第2話 遊び相手‐晴side‐

ブランド服の背中にベッタリとソフトクリームがついた俺は、デートの約束をすっぽかして家に帰ってきていた。

観音開きの大きな玄関を入り、真正面にあるリビングのドアを開く。


30畳ほどの広さがあるリビングには長いソファが置かれていて、壁掛けの大画面テレビが設置されている。

そのソファに座っていた弟の圭(ケイ)が、振り向いた。


「あれ、晴(セイ)もう帰って来たの?」

そう聞いてくる圭の顔は俺と瓜二つ。

顔だけじゃない、身長も体重もおれたちはほぼ同じの、一卵性双生児なのだ。


俺の名前は平野晴(ヒラノ セイ)。

弟の圭と共に16歳の高校1年生だ。

「あぁ、今日は散々な目にあったんだ」


俺はそう返事をして、ソフトクリームがついた背中を見せた。

圭は目をパチクリさせて「それだけで帰って来たの?」と、言った。


「あぁ、そうだ」

そう答えた時、丁度家のメイドが新しい服を持ってきたので、汚れたトップスを脱いだ。

「服なんてすぐに買えばいいのに。ショッピングモールが待ち合わせでしょ?」


「そう思ったけど、予定を変更した」

「変更? 相手の女が待っているのに?」

「あいつはもうやめた。もっと面白い女を見つけたんだ」


「面白い女?」

圭が小首を傾げて俺を見てくる。

俺は新しい服を身につけてから、ズボンのポケットからスマホを取り出した。


「松井カヤ」

俺はソフトクリーム女の事を思い出し、登録ページを圭に見せた。


「へぇ……。それが晴の次の遊び相手?」

「そういうこと」

「ってことは、美人なんだ?」


「いや。どちらかというと可愛い系だな。華奢で色白、色素の薄い茶色い目に、ストレードロングの艶のある髪」

松井カヤの外見を思い出して圭に説明しながら、俺はソファに座り目の前のテーブルに足を投げ出した。


「それに、面白そうな女だった」

「面白そう?」

「あぁ。俺を見ていきなり鼻血ふいたり、ティッシュを鼻に詰めたままトイレから出てきたり」


その時の光景を思い出して、俺は思わず1人で噴き出した。


普通、鼻血が止まったらティッシュは捨てて出てくるだろう。

デート中だったみたいだし、あんな格好で男の前に戻ってくるとかあり得ないだろ。


「その女って本当に可愛いの? 離しを聞くかぎりじゃ見た目を気にしていない妙な女としか思えないけど」

圭がそう言い、眉間にシワを寄せる。


「確かに見た目は気にしてないかもな。っていうか、自覚してなさそうだな」

「自分が可愛いってことを?」

「そういうこと」

じゃなきゃ鼻にティッシュなんてやんねーだろ。


「まぁ、見てろよ圭」

「ん?」

「すぐに松井カヤって女をオトしてここへ連れて来てやる」


俺がそう言うと、圭はおかしそうに声をあげて笑った。

「そうだね、晴なら一週間? いや、3日ってところかな?」


「当たり前だろ? だって俺たちは【ツインズ】なんだからな」

そう言い、俺は音楽番組が始まったテレビ画面に目を写した。


テレビの画面には【今をトキメク大人気アイドル“ツインズ”新作発表!】というテロップが出ている。

そして文字の奥に映るのは……俺たち、平野兄弟だ。


ニューシングルの煌びやかな衣装を着た圭と俺が写っている。

「まぁまぁだね」

画面の中で歌って踊る自分たちを見て、圭がそう言う。


「あぁ。俺たちはもっと輝けるハズだ」

客晴の黄色い歓声を聞きながら、俺はスマホをポケットにしまったのだった。

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