双子アイドルは俺様暴走族!
西羽咲 花月
第1話 あたしと彼とソフトクリームと
中央に芝生広場のある大きなショッピングモール。
今日は彼氏の安田ハジメ(ヤスダ ハジメ)と一緒に休日デート。
天気もいいし、芝生も気持ちいいし、大好きなソフトクリーム屋さんも出ていて大満足!
だったんだけれど……。
どうしてあたしは今、目の前にいる見ず知らずのイケメンに頭を下げて謝っているの……?
「いいっていいて、気にしないで?」
イケメンのその言葉にあたしはホッと胸をなで下ろして顔を上げた。
って、ちょっと待って?
だからどうしてあたしが頭なんか下げて……。
「この服ブランドものだけど、気にしないで」
そう言い、あたしが食べていたソフトクリームがベッタリとついてしまった服を見せる。
「……本当に……ごめんなさい!!」
あたしは再び深く深く頭をさげた。
あれ、おかしいな?
たしかハジメと一緒にソフトクリームを買って、ベンチに座って食べようとしたんだよね?
うんうん。
それで移動していたら急に目の前を歩いていた男の人が立ち止まって、それであたしがソフトクリームごとその人にぶつかってしまったと……。
ついさっきまでの出来事を呼びさまし、あたしは『その人』であるイケメンを見た。
中肉長身でスタイル抜群。
ふわふわした栗色の髪に大きな黒目。
スッと通った鼻筋にきめ細やかな肌……。
うわ。
完璧。
太陽の光を浴びて更にキラキラと輝くイケメンに目がくらむ。
でも、待って?
さっきのあたしの記憶だと、あたしって別になにも悪くないよね?
確かにぶつかったのはあたしだけれど、突然立ち止まったイケメンにだって非はある。
「あ、あのですねぇ……」
「ん、なに?」
『なに?』と、エクボを見えて小首をかしげるイケメン。
その可愛さにブハッとあたしは鼻血を吹き出した。
「あはは、鼻血出てるよ? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
両手で鼻を覆い、ドクドクと流れ出す鼻血を止めようと試みる。
しかし全く止まる気配はない。
仕方ない。
なんだか理不尽だけれど、貧血で倒れてしまう前にここは退散したほうがよさそうだ。
あたしはイケメンに軽くお辞儀をして、近くのトイレへむけてタタッとかけだした。
早く止血してハジメとのデートを楽しまなきゃ。
☆☆☆
トイレに駆け込んだものの、休日ショッピングモールの女子トイレは長蛇の列。
中で一体なにをしているんだ!
と、怒鳴ってしまいたくなるほどの混雑だ。
とにかく水で顔を洗いたいあたしはグイグイと人ごみをかき分けて、手洗い場までやってきた。
しかし、手洗い場はお化粧直しで忙しいご婦人でこれまたごった返している。
そんなにファンデーションを塗ったって土台が悪いから変化なんてねぇよ!!
なんて心の中で暴言を吐きながらも、ニコニコと微笑んでその後ろに並んだ。
血はいまだドクドクと流れていて、血だまりができてしまいそうだ。
するとそんな様子に気がついたご婦人の1人が「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げ、その拍子に塗りかけの口紅が鼻にスポッと入ってしまった。
口紅、ナイスゴール!
なんて思っているとご婦人は慌てふためきながらトイレを出て行ってしまった。
これはラッキー。
あたしは空いたスペースに体を滑り込ませ、鏡に自分の顔を映した。
うわっ。
これは逃げられてもおかしくないかも。
あたしの顔は鼻から下が血まみれになっていて、パッと見事故死した幽霊に見えなくもない。
あたしはバッグからティッシュを取り出してキュキュッと鼻に突っ込んだ。
次にハンカチを取り出し、花柄のお気に入りに「ご愁傷様」と、手を合わせてから水を含ませ、顔をふいた。
お気に入りの白いハンカチはあっという間に真っ赤に染まって行く。
「あーあ。あのイケメンのせいでソフトクリームもハンカチも台無しだわ」
そう言い、落ちたファンデーションを塗りなおす。
そうこうしている間に鼻血は止まったみたいで、あたしはホッとしてトイレを出た。
「カヤ、大丈夫?」
トイレを出てすぐに心配そうに声をかけてくれたのは、あたし、松井カヤ(マツイ カヤ)の愛しのダーリン。
さっきのイケメン君と並んでみても引けを取らない美形彼氏。
高校に入学して最初の頃は一の顔見るだけで鼻血を吹いていたけれど、それから半年たった今はさすがにもう慣れていた。
「大丈夫、大丈夫」
あたしは鼻にティッシュを詰めたままの鼻声でそう返事をした。
「そっか、よかった。もう一度ソフトクリーム食べる?」
「もちろん!!」
ハジメの言葉にあたしは大きく頷いたのだった。
☆☆☆
そして、再びソフトクリーム屋さんの前まで来たとき、つきさっき見たばかりの背中を見つけた。
うわ……まだこんなところにいたんですか、あなた。
ブランドものの服を違和感なく着こなし、ただそこに立っているだけで周囲の女の子を釘づけにしてしまうような、完璧なイケメンオーラを放っている。
あたしがその後ろ姿にたじろいていると、ハジメもそれに気が付いた。
「俺が代わりに買ってこようか?」
「う……あ……お願いできますか……」
本当はもう1度並んでもいいかなぁと思っていたところだけれども、あたしは大人しくハジメにがま口財布を渡すことにした。
すべてをハジメに託したあたしはイケメン君の視界に入らないように、回れ右をした。
さて、今度こそハジメと一緒にソフトクリームを食べるんだ。
どこに座って食べようかなぁ。
そう思い、いくつか開いている木製のベンチをキョロキョロと見回す。
と、その時だった。
トンッと肩を叩かれた。
「ソフトクリームもう買えたの?」
案外早く買えたんだね!
と、言葉を続けようとしたけれど、振り向いてあたしは黙り込んだ。
はっ……なんで……?
目の前にはさっきのイケメン君。
いやらしいくらいの笑顔を浮かべてあたしを見下ろしている。
「な……なんか用ですか?」
「鼻血止まった?」
イケメン君があたしの鼻の頭をツンッとつついてそう聞いてきた。
あ、まだ鼻センしたままだった。
こんなイケメンの前で恥ずかしいなぁ……。
なんて思っても、目の前で鼻血まみれのティッシュを鼻から引っこ抜くワケにはいかなくて「まぁまぁ、大丈夫です」と、返事をした。
「そっか。よかった」
ニッコリとほほ笑むと、そこだけ爽やかな風がふく。
うぅ……なんだ、この少女漫画の中のイケメン男子的な風効果は!!
再び鼻血を吹きそうになっていると、イケメン君があたしの目の前に手のひらを差し出してきた。
な、なんだろう……?
なにか欲しいのかな?
はっ!!
まさかクリーニング代とか!?
でも今日はそんな大金持ってきてないし……。
お小遣いはデートや遊びに消えちゃうし……。
あたしはう~ん……と、うなり声を上げて、そして意を決して差し出された手に自分の右手を乗せた。
そして……。
「ワン!」
と、言ってみた。
犬のお手だ。
こんなことで許されるとは思っていない。
だけどお金はない。
お手をしたままイケメン君の顔をチラチラと盗み見る。
「おかわり」
「ワン!」
「もう一度お手」
「ワン!」
「一回まわってワン」
あたしはイケメン君の前でクルッとターンして
「……ワン!」
と、鳴いた。
ふわっと天使のようにほほ笑むイケメン君。
ゆ、許してくれた!?
と、思っていたのにイケメン君はいきなりあたしの鞄を奪い取ったのだ。
「あぁっ! 何するの!」
「俺は君に犬になってもらいたいワケじゃないんだよ」
そう言い、イケメン君はあたしの鞄を勝手に開けて中をあさり始めた。
「ちょっ……ちょっと返してよ!!」
「やだね」
イケメン君はその長身を利用してバッグを頭上へと持ちあげた。
あぁ、これじゃぁ届かないよ!!
ピョンピョンと飛び上がり、必死にバッグを取り返そうとするがちっとも届かない。
その間にイケメン君はあたしのバッグからスマホを取り出し、なにやらいじり始めてしまった。
「や……やめてぇ……!!」
金がないなら個人情報を売れってこと!?
友達のアドレス!?
あたしと一の恥ずかしすぎるくらいのラブラブメール!?
「メールだけはご勘弁をぉぉ!!」
と、友達の個人情報を売りさばき自分の恥部を死守しようとしたとき、イケメン君がポンッとスマホを投げてよこした。
スポンッとあたしの手の中におさまる愛しのスマホ。
あぁぁぁぁよかった! 戻ってきた!!
「俺の番号入れておいたから、電話やメールにはちゃんと返事をすること。いい?」
「へ……?」
キョトンとしてイケメン君を見つめるあたし。
イケメン君は膝を曲げてあたしの身長と同じになると、また鼻の頭をつんっとつついてきた。
「い・い・ね・?」
「は……はい! いいです! いいともー!」
ふわりと甘い香水の匂いがイケメン君が漂ってくる。
そんな距離感にあたしの頭は爆発寸前。
イケメン君はあたしの返事に満足そうにほほ笑み、バッグをあたしに返すとすぐに背中を向けて歩いて行ってしまった。
あたしはその後ろ姿を見送り、その場にへなへなと座り込んでしまったのだった。
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