第42話 究極の選択

 「……ハッ」


 魔王の魔法が直撃し、存命を疑われたヴァルツ。

 それでも、土煙の中から無事な姿を見せる。


「ヴァルツ、君……?」

「二度と負けないんじゃなかったのか」


 だがそのヴァルツは、今までとはどこか違った雰囲気を持っていた。


「フッ」


 今のヴァルツは、本来の魂が体を乗っ取った形。

 修行時代に一度だけ見せた姿だ。


「ヴァルツ君、無事だったんだね!」

「……フン」

「!」


 魔法が直撃したヴァルツの部位。

 そこから、ボロボロっと武器の破片が落ちてくる。

 魔王の魔法により、懐刀が崩壊したのだ。


「……」


 その懐刀は、父──ウィンド・ブランシュから授かった物。

 それが身をていしたのか、魔王の魔法を防ぎ、ヴァルツの体が崩壊することなく済んだようだ。


「……フッ」


 何を思ったか、ヴァルツは口角を少し上げた。

 それでも、心の内を口から出すことはなく。


 次に発したのは、意味深な言葉。


「これがお前・・の未来の結果か」


 それは誰に向けて放った言葉か。

 ヴァルツは胸に手を当てた。


 そうして、魔王が再び声を上げる。


い者よ≫

「……」

≪運が良い。だが──≫


 魔王が再び魔法を詠唱する。


「……!」


 ヴァルツはとっさに反応し、後退する。

 えつひたっている場合ではない。

 ここはまだ戦場なのだ。


「光野郎」

「え、僕!?」

「下がれ。死ぬぞ」

「う、うん!」


 また、同時にルシアへも指示を出す。

 そんな中で魔王が魔法を発動させた。


≪【邪龍】≫

「「……ッ!」」


 魔王の手から放出されるは、龍。

 邪悪な色を放ち、絶望を感じさせる邪龍だ。

 魔王と同じように、体が全て【闇】の魔力で構成されているようだ。


≪オオオオォォッ!≫


 【邪龍】は一直線にヴァルツへ向かう。


「ヴァルツ君!」

「……」


 だが、ヴァルツはそれを──


「その程度か?」


 頭を上から抑えつけ、【闇】の【弱体化】で破壊。


 動き。

 とっさの判断。

 限りなく正解に近い行動。


 今の一瞬の攻防だけでも、圧倒的戦闘センスが光る。


≪ほう≫


 これには魔王も少し目を見開いた。


 先ほどまでとは何かが違う。

 そうとらえたようだ。


≪では、これはどうかな≫

「どれだけ来ようが雑魚は雑魚だ」


 さらに魔力を強める魔王。


 対して、ヴァルツは迎え撃つ構えだ。

 そしてルシアにも指示を出した。


「今は防御だけに専念しろ」

「え、でも……!」

「黙れ。平民がほざくな」


 ヴァルツには考えがあるようだ。


「機は訪れる」







 一方その頃。


「ここは……」


 ヴァルツの体に転生した少年。

 彼はふと目を覚まし、辺りを見渡した。


「そうか」


 そして確信する。

 

 何もない空間。

 無限に広がる暗闇。


 ここは前に一度落ちた、ヴァルツの精神世界のようなものだと。


「僕は……」


 そんな中で、少年は己の行動を振り返る。

 

 ヒーローになりたい。

 傲慢ごうまんな態度に強制されるヴァルツの体でも、その気持ちを忘れたことはない。


「……」


 だからこそ、ごうを受け入れた。


 魔王からみんなを守るため、王都民から魔力を奪った。

 だが、それでも届かなかった。

 

 しかし、ふと声が聞こえてくる。


『おい』


 それは間違いなくヴァルツの声。

 冷淡で、傲慢なヴァルツの声だ。


『なに寝ぼけてやがる』

「……!」

『お前はまだ死んじゃいねえ』

「……あ」


 本来のヴァルツに言われ、思考を巡らせる少年。

 ヴァルツの体と同期しているからか、魔王の魔法はまぬがれたことを理解する。


 そうして、ヴァルツは問う。


『お前はどうなりたい』

「僕は……」 





 


 再び、戦場。


≪よくねばる≫

「チッ!」


 魔王の手から次々と飛び出される魔法。

 【邪龍】、【邪虎】、【邪鮫】など、全てが生きた魔物のようにヴァルツ達をおそう。


 ヴァルツとルシアは、対処するのに精一杯だ。


≪いつまで続くものか≫

「その口もそろそろうぜえ」


 なんとか致命傷は避けている。

 だが、疲労、長く続く戦闘のダメージが重くのしかかる。

 すでにボロボロの体をなんとか動かしているのだ。


「ヴァルツ君、どうすれば!」

「黙ってろ」


 だが、天才的な頭脳を持つ本来のヴァルツ。

 当然、ただ受け身なわけではない。


(考えられる対抗手段はおよそ60……)


 一瞬のすきが生死を左右する攻防。

 その間にも、頭では着実に作戦を立てている。

 やはり知能は抜群のものを持つ。


(その内、有効な手段は──)


 しかし、その明晰めいせきな頭脳がゆえに理解してしまう。

 

ゼロ・・……か)


 現状、勝てる手段が無い・・という事実に。


 【闇】だけならばまだしも、【光】まで得てしまった魔王。

 持っている魔力は文字通りのけた違い。


 何十回、何百回と脳内でシミュレーションをした。

 だが、何をどうしても勝てるビジョンは見えない。


「フッ」


 その客観的事実に、思わず笑ってしまうヴァルツ。


 それでも、この男は傲慢ごうまん

 確定した未来をただ進むような男ではない。


 『勝てる手段がゼロ』という事実。

 しかしそれは、犠牲を考えなかった・・・・・・・・・場合の話だ。


「おい」

「どうしたの!」


 激しい攻防の中、ルシアへ声を上げるヴァルツ。

 説明も後に、ヴァルツはそのまま突きつける。


「てめえはどっちだ」


 その究極の選択・・・・・を。


「勝ちたいのか、死にたくないのか」

「……!」

「──選べ」


 勝つならば死ぬ。

 死にたくなければ勝てない。


 これはそう聞いているのと同じ。


「僕は……」


 対して、ルシアの回答は──。

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