第40話 もう一手

 「終わらせてやる。全てを」


 魔王の策略から守るため、ごうを背負ってでも王都中の民から魔力を奪い取ったヴァルツ。

 その力は、かつてないほど強大となっていた。


 それでも、魔王はまだ余裕を持ったまま。


≪その程度でほざくとは≫

「……!」


 次の瞬間、魔王が抑えていた魔力を解放する。

 

「……ッ!」(これは……!)


 それだけで吹き飛んでしまいそうになる。

 ヴァルツは腕を前に構えてなんとか防ぐ。


≪そんなものなくとも、我は魔王≫

「ハッ、そうかよ」


 目の前の魔王の姿に、思わずヴァルツはかたを飲む。

 

 先程までのプレッシャーなど、まるで話にならない。

 これが真の姿と言わんばかりの存在感がそこにあった。


「チッ」


 ひたいに冷や汗を感じるヴァルツ。

 その原因は主に二つ。


 一つは魔法空間【二律背反アンチェイン】への耐性を持っていたこと。

 だが、これはまだ想定内。

 伝説の魔王をあれだけで倒せるとは思っていない。


 本当に問題なのは、次。


「……面白え」


 魔王の魔力総量が、予想より遥かに膨大ぼうだいだったこと。

 魔力を解放する前の状態ですら、ヴァルツとは比べものにならなかった。 


 文字通り、規格外だ。


 だが、ヴァルツには使命がある。

 みんなを巻き込んででもヒーローの役目を果たすという使命が。


「整ったみてえだな」

≪そうであるな≫


 それが開戦の合図。


「──!」


 ヴァルツはその場をり出す。


 体の大きさが違う分、リーチは魔王が有利。

 ならばとふところに飛び込むことを選択した。


≪【暗黒門】≫

「……!?」


 だが、魔王の前に漆黒の【闇】の門が展開。

 

「チィッ!」


 対してヴァルツは、【光・身体強化】を応用し、宙で方向転換。

 事なきを得る。


≪良き判断だ≫

「黙れ!」


 反応というよりは、反射に近い。

 それほどに危険なものを感じたのだ。


 しかし、当然それだけでは終わらない。


≪【波動】≫

「……ッ!」


 魔王が展開した【暗黒門】から、属性魔法が放出される。


 食らえば一撃。

 特性の【弱体化】で体は一気に崩壊するだろう。


「クソが……!」


 退避を繰り返しながら、ヴァルツは思考をめぐらせる。

 

 どうすればこの魔王を倒せるのか。

 材料は『原作の情報』と、一番始めの『先制攻撃』。


「……」


 先制攻撃では、確かに胸をつらぬいたはず。 

 だが、毛ほどのダメージも入らず、あっさり返された。


 あの時の感触はほぼ無いに等しかった・・・・・・・・・・

 刺したというより、ただ空を切った感覚。

 

「……」(ということは……)


 原因はおそらく、魔王が魔力の塊で構成されているからだ。

 “物理攻撃はほぼ効かない” と考えて良いだろう。


「……ハッ」(ならば!)


 やはり魔力には魔力。

 魔法で存在ごと消し飛ばすしかない。

 そう結論付ける。


 ──だが。


≪我が怖いか≫

「何の話だ……!」


 攻防を繰り広げる度、強く実感する。


 この強大な魔力の塊をどうするのかと。

 王都民全ての魔力を奪った今でも、ようやく同等。

 むしろまだ劣るぐらいの魔力量だ。


≪我にはそう見えるが≫

「よっぽど目が腐ってるらしいなあ!」


 案はいくつかある。

 これまで、こと魔力に関しては技を開発してきたからだ。


≪がっかりさせるな。我が子孫よ≫

「てめえはさっさと眠りやがれ。クソじじい」


 しかし、近づけない。

 魔法を込める時間も稼げない。

 退避に全力を注がなければ一瞬で消し炭になるからだ。


 どの戦略を試そうにも、とにかくが足りなかった。

 

 ──そんな時。


「……!」(これは……!)


 ヴァルツの中に響くは、『共鳴』。

 ただし今回は【闇】ではなく──【光】。


「ったく」


 そんな言葉をこぼしながらも、ヴァルツはニヤリとした。

 何が起きたかを確信したのだ。


 ヴァルツの周りにはいる。

 こんな状況下でも付いて来る、まるで主人公のような人物が。 


「邪魔だっつってんだろ」

「うおおおおおおおお!」


 ガキィンと甲高い音が辺りにひびき渡る。

 魔王の展開した【暗黒門】を破壊したのだ。


 【二律背反アンチェイン】という魔法空間下において、動ける人物をヴァルツは一人しか知らない。


「ヴァルツ君!」

「フン」


 駆けつけたのは、唯一無二の力を持つ男。

 【太陽】のような少年だ。


「二人で倒そう……!」

「ハッ、いらねえよ……!」


 もう一手が欲しい。

 そんな場面に、ルシアが駆けつけた──。

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