第5話 双子アイドル

ショッピングモール内にある【立ち入り禁止】とプレートのかかった扉をバンッ!と開くと、イケメン君はその中へと突き進んで行った。


「ちょ……ちょっと、ここは立ち入り禁止だよ!」

「うるさい、入れ」

グイッと手を引かれて中へ入ると、後ろ手に扉が閉まった。


立ち入り禁止の扉の中は6畳ほどの部屋になっていて、ソファとテレビが置かれている。

ソファには見たこともない男性の後頭部だけがのぞいて見えた。


そ、その人はイケメン君の仲間とか?

ま、まさかここまま監禁されるとか!?


そう思いビクビクしていると、ソファに座っていた男が立ちあがり、振り向いた。

「え……?」


あたしはその人の顔に目を丸くし、それからなんども目をこすった。

あたしの身間違い……じゃ、ないよね?


あたしの手を握っているイケメン君と全く同じ顔が、そこにあったのだ。

「分身時の術?」

「そんなワケないだろ」

あたしの手を握っている……晴が、そう言ってため息をはき出す。


それを聞いていたソファの方のイケメン君が、ぶっ! と、ふきだして笑った。

「だ、だってそっくり!!」

「双子なんだよ俺たちは。俺は晴。そっちは弟の圭」


「へぁ~……」

あたしはイケメン双子に口をあんぐりと開けて、思考回路を停止させた。

この世界に姿形が全く同じ超絶イケメンがいるなんて、知らなかった……。

「君……カヤちゃんだっけ? 本当に俺たちのこと知らないの?」


圭があたしの名前を馴れ馴れしく読んでそう聞いてくる。

「はぁ……知りませんけど。初対面ですよね?」

小首をかしげてそう答えると、圭はまたブハッ!と笑い始めた。


どうやら笑い上戸みたいだ。

「確かにカヤちゃんの言う通り俺たちは初対面だね」

「ですよね? なにがそんなに可笑しいんです?」


そう言いながら、あたしは晴と圭を交互に見る。

「まぁ、お前はここに座れ」

晴がそう言い、あたしをソファへと座らせた。


うわぁ! フカフカだ!

家にもソファはあるけれど、ここまで身が沈むようなソファじゃない。

お母さんがセール品で見つけて買ってきたヤツだしね。


なんて、感心している場合ではない。

見知らぬ男2人と知らない部屋にいるというこの状況は、とてつもなく危ないハズだ。


「あの、この部屋ってなんなんですか?」

「この部屋は俺たちが休むための部屋だ」

「はぁ……」

って、そんな説明じゃ全然わかんないし!!


「晴、ちゃんと説明してあげなきゃカヤちゃん理解してないよ?」

圭がそう言い、あたしは何度もうんうんと頷いた。

「俺たちはこのショッピングモールに寄付をしている。だから、俺たち専用の部屋がある。わかるか?」


「へぇ……」

晴の言葉にあたしはまたもポカンとしてしまう。

寄付って……あたしと同い年くらいの子が?


できても数百円くらいなものでしょ?

「ダメだ理解してない。圭、Blu-rayを流せ」

「へいよ」


晴に言われ、圭は立ちあがって何かのBlu-rayをデッキにセッティングした。

そしてすぐに流れ始めた曲にはどこかで聞き覚えがあった。

「あれ? この曲知ってるような……知らないような?」


よくわからなくて、首をかしげる。

「ここまで知らないとなると、いい加減腹が立って来るな」

晴がそう言い、あたしの頭をボンッ!とクッションで叩いた。


「なにするのよ、痛いじゃない!」

「痛くないだろ、クッションなんだから」

「痛いものは痛い!!」


「うるさいな、グーで殴るぞお前」

「なんでよ!」


そんな言い合いをしていると、テレビ画面には【ツインズ夏コンサート】という文字が現れ、そしてステージ上に立っている2人のイケメン君がアップで写しだされた。


「あ、ツインズかぁ。友達が大好きだけどあたしはイマイチで、よく知らないんだよね。他にBlu-rayないの?」

あたしがそう言い画面から視線を離すと、2人の厳しい視線が突き刺さった。

な、なんですかこの威圧感は。


今まで感じたことのない、あのムキムキな2人とは比べ物にならないくらいの圧迫感に、あたしは深呼吸を繰り返した。

あれ?

この2人やっぱりどこかで見たことがあるような気がする。

どこだっけ?


つい最近見たことがあるような気がするんだけれど……。

そう思い、チラッと画面に視線を戻す。

え……?


あたしは画面に出ている【ツインズ】と目の前にいる双子を交互に見た。

「【ツインズ】の……そっくりさん?」

あはっと笑顔を浮かべてそう言うと、晴の拳があたしの頭に落ちた。


それはまるで空から隕石が降ってきてあたしの脳天に直撃したような衝撃だった。

「いったぁぁぁい!!」

今度こそ本当に痛い。

頭がズキズキと全身に痛いよ痛いよとSOSを送っている。


あたしはその場にうずくまりそうになるのをなんとか耐えて、2人を見た。

「まさか……2人って……」

「「俺たちは【ツインズ】だ」」


2人の声は綺麗にハモり、あたしはぶっ!と鼻血を吹き出した。

朦朧とする意識の中、【ツインズ】の2人が慌ててティッシュを持ってくる姿がほんの少しだけ見えたのだった。

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