Ⅱ
ザシェが初めて受け持ったのは、ボロボロの兎のぬいぐるみを抱え啜り泣く幼い少女であった。
「小宮志穂、享年7歳。
ようこそ天国へ、涙はこの地に似合いません。幼い君、どうか笑ってくれませんか」
少女は両親の眼前で事故に遭いその短い生涯に幕を下ろした。寂しいと嘆く彼女の思いは、下界に遺された両親と同じものであろう。
「貴方が両親に再び会えることを、約束します。ですから今は、下界の疲れを癒し今一度安らかな一時に身を投じてください」
書類を受け取った彼女の背中を、見えない何かが押していく。それは、泣き喚く彼女の足取りの重さとは反対に風に乗せるかのごとき軽さで安息へと少女を運んでいった。
ひそ、と誰かが呟いた。
あのような力他の天使には無い、と。
ザシェは顔を上げて強ばった表情で首を横に振った。自分の力ではない、と主張するように。
実際にザシェは何もしていない。むしろ泣くだけでその場を動こうとしない少女に困り果て、少しでも少女の涙を晴らそうとその場で尽力していたというのに。
噂はみるみる広がった。
ザシェ。悪魔の姿の天使。
死者の意思を汲まずにその身を押し退ける非道な心の主。天使ならざる力を使う者。
いよいよ誰も、ザシェに近づかなくことは無くなった。しまいには神にその指導鞭撻を任されているサカリエルでさえ、ザシェの顔をまともに見ようとはしなくなった。
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