第7話 大ファン‐カヤside‐
まさかあのイケメン男子が【ツインズ】だったなんて……。
しかもあたしが2人の付き人をしなきゃいけないなんて……。
考えただけでも気が重たくて、あたしは家までどう帰ったかも覚えていなかった。
気が付けば目の前に家があって、玄関を開けるとなにやら聞きなれた音楽が耳に届いてきた。
「ただいまぁ」
そう声をかけながらリビングのドアを開けると、ユズちゃんが少し興奮した様子でBlu-rayに見入っているのが見えた。
「何をそんなに真剣に見ているの?」
と、声をかけるとユズちゃんは「シッ! 黙って」と、人差し指を口元に当てた。
そこまでして見入っているのは一体なんだろう?
と思って画面へ視線を移す。
するとそこにはさっきショッピングモールで見た【ツインズ】のライブ映像が流れていたのだ。
「ユズちゃん、このBlu-ray買ったの!?」
驚いて、思わず大きな声を出してしまう。
「そうよ。歌が聞こえないから黙っていて」
ユズちゃんは画面から視線を外さずにあたしに向かってそう言った。
Blu-rayなんて繰り返し何度でも見ることができるのに、そこまでして観たいなんて……。
あたしはユズちゃんの心理が理解できず、首を傾げて画面を見つめた。
たしかにカッコいいとは思うけれど、その笑顔が嘘くさいというか。
いかにも作っていますという感じで、あたしは見ていてだんだんと胸やけがしてくる。
ショッピングモールで見た2人はもっとこう、人間らしかった。
口も悪いし態度もでかい。
ニッコリ笑うと王子様だけれど、それで女の子たちが何も言えなくなることをあの2人はきっと理解している。
「ユズちゃんって2人のファンなの?」
一旦歌が終わったところで、あたしはそう聞いた。
「そうよ。デビューした時から好きなの」
そう返事をするユズちゃんは頬を紅潮させて、目をキラキラと輝かせている。
まるで本物の恋する乙女みたいだ。
ユズちゃん、恋とは実際に手の届く人とするものであって、テレビの中の人とするものじゃないと思うよ。
と、あたしは心の中で思う。
そんな事をうっかり口にしてしまうと、あたしはユズちゃんに半殺しにされるだろうから絶対に言わないけれど。
「もしかしてカヤも【ツインズ】のファンなの?」
「やめてよ。あんな顔がいいだけの双子なんて絶対に好きにならない」
ケッと吐き捨てるように言うと、ユズちゃんの表情が一変した。
今まで【ツインズ】のBlu-rayでご機嫌だったのに、今は眉を吊り上げてこちらを睨み付けている。
あ、やばい。
つい本音が口をついて出てしまった。
「じゃ、じゃぁあたしは着替えでもしようかな」
あたしは恐怖にひきつった笑顔を浮かべリビングを出ようとする。
しかし、ユズちゃんはそんなか弱いあたしの首根っこを掴んで引き止めた。
ユズちゃんはそのままあたしをズルズルと引きずり、あたしの体をソファへと投げた。
「痛っ!!」
ドンッと堅いソファに身を打ち付けられて顔をゆがめる。
っていうか、そんな怪力一体どこから出てくるのよ。
いくらお怒りといえおかしいでしょう。
しかしそんなことはおかまいなしに、鬼の形相のユズちゃんはバキバキと指を鳴らしながら近づいてくる。
「ユ……ユズちゃん落ち着いて! あたしの話を聞いて!!」
冷静になれば指を鳴らす必要なんてきっとないハズだ。
あぁ、でもなんて説明すればいいんだろう?
昨日ソフトクリームをぶちまけてしまった相手は平野晴で、今日【ツインズ】の2人に会って来ました。
あの2人きっと性格悪いよ?
だからユズちゃんもやめとけば?
……なんて、言えるわけがない!
ジリジリと距離を詰めてくるユズちゃん。
あたしはソファの上に仰向けのまま、這うようにして距離を開ける。
しかし……。
ガシッ!とユズちゃんがあたしの肩を掴んだ。
「ひっ!!」
顔面蒼白。
目の前にいるのはユズちゃんではない、殺人鬼だ!
今まさにユズちゃんは自我を失い、あたしを死に至らしめようとしている!!
ユズちゃんの鉄拳が飛んでくるのが目に入る。
咄嗟に両腕で顔をガードする。
腕に衝撃が走りビリビリと電気が走る。
あたしは顔をゆがめ、腕を抑えた。
その隙を狙ってユズちゃんの2発目が飛んでくる。
「うっそだぁ……」
あたしの半泣き声が部屋に聞こえると同時に鼻っ面に重たい激痛が走り、本日2度目の大量出血をしたのだった。
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