第44話 最後の魔法
「勝ちたいのか、死にたくないのか、選べ」
ヴァルツからルシアへ。
その究極の選択を突きつける。
「僕は──」
対するルシアは、まさに
「僕は勝ちたい」
「……!」
一瞬の迷いすらなく答えてみせたのだ。
「フッ」
今のヴァルツの人格は本来のもの。
その
「悪くない答えだ」
そんなヴァルツが笑った。
彼もまたルシアを認めていたのかもしれない。
「ならば、言う通りにしろ」
「うん……!」
そうして、ヴァルツはルシアへ指示を与えた。
全ては魔王に勝つために。
「魂を全て【太陽】に
★
<ヴァルツ視点>
ずっと続く暗闇の中。
僕は本来のヴァルツと対話をしていた。
『お前はどうなりたい』
「僕は……」
でも、その答えは決まっている。
初めからずっと変わらないものだから。
「みんなを守るヒーローになりたい」
『……フッ。悪くない』
ヴァルツが笑った。
傲慢で、決して笑顔を見せないようなあのヴァルツが。
「ヴァルツ……」
その様子がなんとなく
だから僕は聞いた。
「君に聞きたいことがあるんだ」
『……なんだ』
何度も考えたことがある。
以前、人格を乗っ取られた時、どうしてまた僕に返したのだろうと。
あの時、君は『長くは持たない』と言っていた。
でも、実はあのまま返さないこともできたんじゃないかと思う。
だけど、その答えがようやく分かった。
同じ体だからか、嫌でも君の感情が伝わってくるんだ。
「君は寂しかったんじゃないか?」
『……!』
君はずっと孤独なままだった。
だからこそ、傲慢な口調ながら周りを気にかける僕に体を返してくれた。
君は本性をさらけ出せない。
それでも、周りに人がいることに温かさを感じたかったから。
『……』
原作最後の「俺は……!」というセリフ。
あれはプレイヤーであるルシアが、複数人でヴァルツと
「俺はお前らみたいになりたかった」。
あれはそう言いたかったんだと思う。
それでも、ヴァルツは最後まで肯定はしなかった。
『そんなわけねえだろ』
「そっか」
だけど伝わってくる。
おそらく本音を隠していることを。
最後まで傲慢な奴だよ、君は。
『直に俺は消える』
「……うん」
『見せてみろよ。お前の行き着く先を』
暗闇が次第に明るくなっていく。
そんな中、おぼろげに聞こえたような気がした。
それは、傲慢なヴァルツからは決して聞けないような優しい言葉。
『お前は間違いなくヒーローだ。俺も救われた一人だからな』
そうして、視界が白色に
★
「……ッ!」
目の前が一気にクリアになる。
ここは学院。
僕は戻ってきたんだ。
そして、前方には──魔王。
≪終わらせようぞ、この戦いを≫
「
口調が強制されない。
やはりそうか。
本来のヴァルツは消えたんだ。
最後に
「君の力、使わせてもらうよ」
体の奥底に感じる魔力。
このとてつもなく深い【闇】。
明らかに今までのものとは違う。
僕はそれを右手に宿す。
「──【
それと共に伝わってくる。
ヴァルツの最後の伝言だ。
『てめえの【闇】が覚醒しないのは、お前が“本質的な悪”ではないからだ。そんな役は俺に任せておけばいい』
ヴァルツは自らの魂を捧げて、【闇】を【太陰】に覚醒させた。
そして、もう一つ。
「ルシア」
すでにルシアの姿はない。
代わりに浮かぶのは【太陽】の巨大な
彼もまた魂を捧げたんだ。
僕に【太陽】を授けるために。
「……ありがとう」
僕がヴァルツの精神世界に落ちている間の出来事。
それがヴァルツの記憶を通して伝わってくる。
ヴァルツは今のままでは『勝ち目がない』と踏んだ。
誰より優れた頭脳だ。
おそらくそれは正しかったのだろう。
だからこそ、ルシアの魂、そして自身の魂を犠牲にした。
【太陽】と【太陰】を僕に授けるために。
ヴァルツは【太陰】に覚醒させることはできた。
それでも、【太陽】を操ることはできない。
【光】と【闇】。
二つを操ってきたのは僕だ。
同時に扱うのは僕にしか出来ない。
だから二人は託してくれた。
【太陽】と【太陰】という特別な属性を。
「……っ」
泣いている暇など無い。
二人の想いに報いるためにも。
≪な、なんだそれは……!≫
見たことがないであろう覚醒属性。
魔王は焦った様子を見せる
≪
「……!」
魔王が魔力を溜める。
これまでで一番の大きさだ。
≪見せてやろう≫
「望むところだ……!」
ここで勝負が決まる。
≪【破滅の闇】≫
魔王が最後の魔法を放った。
それは学院全てを
今までの比ではない。
「……ふぅ」
対して僕は、【太陽】と【太陰】を融合した。
「お前の敗因を教えてやる」
全ての属性の始まりとされる【光】と【闇】。
その覚醒属性である【太陽】と【太陰】。
双極であるはずの二つの属性が交わり、爆発的な力を生む。
「想いの力だ」
ヴァルツ、ルシア。
僕の周りにいてくれた人たち。
そして、王都の人々。
全ての魔力が今、僕の体に乗っている。
「──【
これまでの集大成。
全ての想いが乗った魔法だ。
≪ぐうおおおおおおおおお≫
「はあああああああああ!」
二つの魔法が宙でぶつかる。
僕の後ろは学院、そして王都がある。
僕が負けることがあれば、王都は消えてなくなるだろう。
──それでも、負けるはずがない。
「うおおおおおおおおおお!」
≪……!≫
ほんの少し、僕の魔法が押した。
それを機に一気に決着はつく。
「終わりだあああああ!!」
≪バカな……!≫
まばゆい光を放つ【太陽】。
その二つが入り混じった【
唯一無二の色をした魔法が、魔王もろとも突き抜ける。
それはやがて王都の空を貫いた。
「……!」
魔王が発動させた各地の魔法陣が消え失せる。
それと同時に、僕も魔力を使い切って【
「空が……」
そして、空が晴れる。
さっきまでの暗い世界はどこかへ行き、代わりにまぶしい陽が差し込んだ。
「勝ったんだな、僕は」
だけど、それと同じぐらい喪失感は残った。
「ヴァルツ、ルシア……」
失ったものは大きい。
それでも、前を向いて歩かなければならない。
彼らが託してくれた未来のために。
僕には守ったものもあるのだから。
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次で最終話です。
更新しておりますのでぜひ↓より。
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