほぼ毎日会ったり電話で話したりする。


 付き合っているのか?

の、質問に

付き合って無い。

と、答えなきゃいけない事に不満を覚える。


 私はこんなに好きなのに。

ユンはどうなのか。

そろそろ言ってくれても良いのにな…


「付き合おう。」


の、一言を…。

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