第37話 加速したシナリオの先に

<三人称視点>


 数日後、朝。


「マティス王、ご視察です」


 アルザリア王立学園の前には、生徒たちが並んでいた。

 この国の王──マティス王が、今から視察に来るためだ。


「すっげぇ」

「本物は初めて見るぜ」

「おい、失礼だぞ」


 小声で話す生徒たち。

 中には無礼と思わしき者もいるが、それほどに珍しい事のようだ。


 そして、王を乗せた馬車が学園前に到着した。

 ついにマティス王がその姿を見せる。


「おはよう。生徒の諸君」


 地に足をつくと同時に、マティス王は一言。

 その姿に目を開いた生徒たちは、一斉に返した。


「「「おはようございます!」」」


 だが、内心は興奮している。


(((本物だ……!)))


 そんな中、王の護衛の中に割って入り、手を引く一人の教師。


「マティス王、こちらへどうぞ」

「うむ」


 偉大なる王を招くのは、新任教師エルメだ。


 まだにんしてそれほど日は経っていない。

 だが教師の中でも、案内係は彼しかいないと満場一致で決まったようだ。


 その端麗たんれいな容姿に、常に低い姿勢。

 エルメは生徒だけではなく、教師陣からの評判も非常に良かった。


 裏の顔・・・にも気づくことはなく。


 そうして、マティス王は言い放つ。


「では、諸君らの日常の姿を見せてくれたまえ」

「「「はい!」」」


 今回はセレモニーではなく『視察』。

 朝こそ盛大に迎え入れたものの、生徒たちが学業に励む姿をのぞきに来たようだ。


 生徒たちはそれに従い、順に学院へ入って行く。


「「「……」」」


 何人かはいぶかしげな表情を浮かべたまま──。





 各所で授業が始まるも、王が訪れた場所では緊張が走る。

 

「こ、これは初にお目にかかります! 私は教師の──」

「よい。続けてくれたまえ」

「は、はっ!」


 国王が目の前に来れば当然だ。

 教員や生徒には「あくまで普通に振る舞うように」と伝えられているが、それどころではないのは確かだった。


「ふむ」


 しばらく授業を眺めると、マティス王はまた次の場所へ。

 そんな中、マティス王がエルメに話しかけた。


「何人かいない者・・・・がいるようだが」

「左様でございますね」


 裏ではつながっているこの二人。

 思い浮かべているのは、おそらく共通の人物だろう。


 ヴァルツ・ブランシュ。

 ルシア。


 この二人の姿が見えないのだ。

 朝の迎え入れにはいたはずの二人は、どこの授業にも顔を出していない。


 ついでに言えば、彼らの周りにいる少女たち。

 リーシャやシイナなどの姿も見えないようだ。


「そうですね……」


 エルメはふと頭を巡らせながらも、マティス王へ返す。


「当学園は自由をうたっておりますので。各々が必要と感じたことのみ学ぶよう指導しております」

「そうであるか」

 

 それは「問題ない」との回答。

 周りに気づかせず、二人は歩みを進める。


 全ては己が計画のため。



 


 そうして、時間はお昼ごろに差し掛かる。

 マティス王の視察が終了する時間だ。


 生徒たちは再度、校門前に集合していた。


「ふむ」


 そんな彼らを前に、マティス王は振り返った。

 膝を付き、王の様子をうかがうのはエルメだ。


「いかかでしたでしょうか、マティス王」

「そうであるな」


 少し考えながらひげを触る。

 そうして両手を広げて言い放った。


「ここに集まるは、実に素晴らしき人材」

「おお……!」

「我がアルザリアの誇りである」


 王自らのさん


「「「……!」」」


 これには学園中の者が表情を明るくする。

 生徒たちはもちろん、教師陣が何より嬉しいことだろう。

 

 王は言葉を続けた。


「ゆえに!」


 だがその声色が、一瞬にしていびつなものへと変わった。


「実に素晴らしき生贄いけにえよ」

「「「……!?」」」


 途端に、マティス王から邪悪な覇気オーラが放たれた。


「マティス王!?」

「なんだこれは!」

「どうされましたか!」


 その禍々まがまがしい気配に、王の周りの護衛が瞬時に動く。

 王がおそわれたと思ったのだ。


 ──しかし、


「エルメ」

「はっ!」


 それをエルメが瞬時に蹴散けちらす。


「「「ぐわあああっ!」」」


 マティス王、否、『魔王』の側近であるエルメが、ついにそのベールを脱いだのだ。


「え?」

「は?」

「なんだこれ……」


 その様子に、学園の者たちは動けない。

 あまりにも唐突すぎる事態だったからだ。


 だが、一人の少女が声を上げた。


「きゃああああああああ!」


 一番前で見ていた少女だ。


「「「……ッ!」」」


 その悲鳴を聞き、恐怖は伝染する。

 目の前の事態が、ようやく現実であることと認識したのだ。


「うわああああああ!」

「どけ! どいてくれ!」

「お前こそあっちいけよ!」

「皆さん落ち着いて!」

「どうやってだよ!」


 一人の悲鳴を皮切りに、生徒・教師は大混乱におちいる。


 なにが起きているかも分からないのだ。


 なにをすべきか。

 どこに逃げるべきか。


 それを整理できないまま、生徒たちはぶつかり合う。


 そんな状況で、王はわらった。


「始めるぞ、エルメよ」

「はっ!」


 主の指示に従い、エルメは地面に手を付いた。

 

 その瞬間、建物のあちこちに魔法陣が展開される。

 黒紫色をした禍々まがまがしい魔法陣だ。


 そこから出てきたのは──『やみじゅう』。


「グオオオオオオオオッ!」

「グギャアアアアアアッ!」

「シャーーーーーーー!!」


 狼、熊、蛇など。

 見たこともない巨大な獣たちが、魔法陣同様、禍々しいオーラを放って咆哮ほうこうを上げる。


 それも何十体という数だ。

 

「「「きゃあああああああ……!」」」


 すでに混乱しきっていた生徒たちは、もう成す術がない。

 焦った人間が如何いかに無力かを知らしめているようだった。


 そして、瞬く間に被害が出そうになる。


「おい危ないぞ!」

「え……!?」


 逃げ惑う一人の少女に、闇獣が迫った。


「グオオオオオオオッ!」

「きゃあああああああ!」


 恐怖のあまり腰を抜かしてしまった生徒。


「はあッ!」

「……え?」


 ──そこに現れる、光を放つ剣。

 その光は、まさに『太陽』とも呼べるかもしれない。


おそわせない!」

「グギャアッ!」


 その剣は、闇獣の爪を防ぎ、次の一手で体を真っ二つにする。

 剣の持ち主は少女に振り返る。


「大丈夫かい?」

「あなたは……」

「僕はルシアだ」


 その男は原作主人公ルシア。

 この状況を見て、ルシアはつぶやいた。


「やっぱりを信じて良かった」





 また、ルシアの地点から離れた場所。

 学園で言えば西側。


「「「グギャアアアアアアッ……!」


 ここにも現れていた『闇獣』。

 だが、その前に立っている学園の部外者・・・たち。


「おいおい、まじかよ」

「本当にこんなことになるなんてねえ」


 ダリヤとマギサだ。

 誰の差し金か、本来は許可が必要なはずの敷地内に二人は立ちいっていた。


「ま、俺たちが一番信じてるのは可愛い弟子だからな」

「それもそうね」


 二人はとある人物を思い浮かべていた。

 また、その後ろにはたくさんの冒険者の姿も見える。


「レジェンドのお二人に付いていきます!」


 二人を敬愛するBランク冒険者セリダ。

 それから彼女の仲間たちだ。


 彼らに共通するのは一つ。

 とある人物を尊敬し、信頼していること。


 ダリヤはニヤリとした表情でつぶやいた。


「本命は任せたぜ、坊ちゃん」





 そして、再び魔王の場所。


「エルメよ。これはどうしたのだ」

「そ、それが……!」


 王の問いにエルメは動揺を見せる。


 混乱に陥った学園を、闇獣で一掃する。

 そうするはずだった予定が崩れていたのだ。

 何者か・・・の指示によって。


 エルメは苦虫をみ潰したような表情で答えた。


「誰かが、これを予期していたとでも言うのか……?」


 だがその言葉に、返ってくる声があった。


「誰かってのは、俺のことか」

「……! その声は!」


 エルメは声がする方をにらむ。

 どうにも聞き覚えのある声だったのだ。


「待たせたな」


 傲慢ごうまんで、非道な声。


 土煙の中から、一瞬キラリと剣が光った。

 その剣が──王に迫る。


「よお、マティス王」

「貴様は!」

「いや、クソご先祖様魔王が……!」


 王の胸元をとらえた剣。

 持ち主は、ヴァルツ・ブランシュであった──。



───────────────────────

明日(12/11)から最終話まで、毎日・・更新いたします!

更新時間は変わらず20時過ぎ予定!

ぜひ結末をその目で見届けてください!


今後ともよろしくお願いいたします!

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