第33話 森の先で
<ヴァルツ視点>
日差しが目に入り込んできて、僕はむくっと体を起こす。
「……チッ」(……朝か)
昨夜、冒険者たちから
勘違いで人を傷付けたくなかった僕は、王都外れの森へ退避した。
そうして一晩が経ったらしい。
「……学園か」
今日は週明け。
また学園が始まる日だ。
また一週間を楽しみにしていたんだけど、何やら事態に巻き込まれてしまった。
「……」
それにしても、一体なんだったんだろう。
あの人達、見た目は明らかに冒険者だ。
だとしたら何かの依頼?
僕を殺せとの依頼なのだろうか?
「チッ」(うーん)
誰からも恨みを買っていない……とはとても言えない。
何しろこんな態度だし。
それでも、殺されるほどの恨みを買った覚えはない。
「……」
みんなは大丈夫かな。
メイリィはたしか父さんのところへ行くと言っていたな。
何かを察してくれていたら嬉しいけど。
今からでも帰るべきだろうか。
「……っ」(……いや)
ここで帰っても、かえって街が騒ぎになるだけだ。
それは僕としても本望ではない。
ここはみんなを信じるべきだ。
あとは……
「おい」
僕はふと
そこには、昨夜の不審者。
一緒にいるのは多少怖かったけど、この人も魔法をかけられていただけ。
解除さえしてしまえば大丈夫だろう。
だけど、冒険者たちはこの人にまで危害を加える気だった。
そんなことをさせてたまるかと思って連れて来たんだ。
「おい」
「……」
だけど、ずっと返事がない。
死んだように眠っているだけだ。
「チッ」(おかしいなあ)
この人に付与されていた【闇】は解除した。
それで戻ってくれるかと思ったが、そうはいかなかった。
あのゾンビみたいな声は上げなくなったけど、代わりに目を覚まさなくなってしまった。
未知の魔法とかなのだろうか。
「……」(まあ、仕方ないか)
それでも、この人を救わないつもりはない。
ヒーローは誰でも助けてなんぼだ。
この人がいるから
「……」(さてと)
一息つき、僕は立ち上がる。
いつまでも、ここでこうしているわけにもいかないし。
それに、昨夜から気になる場所もある。
僕はぐっと胸のあたりを掴む。
「……っ」
森に入ってから、やけに体の内側が
これはまるで、ルシアの【光】と共鳴した時のような感覚。
この森に何かが隠されているというのだろうか。
まずはそれを解決したい。
もしかしたら、今回の一件にも
「足手まといが」(肩をお借りしますよ)
僕は目を覚まさない男性を
ここまできたんだ。
放っておけるはずもない。
「……あっちか」
そして進行方向を定めた。
なんとなく、この体の内側が行きたがっている方向だ。
この先に何が待つと言うのだろうか。
★
<三人称視点>
森をずっと進んだ先。
ヴァルツはおそらく何時間も歩いて来ただろう。
「……!」
そこでようやく、ヴァルツはその足を速める。
木々が段々と少なくなっていることに気づいたからだ。
きっとこの先に何かがある。
そう思って抜け出した時、
「これは……!」
現れたのは──大きな建造物。
「……っ」(まじ、かよ……!)
石で造られた、階段状のピラミッドのような形。
見る者を圧倒するような迫力とサイズだ。
一階には入口があり、中へ進むことができる。
だがヴァルツは、
「……こいつは」
これはとある人物の墓。
この世界『リバーシブル』において、ルシア(プレイヤー)は目にすることはないが、ヴァルツにとっては重要な遺跡だ。
これは──『魔王の
魔王が祭られているという遺跡は、こんな場所に存在したのだ。
「面白れえじゃねえか」(すごい……)
しかし、不思議な点はある。
それは、こんな建造物が今まで
ヴァルツは王都でも『魔王の祠』の話は聞いていない。
ここに辿り着くまでに何か秘密でもあるのだろうか。
──そんなことを考えていた時、
「ここだろうとは思っていた」
「……!」
後方からかけられる声。
(まさか
ヴァルツは相手を確信しながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
「……お前か」
そこにいたのは、昨夜に会った冒険者とその配下たち。
相変わらず、
「お前とはひどいじゃないか。俺の名はイリーガだ」
「そんなのは聞いていない」
「ふっ、噂通りの男だな」
「……」
こんな口調で答えるものの、実際のヴァルツは少し驚いていた。
(この人があのイリーガか……)
知っている名前だったのだ。
イリーガはいわゆる“カリスマ冒険者”。
王都で過ごしていれば、一度は聞くこともあるだろう。
冒険者ランクは「A」だ。
そうしてイリーガは、『魔王の祠』に視線を向けながら続ける。
「ここは魔王に関する場所なんだってなあ」
「……ああ」(そうみたいだ)
「何を
「てめえに言う義理はない」(何も企んでなんか!)
しかし、ここでヴァルツの傲慢口調が牙を向く。
「ふっ、やはり何かあるのだな」
「黙れ」
ヴァルツは、ただ導かれるまま歩いて来ただけ。
企んでいることなど無いのだ。
それでも、必死に弁明するという行為をヴァルツが受け入れない。
「そうか。白状しねえのか」
「……」
そんなヴァルツに対し、イリーガは配下へと指示をした。
「おい。あれを持ってこい」
「「「はっ!」」」
「……?」(あれとは?)
そうしてつかの間、イリーガ達の前に一人の女性が連れ出される。
ヴァルツは思わず目を見開いた。
「てめえ……!」
「おっ、これには反応すんだな」
「黙れ!」
その女性は──メイリィ。
「ん! んー!」
メイリィは口を
手足も拘束されて身動きができないみたいだ。
「おい」
「どうした、白状する気になっ──」
「その女を放せ」
「……!?」
だけど、交渉するまでもなく、僕はイリーガの一瞬で接近。
【光】による高速移動だ。
「──っとぉ! あぶねえ!」
「チッ……!」
だがギリギリ、ヴァルツの剣は弾かれる。
さすがはAランク冒険者と言うべきだろう。
「いきなりかよ!」
「そいつを放せと言ったはずだが」
「ほう。そんなにこの女が大事か!」
「……」
口調は答えないが、ヴァルツの思いは決まっている。
昨夜逃げたのは、勘違いをしている相手を傷付けたくなかったから。
ヒーローに憧れる彼にとって、そんなことで傷つけ合うのはごめんだ。
だが、
「そいつは俺のもんだ」
「……!」
「てめえごときが触れんじゃねえ」
ヴァルツは、仲間に手を出す奴は許さない。
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