幕間2

ヴァルツ様の夏休み

<ヴァルツ視点>


「ベッド最高ぉ……」


 およそヴァルツが発するとは思えない言葉をこぼしながら、あらためてその気持ち良さを実感する。

 高級ベッドはこうしゃく家様様だな。


「……ふぅ」


 期末試験から数日。

 学園は長期の休みに入った。

 いわゆる『夏休み』というやつだ。


 原作『リバーシブル』は日本のゲームだしな。

 夏には休みがあるもんだ。


「……」


 でも、ぼーっとしていると、つい思い出す。

 期末試験でルシアと二度目の対決をした時のことだ。


「ルシアか……」


 結果的には僕の勝利。

 だけど、ギリギリのところで勝った「辛勝」という感じだ。


 そんな結果をふまえ、改めて思う。


「主人公、強くね?」


 原作内でも二人は期末試験で再びぶつかる。

 それまでのシナリオで力をつけた、主人公プレイヤーの見せ所というわけだ。


 途中には一度ムービーも流れ、ヴァルツは「ほう」みたいな顔をする。

 つまり、原作でも多少の力は通用する。


「原作では【光】に目覚めた頃だっけ」


 学園で属性魔法を習得した頃だからだ。

 ルシアが本格的に魔法を扱い始める時期でもある。


 だが、その時は同時にヴァルツも【闇】を手にしている。

 なので最終的には「まだ及ばない」という感じのシナリオに落ち着くはず。


「それに比べればきんだったなあ……」


 まあ経験勝ちというか。

 剣の技量もあって何とか上回った感じだ。


「……」


 そうなった原因を考えてみる。

 まあすでに答えは出ているけど。


 結論、『物語の進行が早すぎる』。

 それに準じて、主に僕とルシアが強くなりすぎている。


「僕の修行の日々に追いついてくるところが、また主人公というか」


 もしかしたら、この世界はそんな風にできているのかもしれない。

 自浄作用……なのかは知らないけど。

 

 それにしても、なんだ【太陽】って。

 すでに原作最終盤ルシアより強いんじゃないか。


「僕だって」


 うぬれじゃないけど、現時点での原作ヴァルツよりは強いつもりだ。

 それに追いつくのは、ライバルながら天晴れだ。


 そんな時、


「ヴァルツ、少しいいか」

「……!」


 ノックと共に、部屋の向こうから声が聞こえる。

 父さん──ウィンド・ブランシュの声だ。


 僕は途端に顔がこわるのを感じながら答えた。


「構わん」

「邪魔するぞー」


 ここは父さんの家。

 夏休みということで、一度会いに来ていたんだ。


「ヴァルツ、さっき話していただろ」

「……ああ」


 そこで学園での事を話していた。

 その話から何を感じ取ったか、ニヤリとした父さんは提案してくる。


「今のお前にはとっておきの場所がある」

「?」


 後日、僕はとある場所へと足を運ぶことに──。







<三人称視点>


「……なんだここは」


 目的地に到着し、ヴァルツは改めて周りを見渡す。


 見渡す限り……海、海、ギャル、海。

 ヴァルツは王都を超えて、ビーチへバカンスに連れられていたのだ。

 隣の父──ウィンドにギロリと視線を移すヴァルツ。


「どういうつもりだ?」

「ははっ!」


 だが、父は笑いながら肩を組む。


「ヴァルツ、最近修行に行き詰っていたんじゃないか」

「……!」

「やっぱりな」

「そんなわけがない」


 言葉では否定するが、図星である。

 最近のヴァルツは、今までの動きをさらに磨くことのみ。


「……」

 

 ダリヤやマギサに修行を見てもらうこともある。

 それでも、やはり限界というものがあるらしい。

 ヴァルツの属性はただでさえ特別なのだ。


「だから、たまには息抜きというやつだ」

「……チッ」

「楽しめよ~」


 そう言い残し、ウィンドは真っ先に海へ。

 さらに、


「ヴァルツ様~!」

「ヴァルツくん!」

「……!」


 タイミングを見計らったかのように、聞き馴染んだ声が聞こえてくる。


 リーシャとシイナだ。

 そう、父ウィンドは二人も誘っていたのだ。


「てめえら、遅……──!」 


 ため息をつきながら振り返ったが、二人の姿を見た瞬間固まる。

 二人がバッチリとビキニできめてきていたのだ。


「可愛いですか? ヴァルツ様!」

「も~女の子は時間がかかるもんだよ」

「……ぐっ」


 リーシャとシイナは感想をほしそうに近寄ってくる。

 対して、目を逸らすことで対処するヴァルツ。


(二人とも、刺激が強すぎるよ……!)


 それでも二人は止まらない。


「えーひどいです!」

「いやいや~照れてるんじゃないの?」

「黙れ……!」


 バレバレだった。

 普段は本心を分かってくれる二人に感謝しているが、今回ばかりは仇となる。

 

「勝手に言ってろ」

「もう。ヴァルツ様は照れ屋さんですね~」

「ほら、海行こー!」


 そうして、二人に連れられてヴァルツも海へ。


(まあ、こんなのも悪くないか)


 考えることは色々あるのだろう。

 それでも、父の言う通り息抜きも必要かもしれない。


 そう考えると、楽しみたくなる気持ちが一気に湧いてきたヴァルツであった。





 海沿いのビーチにて。 


「ヴァルツ様!」

「ああ……!」


 リーシャが上げたトス。

 浮き上がったボールを──ヴァルツが思いっきりアタック。

 ふんわりめのボールは見事に相手陣営に落ちた。


「ナイスです、ヴァルツ様!」

「フン、余裕だ」


 俗に言う『ビーチバレー』である。


 リーシャがヴァルツに駆け寄り、二人はハイタッチ……は交わさず。

 傲慢ごうまんな意志力はそこまでは許していないようだ。

 

「強いよー、ヴァルツ君」

「当たり前だ」


 シイナがぶーたれた。

 リーシャ・シイナの相手が、シイナ・父ウィンドのようだ。

 

 ──そんなところに、刺客。


「じゃあボクたちはどうかな!」

「「「……!」」」


 現れたのは、サラ・コトリ、そしてルシアだ。


「は?」(なんでルシアたちが!?)


 当然のヴァルツの疑問。

 それに答えるようにサラが続けた。


「ボクたちもたまたま遊びに来たんだよね~。有名なリゾートだし!」

「それで、私たちとやろうって言うのですか?」

「ん?」


 そんなサラに対し、威嚇いかく気味に返したのはリーシャ。

 最近たまにヴァルツとしゃべる彼女を目撃しており、どこかライバル心を持っているのかもしれない。


「そうだよ、ちょうど三対三で」

「へえ。ですって、ヴァルツ様」

「……」


(ですってじゃないんだよ、ですってじゃ)


 このカオスな状況。

 反応に困るヴァルツだが、この一言で表情が変わる。


「今回は勝つよ、ヴァルツ君」

「……!」


 そう口にしたのは、ルシア。

 もはやツッコミは不在。


「面白い……!」





「では、私のサーブから!」


 リーシャがすっとコート外でボールを構える。

 

 それぞれの陣営は、


 ヴァルツ・リーシャ・シイナ

 ルシア・サラ・コトリ


 となっている。

 よく行動をする三人ずつである。


 そうして、いざコトリがサーブを打とうとした時、


「じゃあ負けた方の代表者が~」

「「「?」」」


 ニヤリとしたシイナが声を出す。


「好きな人に告白する!」

「「「はあ!?」」」


 からの突然の提案。

 思わずリーシャの手が滑り、ひょろひょろのボールが飛んでいく。


「ちょ、リーシャさんはどうせヴァルツ君でしょ!」

「急に言われたらびっくりします~!」


 どうやらシイナが相手を惑わす作戦だったようだが、うまくいかず。

 すかさずルシア陣営のサラがレシーブ、次にコトリがトスをした。


「コトリちゃん!」

「はい! ルシア!」

「うん……!」


 だが、ルシアの目が燃えている。

 シイナの提案がそうさせたのかもしれない。


「──【太陽・身体強化】」

「は?」

「うおおおおおおッ!」


 魔法を絡めた渾身のアタックを決める。


「そんなの!?」

「ちょ、ルシア君!?」


 まさかの本気ぶりに焦るリーシャとシイナ。

 反応したのは──ヴァルツ。


「【二律背反アンチェイン】」

「ヴァルツ君……!」


 まさかの魔法空間を起動。

 ルシアのアタックしたボールは勢いを弱める。

 意外とノリノリのヴァルツである。


「悪く思うな」(ごめんリーシャ、シイナ!)

「ヴァルツ様!」

「大丈夫だよ!」


 二人に少しの弱体化をかけてでも、ボールを生かす必要があった。

 もちろん効果は優しめの魔法空間だ。


 そうして、ヴァルツがレシーブから、リーシャの直接トス。

 ヴァルツがアタック態勢に入る。


「──動くな」(ちょっと立ち止まって!)

「「「……!」」」


 相手のコートにも及ぶ空間下での、絶対的命令。

 こちらも効果は優しめに。


 だが、その程度なら【太陽】を持つルシアは動ける。


「直接返す!」

「……!」(ルシア……!)


 ヴァルツのアタックを、そのままアタックで返そうとしている。

 二人の手はボールを介して交わった。


「うおおおおおお!」

「ハァッ!」


 そして──パァンッ!

 ボールの方が限界を迎えた。


 となれば当然……


「いてっ!」

「……ッ!」


 勢いのまま二人は頭をぶつける。

 そのまま砂浜に落っこちた。


「「「……」」」


 【二律背反アンチェイン】も解除され、それを見つめるメインヒロイン達。


「「「あっはっはっは!」」」


 次の瞬間には大爆笑に変わった。


 リーシャにシイナ、

「ヴァルツ様~!」

「何やってんの!?」


 コトリにサラ、


「ルシアは昔からもう……」

「いやあ~面白い!」


 全員が思い思いに言葉にする。


「いててて~」

「……まったく」


 ルシアは笑いながら、ヴァルツは顔を背けながらに立ち上がる。 

 だが、ルシアが握手を求めた。


「楽しかったね」

「……! フン、くだらん」

「もー」


 それを取り合うことはないが、なんだかんだ良き関係である。

 良くも悪くも、みんなヴァルツのことを分かっているのだ。


 なんて思っていると、


「あ、そういえば」

「シイナ?」

「誰も好きな人に告白できなかったね~」

「「「……!」」」


 忘れかけた頃にシイナが爆弾発言を出す。

 それには、サラが食いついた。


「ルシアは必死だったね」

「え!? 僕!?」

「え、ルシア好きな人いるの!?」

「違うよコトリ! いないいない!」


 ルシアサイドはわちゃわちゃ。

 対して、ヴァルツサイド。


「「じー……」」

「なんだてめえら」

「「別に~?」」

「……チッ」


 リーシャとシイナが促すが、ヴァルツがとっさに背を向けた。


(僕は……)


 少し真剣に考えてみた中のヴァルツを隠すように。





 そして、夕方。


「はー楽しかったね~」

「……黙れ」


 温泉の男湯にて、ルシアとヴァルツは話していた。


「ここの時間まで被っちゃって悪いね」

「じゃあ上がれ」

「それもちょっと~」

「……ったく」


 同じリゾート地に来たのなら、温泉が被るのも珍しくはない。

 また女湯側からは、


「それでヴァルツ様が~!」

「えーまじ!?」

「サラさんってお肌すべすべー!」

「探偵は肌磨きからってね」


 きゃっきゃとした声も聞こえる。


「「……」」


 当然男側は無反応だが。

 そして、ルシアが再び口を開いた。


「今日のは半分冗談だったけど」

「ああ」

「次の学期では、必ず君を!」

「……フッ」


 それを聞いて、湯から上がるヴァルツ。


「それを何回聞けば気が済む」

「もう言わないよ」

「……! フン、減らず口が」


 その表情はどこかニヤリとしているようにも見えた。

 遊びのような一日も良い息抜きになったのかもしれない。


 そして、改めて決意を固める。


(負けてられないな)


 ルシアの対しても。

 あとは、それ以上に。


(シナリオが早く進んでいるなら、もっともっと力をつけないと。みんなを守れるヒーローになるために)


 目指すものになるために。

 

 こうして、ヴァルツは夏休みを過ごす。

 息抜きの甲斐かいあってか、修行の質はさらに良くなり、新たな魔法のアイデアも沸いてくるのだった。


 だがそんな陰で、早く進み過ぎているシナリオは加速を続ける。


 ヴァルツはまだ知らなかった。

 彼らに未知の脅威が迫っているということは──。





───────────────────────

幕間ということで、ショートストーリーでした!


お話は息抜きの日でしたが、ヴァルツは夏休みを経てさらにパワーアップしてます。

その力を最終章で発揮してくれるでしょう!

ぜひその目で結末をお迎えください!


本日は少し遅れましたが、明日(11/18)からの最終章も20時過ぎ更新予定です!

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