第41話 笑えない冗談

 「二人で倒そう……!」


 もう一手がほしい。

 そんな場面にルシアが駆けつける。


「ハッ、いらねえよ……!」


 対して傲慢ごうまんな声を上げるヴァルツ。

 だが、その表情はニヤリとしている。


(いける! ルシアとなら!)


 苦戦を強いられていたヴァルツに、ついに反撃の狼煙のろしが上がる。

 

「足は引っ張んじゃねえぞ!」

「もちろんだよ!」


 ヴァルツとルシア、二人は同時に動き出した。

 正反対に見えて、かかげる思いは同じの二人。

 何度か共闘や対決を繰り返してきたことで、お互いの意志は完全に通じ合っていた。


「【光・身体強化】」

「【太陽・身体強化】」


 準備を整え、魔王へ一心に向かっていく。

 その中で、ヴァルツが指示を出す。


「あいつに物理は通じねえ」

「……!」

「だから俺がやる」

「わかった!」


 相変わらずの口下手だ。

 それでも、ルシアはヴァルツの意思をみ取った。


 ルシアは有効な魔法攻撃は持っていない。

 ならばと自らのやるべきことを理解する。


 ルシアが隙を作り、ヴァルツが大規模魔法を決める。

 二人の作戦が固まった。


「うおおおおおおお!」

 

 【太陽】の恩恵により、速さにおいてはトップのルシア。

 その剣閃はまさに一点突破の構えだ。


 しかし魔王からすれば、真正面から向かってくるなどもってのほか。


≪愚策≫

「いいや?」

 

 ──ヴァルツがいなければ・・・・・の話だが。


≪……!≫

「悪くない」


 ルシアはあくまでおとり

 あえて真正面から行くことで、ヴァルツが別方向から攻撃できるのだ。


「死ね」(くらえ!!)


 ヴァルツはその手に込めた魔法を解放する。


「──【混沌の魔力カオスマター】」


 【闇】と【光】が入り混じった球。

 これは、暴走したキュオネの魔力を喰らい尽くした時の技だ。


 最初は小さな球だが、相手の魔力をむさぼるほどに大きくなり、やがて相手の魔力がれるまで体内で暴れ続ける。

 

 だが、今回は違う点・・・が一つ。


「特別サービスだ」


 最初から巨大な球ということ。

 王都民から預かった魔力の恩恵だ。

 当然、球が大きいほど喰らう魔力は大きくなる。


「さあ、悲鳴を聞かせてみろ」


 ──それが魔王に直撃する。


「……!」

「やった……!?」


 目を見開くヴァルツとルシア。

 「【混沌の魔力カオスマター】」はその性質上、魔力が尽きるまで消えない。

 当たれば勝ち確定の技。


 ──のはずだった。


≪これごときが、奥の手だと?≫

「「……ッ!」」


 直撃したはずの【混沌の魔力カオスマター】。

 それがなぜか消失した。


「……ハッ」


 技の開発者であるヴァルツは理解した。

 起きるはずがないと考えて履いたが、この技には解決法が一つだけ存在する。


「ぶつけ合ったか……!」

≪ほう。見抜くか≫


 それは「【混沌の魔力カオスマター】」同士で喰い合うこと。

 互いに魔力を喰らう性質を持った球は、ぶつかり合えば互いに消える。


「……ふざけやがって」


 だが、だからこそおかしい・・・・・・・・・

 【混沌の魔力カオスマター】は【闇】と【光】の融合技。 

 

 つまり、【光】を持たないはずの魔王には真似できるはずがない。

 

≪こんなところで役に立つとは≫


 邪悪な笑みを浮かべる魔王。

 手に灯したのは──【光】。


「そ、そんな……!」

「さすがに笑えねえ冗談だな」


≪『勇者のほこら』を探った甲斐かいがあったようだ≫


 ヴァルツが王都から消えた間、ルシア達は『勇者の祠』を訪れていた。

 そこで祠が封印されていることに気づく。

 その仕業が魔王だったというわけだ。


「……チッ」


 『属性は人の本質を表す』という、この世界のことわり

 魔王は明らかに【光】を持つ本質をしていない。


 だが、それでも魔王は【光】を持ってしまった。


「クソチート野郎が……!」


 これは魔王の『構造』と『力』が関係している。


 魔力の塊であるという構造。

 魔力を人の根源から奪い取るという力。


 その二つが起因し、魔王は『勇者の祠』から【光】を奪い取ったのだ。


≪我も思わぬ副産物であったがな≫

「そうかよ……!」


 魔王は勇者を復活させまいと祠を襲った。

 それが思わぬ形で【光】を手にしたようだ。


「ヴァルツ君……」

「ああ……」


 二人は今一度、剣を強く握り締める。


 状況はイーブン。

 ここからが本番だと。


 だが、それは間違い・・・だった。


自惚うぬぼれるな≫

「「……!」」


 魔王が魔法を詠唱する。


≪【暗黒門】≫

「……!」


 先程まではギリギリかわせていた魔法。

 それが数段速い・・・・


 これは魔王が【光】を混ぜたから。

 特性である【強化】の効果により、魔法の射出速度が速くなっていたのだ。

 

 さらに、魔王に接近したことで距離も近くなっていた。

 

「ヴァルツ君……!」


 ヴァルツの目の前に魔法が迫る。

 それはどうあがこうと避けられない距離。

 厄介なヴァルツから狙うのは魔王としては当然。


「……ッ!」


 視界がゆっくりと動く感覚。

 まるで走馬灯を見ているかのようだ。

 そんな中で、ヴァルツは悟った。


(僕はここで……)


 王都中から魔力を奪い、ごうを背負うと決めた。

 あと一手がほしい場面でルシアも駆けつけた。


 これならと思った矢先、魔王は【闇】と【光】の両属性を持っていた。

 

 人間と魔王、元のスペックは圧倒的に違う。

 相手が同じ条件ならば望みは薄い。


(みんな、ごめ──)


 そうして謝りかけた時、心の奥底から声がひびく。


『おい』

(……?)


 聞こえてきたのは、冷徹れいてつな声。


『約束が違うんじゃねえか』

(この声は……!)


 自分と同じ声、同じ音。

 ただし、本質的に何かが違う声。


 その声は傲慢に命令した。


『代われ』

(……!?)

『そこで反省してろ』


 そうして、ヴァルツは意識を失う。


 戦場ではルシアが大声を上げた。


「ヴァルツ君ー!!」


 ヴァルツに魔法が衝突したのだ。

 彼は土煙に包まれ、様子が分からない。


 ──だが次の瞬間、


「まさかとは思うが」

「……え?」


 土煙を払う剣が見えた。


「俺の心配をしたわけじゃないだろうな」


 冷淡な声色。

 人を本質的に見下したような目付き。


「ハッ」


 いつものヴァルツとは明らかに様子が違う。


「ヴァルツ、君……?」

「二度と負けないんじゃなかったのか」


 姿を見せたのは、元の人格のヴァルツだった──。

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