第35話 帰還した王都にて

<ヴァルツ視点>


「……!」(これは……!)


 森から王都へ帰還し、その姿に目を見開く。


 王都は──何も変わっていなかった。


「ヴァルツ様?」

「急いでいたみたいだけど、どうかした?」

「……あ、ああ」


 イリーガと軍団をばくしているダリヤさんとマギサさん。

 僕の【闇】と、マギサさんの【毒】で弱体化させているのもあって、イリーガ軍団はおとなしく付いて来ている。


 引き続き足を進めながら、僕は改めて思考をめぐらせる。


「……」


 考えすぎだったか?


 壊されていた魔王の墓石。

 最悪を想定したが、王都は特に変わらない。


 むしろ、僕たちの方が注目浴びているぐらいだ。


「おい、あれイリーガじゃないか」

「本当だ」

「どうして捕まっているんだ」


 主に、カリスマ冒険者イリーガが捕らえられていることで。

 逆に言えば、それ以外は全く変わらない日常があった。


 嫌な予感は、気のせいだったのだろうか。

 

「チッ」(ふむ)


 魔王が復活していれば、すでに事を起こしていても不思議じゃない。

 それならば、僕の思い違いだったと考えるべきか。


「……」


 原作『リバーシブル』において、プレイヤーが操作するのはルシアだ。

 そのため、ヴァルツが『魔王の祠』で何を行っていたかは実は知らない。

 あそこが魔王の墓だと知っていたのは、ほんの物語の一文からだ。


 違和感の正体は、引き続き探っていくとするか。


 そうして結論付けたところで、


「ヴァルツ様」

「私たちはここで」


 ダリヤさんとマギサさんが近くの建物を指す。


 そこは──『冒険者協会』。

 冒険者が依頼を受注したり、情報を交わしたりする場所。

 酒場や装備屋なども併設されていて、冒険者にとっては総合案内所みたいなところだ。


「ああ」


 そこにイリーガ軍団を連れていき、処罰を下すのだろう。

 冒険者同士のおきてとやらもあるらしいし、ここは任せよう。


 そして、最後にダリヤさんがイリーガをげしっとる。


「言う事ねえのか、イリーガ」


 ここまで黙り込んでいたイリーガ。

 だけど、僕とリーシャにすっと頭を下げた。


「すみませんでした。ヴァルツ・ブランシュ様」

「……」


 イリーガとダリヤさんの関係は、ここまでに少し聞いた。

 ダリヤさんもショックを受けている部分もあるだろう。


 たしかにメイリィを巻き込んだのは許せない。

 でも、しっかりと処罰を受けるならこれ以上は求めない。


「雑魚には興味ない」(色々あったのでしょう)

「……っ」

「俺の視界に二度と入るな」(今後メイリィに近づかなければ、僕からは何も)

「……はい」


 その弱々しい返事を最後に、師匠二人が連れて行った。

 二人も遠慮する気はなさそうだ。


 ちなみに、マギサさんがつぶやいていた処罰はあまりにもこくだったので、極力耳に入れない様にしていた。


「……」(……ふぅ)


 そうして、ふと空を見上げて、腕を伸ば──すことは意志力で出来ないが、心の中だけでも伸びをしておく。

 とりあえず、事態は収まったか。

 

 そうして振り返ろうとした時、


「ヴァルツ様~!」

「……!」


 ちょうど良いタイミングというべきか、聞き馴染なじんだ声が聞こえてきた。


「ヴァルツ様!」

「ヴァルツ君!」


 リーシャ、加えてシイナが走ってきたんだ。


「てめえら、──ごふっ」


 からのダブルタックル。

 抱き着きらしいけど、勢いが強すぎる。

 メイリィといいこの二人といい、なんでこうもタックルが好きなんだ。


「ヴァルツ様!」


 顔を上げたリーシャ。

 その顔はパアっと晴れている。


「ご無事だったのですね!」

「俺の心配など不要だ」(ごめん、心配かけたね)

「ふふっ、ですね!」

「……!」


 と思えば、今度は腕に絡んで来るリーシャ。

 いつの間にか、僕の右腕が定位置になっているな。


 さらには、シイナも。


「無事に帰ってきて嬉しいよ」

「フン」

「そのツンデレも懐かしく感じるし」

「……黙れ」


 ヴァルツの傲慢ごうまんな意志力が、シイナと視線を合わせないよう顔を動かす。


「こっち見なよ~」

「チッ!」


 だけど、その度にシイナがひょこひょこと視線を合わせてくる。

 一体なんのゲームなんだ。


 そんな事をしていると、後ろからさらに三人が現れた。

 もちろん見覚えのある人物たちだ。


 ルシア、 


「おかえりヴァルツ君」

「黙れ」


 サラ、

 

「探偵のボクによると、そろそろ帰ってくると思ったよ」

「うるせえ」


 コトリまでも。


「ヴァ、ヴァルツさん。無事で良かったです」

「静かにしろ」


 まさに、原作『リバーシブル』のメインキャラクター達だ。


「騒がしい奴らだ」(みんな……)

 

 悪役のラスボスとして転生したはずの僕。

 そのはずが、気がつけばメインキャラクター達に囲まれている。

 それがとても不思議に思えた。


 リーシャがまた口を開く。


「とにかく良かったです。ヴァルツ様」

「……フン」


 良かった。

 この言葉が全てだと思う。


 みんなの様子から、僕は探し回ってくれたのかもしれない。

 今はそれが心の底から嬉しかった。


「俺は帰るぞ」


 そんな気持ちをバレることを嫌がったか。

 ヴァルツの意志力が、強引に後ろを振り返らせる。


 だが、みんなが口をそろえて言った。


 リーシャとシイナ、


「あ、照れましたね」

「照れたね」


 サラとコトリ、


「探偵の推察力もいらないね」

「ヴァ、ヴァルツさん……」


 ルシアもだ。


「ヴァルツ君ったら」


 完全にバレバレだったらしい。

 これは相当恥ずかしい。


「~~~ッ! チッ!」


 そうして歩き出した時、


「おーい。そこの青春坊ちゃんたち~」

「あぁ!?」


 冒険者協会から出てきた人に声をかけられる。

 女性の冒険者らしき人だ。


「あ、その口の悪さ。もしかして、ヴァルツ・ブランシュ様ですか?」

「そうだが」

「やはり!」


 そんな女性冒険者は、協会へ招くように手を伸ばしてくる。


「よかったら、一杯やっていきませんか」

「何の話だ」

「実は──」


 女性は少し考えてから、再び口を開く。


「私たち、イリーガの悪事に巻き込まれた経験があって」

「……!」

「それを捕まえた人がいるってことで、お礼をしたくて」

「……」


 なるほど。

 イリーガはこの二年の間に、Sランクになるために悪い事もしたらしい。

 その被害を受けた冒険者たちということか。


「もちろん周りのご学友も歓迎します。あ、酒はダメね」

「聞いていない」


 そんな話を聞き、メイリィがずいっと顔を出してくる。


「坊ちゃま」

「あ?」

「坊ちゃまが祝福される権利があるのですよ」

「……チッ」


 僕は協会に足を向ける。


愚民ぐみん共の話を聞くのも、上に立つ者の務めか」

「「「やったあ!」」」


 こうして、帰還早々に僕は祝われることに。


 だが、この冒険者協会で、僕は新たな話を聞くことになるのだった。

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