第38話 加速したシナリオの先に
<三人称視点>
数日後、朝。
「マティス王、ご視察です」
アルザリア王立学園の前には、生徒たちが並んでいた。
この国の王──マティス王が、今から視察に来るためだ。
「すっげぇ」
「本物は初めて見るぜ」
「おい、失礼だぞ」
小声で話す生徒たち。
中には無礼と思わしき者もいるが、それほどに珍しい事のようだ。
そして、王を乗せた馬車が学園前に到着した。
ついにマティス王がその姿を見せる。
「おはよう。生徒の諸君」
地に足をつくと同時に、マティス王は一言。
その姿に目を開いた生徒たちは、一斉に返した。
「「「おはようございます!」」」
だが、内心は興奮している。
(((本物だ……!)))
そんな中、王の護衛の中に割って入り、手を引く一人の教師。
「マティス王、こちらへどうぞ」
「うむ」
偉大なる王を招くのは、新任教師エルメだ。
まだ
だが教師の中でも、案内係は彼しかいないと満場一致で決まったようだ。
その
エルメは生徒だけではなく、教師陣からの評判も非常に良かった。
そうして、マティス王は言い放つ。
「では、諸君らの日常の姿を見せてくれたまえ」
「「「はい!」」」
今回はセレモニーではなく『視察』。
朝こそ盛大に迎え入れたものの、生徒たちが学業に励む姿を
生徒たちはそれに従い、順に学院へ入って行く。
「「「……」」」
何人かは
各所で授業が始まるも、王が訪れた場所では緊張が走る。
「こ、これは初にお目にかかります! 私は教師の──」
「よい。続けてくれたまえ」
「は、はっ!」
国王が目の前に来れば当然だ。
教員や生徒には「あくまで普通に振る舞うように」と伝えられているが、それどころではないのは確かだった。
「ふむ」
しばらく授業を眺めると、マティス王はまた次の場所へ。
そんな中、マティス王がエルメに話しかけた。
「何人か
「左様でございますね」
裏では
思い浮かべているのは、おそらく共通の人物だろう。
ヴァルツ・ブランシュ。
ルシア。
この二人の姿が見えないのだ。
朝の迎え入れにはいたはずの二人は、どこの授業にも顔を出していない。
ついでに言えば、彼らの周りにいる少女たち。
リーシャやシイナなどの姿も見えないようだ。
「そうですね……」
エルメはふと頭を巡らせながらも、マティス王へ返す。
「当学園は自由を
「そうであるか」
それは「問題ない」との回答。
周りに気づかせず、二人は歩みを進める。
全ては己が計画のため。
そうして、時間はお昼ごろに差し掛かる。
マティス王の視察が終了する時間だ。
生徒たちは再度、校門前に集合していた。
「ふむ」
そんな彼らを前に、マティス王は振り返った。
膝を付き、王の様子をうかがうのはエルメだ。
「いかかでしたでしょうか、マティス王」
「そうであるな」
少し考えながらひげを触る。
そうして両手を広げて言い放った。
「ここに集まるは、実に素晴らしき人材」
「おお……!」
「我がアルザリアの誇りである」
王自らの
「「「……!」」」
これには学園中の者が表情を明るくする。
生徒たちはもちろん、教師陣が何より嬉しいことだろう。
王は言葉を続けた。
「ゆえに!」
だがその声色が、一瞬にして
「実に素晴らしき
「「「……!?」」」
途端に、マティス王から邪悪な
「マティス王!?」
「なんだこれは!」
「どうされましたか!」
その
王が
──しかし、
「エルメ」
「はっ!」
それをエルメが瞬時に
「「「ぐわあああっ!」」」
マティス王、否、『魔王』の側近であるエルメが、ついにそのベールを脱いだのだ。
「え?」
「は?」
「なんだこれ……」
その様子に、学園の者たちは動けない。
あまりにも唐突すぎる事態だったからだ。
だが、一人の少女が声を上げた。
「きゃああああああああ!」
一番前で見ていた少女だ。
「「「……ッ!」」」
その悲鳴を聞き、恐怖は伝染する。
目の前の事態が、ようやく現実であることと認識したのだ。
「うわああああああ!」
「どけ! どいてくれ!」
「お前こそあっちいけよ!」
「皆さん落ち着いて!」
「どうやってだよ!」
一人の悲鳴を皮切りに、生徒・教師は大混乱に
なにが起きているかも分からないのだ。
なにをすべきか。
どこに逃げるべきか。
それを整理できないまま、生徒たちはぶつかり合う。
そんな状況で、王は
「始めるぞ、エルメよ」
「はっ!」
主の指示に従い、エルメは地面に手を付いた。
その瞬間、建物のあちこちに魔法陣が展開される。
黒紫色をした
そこから出てきたのは──『
「グオオオオオオオオッ!」
「グギャアアアアアアッ!」
「シャーーーーーーー!!」
狼、熊、蛇など。
見たこともない巨大な獣たちが、魔法陣同様、禍々しいオーラを放って
それも何十体という数だ。
「「「きゃあああああああ……!」」」
すでに混乱しきっていた生徒たちは、もう成す術がない。
焦った人間が
そして、瞬く間に被害が出そうになる。
「おい危ないぞ!」
「え……!?」
逃げ惑う一人の少女に、闇獣が迫った。
「グオオオオオオオッ!」
「きゃあああああああ!」
恐怖のあまり腰を抜かしてしまった生徒。
「はあッ!」
「……え?」
──そこに現れる、光を放つ剣。
その光は、まさに『太陽』とも呼べるかもしれない。
「
「グギャアッ!」
その剣は、闇獣の爪を防ぎ、次の一手で体を真っ二つにする。
剣の持ち主は少女に振り返る。
「大丈夫かい?」
「あなたは……」
「僕はルシアだ」
その男は原作主人公ルシア。
この状況を見て、ルシアはつぶやいた。
「やっぱり
また、ルシアの地点から離れた場所。
学園で言えば西側。
「「「グギャアアアアアアッ……!」
ここにも現れていた『闇獣』。
だが、その前に立っている学園の
「おいおい、まじかよ」
「本当にこんなことになるなんてねえ」
ダリヤとマギサだ。
誰の差し金か、本来は許可が必要なはずの敷地内に二人は立ちいっていた。
「ま、俺たちが一番信じてるのは可愛い弟子だからな」
「それもそうね」
二人はとある人物を思い浮かべていた。
また、その後ろにはたくさんの冒険者の姿も見える。
「レジェンドのお二人に付いていきます!」
二人を敬愛するBランク冒険者セリダ。
それから彼女の仲間たちだ。
彼らに共通するのは一つ。
とある人物を尊敬し、信頼していること。
ダリヤはニヤリとした表情でつぶやいた。
「本命は任せたぜ、坊ちゃん」
そして、再び魔王の場所。
「エルメよ。これはどうしたのだ」
「そ、それが……!」
王の問いにエルメは動揺を見せる。
混乱に陥った学園を、闇獣で一掃する。
そうするはずだった予定が崩れていたのだ。
エルメは苦虫を
「誰かが、これを予期していたとでも言うのか……?」
だがその言葉に、返ってくる声があった。
「誰かってのは、俺のことか」
「……! その声は!」
エルメは声がする方を
どうにも聞き覚えのある声だったのだ。
「待たせたな」
土煙の中から、一瞬キラリと剣が光った。
その剣が──王に迫る。
「よお、マティス王」
「貴様は!」
「いや、クソ
王の胸元をとらえた剣。
持ち主は、ヴァルツ・ブランシュであった──。
───────────────────────
明日(12/11)から最終話まで、
更新時間は変わらず20時過ぎ予定!
ぜひ結末をその目で見届けてください!
今後ともよろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます