第34話 その裏で

 「イリーガよぉ」


 ヴァルツ(とメイリィ)が『魔王のほこら』に入っていった頃。

 イリーガに対して、ダリヤが語り掛けるように口を開いた。


「お前、どうしたんだよ」

「……うす」

「本質を見誤るなって何度も言ったじゃねえか」


 ダリヤとイリーガには関係がある。

 師匠というほどでもないが、複数回ほど依頼を共にしているのだ。


「お前を認めてた部分もあったんだぜ」


 今回、イリーガはおきてに従って罰を受ける。

 そこはダリヤもゆずる気はない。

 今やヴァルツのとりこだからだ。

 

 だが、今回の件に至った経緯を聞いておきたいのも事実。

 観念したイリーガは徐々に口を開く。


「俺は……」


 思い出すのは、二年ほど前。

 ダリヤとマギサが『ヴァルツの修行』という依頼をうけたまわり、王都を離れた頃の話だ。


「お二人のようになりたかった」


 当時からAランクだったイリーガ。

 周りからは、すでにカリスマ冒険者とも呼ばれ始めていた。

 そんなタイミングで二人が王都を去り、自分の天下だと考えたのだ。


「お二人のようなSランク冒険者に」


 だが、二年経ってもそこへは届かず。

 もはや称号である『Sランク』にはなれなかったのだ。


 何がいけないのか。

 何が足りないのか。


 それが分からず、自分で自分をどんどんと追い詰めたイリーガ。

 彼は次第に暴走を始める。


「やっちゃいけねえこともしちまったんだ」


 依頼達成のためにあくどい事をしたり。

 自らめ事を起こし、それを解決することで名誉を得たり。

 冒険者らしからぬことをしたという。


「そして、今回の話を聞いた」


 今回の『真相の解明』という依頼。

 相手は大貴族ということもあり、Aランク以上の者しか受注できない、特別な依頼だった。


とある人物・・・・・から聞いたんだ。これについて解明すれば、Sランクになれると」

「……なんだと?」


 だが、そこでダリヤが初めて聞き返す。


 イリーガの経緯は理解した。

 その上で、別の問題・・・・が出てきた可能性がある。

 イリーガの欲望と暴走を知り、それを利用しようとした人物がいるのではないかと。


「そいつは誰だ!」

「名前は知らない。だが、奴は俺ですら知らない情報をいくつも持っていた」

「……」


 その回答に、ダリヤとマギサは顔を見合わせる。

 そして、再度尋ねた。


「どんな奴だ。特徴を教えろ」

「分からないが、格好は教師だった気が……」

「教師だと?」


 そこまで聞いたところで、


「あら、ヴァルツ様~!」


 マギサが立ち上がって声を上げる。


 ヴァルツとメイリィが『魔王のほこら』から戻ってきたのだ。

 

「どうだったかしら~? あそこは」

「──早く支度をしろ」

「え?」


 しかし、マギサの冗談は軽くスルー。


「俺はすぐに帰る」


 そうして発したヴァルツの声色は、どこか焦って見えた。







 一方、違う場所。

 時刻はすでに夕方だ。


「ちょっ、冗談でしょ!?」


 震える声を上げたのは、探偵の格好をしたサラ。

 目の前の光景に、膝から崩れ落ちる。


「なんで、『勇者のほこら』が……!」


 彼女が研究しに訪れていた『勇者の祠』が封印・・されていたのだ。


 周囲は大岩で固められ、入口は謎の結界が張られている。

 ここ最近は来ていなかったため、この事態に気づかなかったようだ。


「誰かが来たの……?」

 

 ここは『勇者の祠』と呼ばれるものの、歴史的にはあまり価値がないとされる。

 普段はサラぐらいしか訪れていなかったのだ。


「大丈夫? サラさん」

「元気を出して」


「う、うん……」


 そっとサラの肩に手を乗せるのは、ルシアとコトリ。


 そして、


「これ、ヴァルツ君に関係してる?」

「ヴァルツ様……」


 周りにはシイナとリーシャも共にいた。


 同じタイミングで動き出した彼らは、運良く合流していたよう。

 ヴァルツを追う上で、彼が行きそうないくつかの候補の中から『勇者の祠』にも立ち入っていたのだ。


 そうして、項垂うなだれていたサラが顔を上げる。


「……でも」


 その表情に浮かべるは、絶望だけではない。


「何者かには価値があったんだ。この場所は」


 自分が間違っていなかったことに気づいたようだ。

 そんな事実も確認したところで、一同は顔を見合わせる。


「一度王都に戻ろう」


 時間も時間のため、戻って情報を再収集することにした。

 ヴァルツも森から帰還するため、すぐに顔を見合わせらせるだろう。


 だが、この一連の騒動。

 これらは全て、裏で手を引いていた者の計画の内だったのだ。







 アルザリア王立学園、地下。


「クフフフフ……」


 暗い空間の中で、一人の男が奇妙な声を上げる。


 ヴァルツ達の新担任となった男──エルメだ。

 表の顔は教師だが、裏の顔は魔王を復活させた張本人である。


 そんなエルメは、ふっとつぶやく。


「邪魔者を排除しておいてよかった」


 今回の一連の騒動。

 これは全てエルメの差し金である。


 自分が学園の教師となり、内部に侵入。

 ヴァルツを犯人にしたて、王都から一時的に出させる。

 それを案じたルシアも学園から出させる。


 全てがこの男の意のまま。


「【光】と【闇】はやはり特別ですからねえ」


 特別な二属性は、共にかれ合う『共鳴』という現象を持つ。

 エルメはそれを危惧きぐしたのだ。


『共鳴』あれがあると、設置する時に気づかれてしまいますゆえ」


 そうして、エルメは何か・・を仕掛け終える。

 この口ぶりから、この二属性に関するものなのだろう。


「これでよし、と」


 後は気づかれぬよう、封印・・の魔法をかけておく。

 そうしてエルメはニヤリとした顔を浮かべた。


「もう少々お待ちください。魔王よ」


 全ては魔王のため。

 魔王の計画を成功させるため。


「機はすぐに来ますゆえ」

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