第30話 王都に出回る依頼

<ヴァルツ視点>


「あん?」


 今日も学園の日程が終わり、大通りを歩く。

 そんな中、校門を少し出た場所から、何やら異様な雰囲気を感じた。


「……」(誰だろう)


 校門近くに複数人の男達がいるんだ。

 それもそろって屈強な体つきの者ばかり。

 ダリヤさんやマギサさんと同じ『冒険者』といったところか?


 さらに、


「あれか?」

「多分な」


 男達は何やらヒソヒソと話している。

 

 学園への不法侵入は連行対象なので、中へは入ってこない。

 でも、明らかに学園内に用がある様子。


 ……というか、僕の方をみながら話してる?


「フン」(よし)


 もしそうなら、確かめなくては。

 僕は男達に向かって真っすぐに歩き出す。


「……」


「「「……」」」


 わざと男達の近くを通ったが、何もしてこず。

 ただじっくりと僕を見ているような気はした。


「……チッ」


 なんだったんだろう、一体。

 そんなことを思いながらも、この日は帰路についた。





 次の日、放課後。


「は?」


 今日も学園から帰るべく歩いていると、またも男達が校門近くにいる。

 というか、数が増えてないか?


「「「……」」」


 しかも、こちらをじっくりと見ている様子。


 なんだなんだ?

 僕が何か悪いことをしたっていうのか?


「チッ」


 だけど、このまま帰らないわけにもいかないので、気にせず校門から出て行く。

 ……が、今回は昨日とは違った。


「!」


 男達の内、何人か付いて来たのだ。

 進行方向は明らかに僕の方向。


「……フン」


 こうなればさすがに分かる。


「愚かな奴らだ」


 彼らは僕に用があるらしい。





 学園から歩き、しばらく。


「……」


 場所は商店街の裏道に入った所。

 

 この辺りには誰もいない。

 そろそろ回りくどいことをするのもやめよう。


「おい」

「「「……ッ!」」」


 僕はふいに後ろを振り返った。

 すると当然、付いて来ていた男達と目が合う。


「俺に用か?」

「「「……」」」


 相変わらずコソコソと話す連中。

 だけどその内、意を決したのか、一人の者が前に出る。


「お前がヴァルツ・ブランシュか?」

「生意気な口だな」

「……ヴァルツ・ブランシュ様でしょうか」


 口の利き方には気を付けてもらいたい。


 だって……この子ヴァルツは何をするか分からないからね!

 一応、あなたたちの為を思って言ってます!


「そうだが」

「やはりでしたか」


 で、話を戻すと、彼らは僕の顔と名前が一致してなかった。

 ならば、おそらく貴族階級ではない。

 良くも悪くもヴァルツの名前は広まっているからな。


「では、これで」

「は?」


 しかし、それだけを確認してから男達は去ろうとする。

 それはさすがに納得がいかない。


「質問に答えろ。用があるんじゃないのか」

「名前を確認したかった」

「……?」


 だが、男達の用はやはりそれだけのようで。


「顔が分かれば、後はを待つのみ」

「……」


 結局、それだけを言い残して男達は去って行く。


「なんだあいつら」


 不思議な人たちだった。

 何か僕を疑っているような感じはあるものの、悪い人達とも思えない感じだ。


「……チッ」


 だけどこの理由を、僕はすぐに知ることになる。







<三人称視点>


 暗い部屋にろうそくだけが灯された中、話をする二人がいる。


「どう思う? マギサ」

「……ない・・でしょ、ひゃくパー」


 ヴァルツの師匠──ダリヤとマギサである。


 二人が手にしているのは、とある依頼書。

 この依頼はAランク以上・・・・・・の冒険者のみ、秘密裏に受け取ることができたようだ。


 ダリヤとマギサはSランク冒険者のため、入手したようである。


「だよな」

「ええ」


 二人は実際に受注したわけではない。

 だが、そんな怪しい依頼に目を通さないわけにもいかないため、話を進めているようだ。


 二人は改めて依頼書に目を通す。


『最近、不審な人物を見かけることが増えた。彼らは夜になると姿を現し、まるで魂を奪われたような、異常な様子で王都を徘徊はいかいする。』


 最近のおんな事件について書かれているようだ。


『依頼の内容は、“真相の解明”。報酬は~』


 それを調べよとの依頼である。

 そして、依頼書には事前調査の情報も載っていた。


『そんな彼らから【闇】の属性が確認された』


 その事実から依頼書はこう締めくくられる。


『怪しい人物は、現アルザリア王立学園生であり、こうしゃくブランシュ家長男──ヴァルツ・ブランシュであると考えられる』


 【闇】が確認されたのであれば、こう言われるのも仕方がない。


 しかし、ダリヤは──


「……ッ」


 グシャっと依頼書を潰した。


「バカバカしい」

「同感ね」


 マギサも含め、怒っているのだ。


 たしかにヴァルツの態度はめられたものではない。

 それでも二人は知っていた。

 ヴァルツは人を無下に扱うような者ではないと。


「マギサ」

「……ええ」


 二人はすっと立ち上がる。

 長年の付き合いである彼らには、お互いの言いたいことが手に取るように分かった。


「「真実を暴く」」

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