第27話 再び交わり、そして

<三人称視点>


『アルザリア王立学園、一年期末試験、最終試合を始めます』


 学園の闘技場にて、審判の声が響く。


 魔王教団の一件から数日。

 事件が無事に解決してから、学園には平穏な日々が戻っていた。


 そんな中、今日は夏休み前最後の日程。

 前に教員から宣言されていた通り、生徒は『期末試験』を迎えていたのだ。


 そして、その最終戦。


『ヴァルツ・ブランシュ 対 ルシア』


 教員の声と共に、向かい合った二人が互いに視線を交わした。


「ヴァルツ君!」

「フッ」


 入学試験ぶりに、ヴァルツとルシアが再び相まみえる。


 前回はヴァルツの圧倒的な勝利。

 特別な二属性【光】と【闇】を持つヴァルツに、ルシアは歯が立たなかった。


「今日は君に勝つよ……!」

「平民が減らず口を」


 だが、今回は条件が違う。

 ルシアは【光】が覚醒した属性──【太陽】を持つ。

 それはヴァルツですら持っていない属性なのだ。


 そんなルシアを前に、ヴァルツは考える。


(五分五分。もしくは……不利か)


 覚醒属性【太陽】の可能性は未知数。


 それでも、ヴァルツには特別な二属性がある。

 【光】単体なら負けは濃厚かもしれないが、もう一つは相手の能力を下げる【闇】。


 勝機はまだまだある。


 それに、


(僕は二度と負けられない。そうだろ、ヴァルツ)


 心の奥底に問いかける。


 自分だけではない。

 本来のヴァルツとの約束も背負っているのだ。

 可能性は考えても、負けるつもりなど毛頭なかった。


『それでは両者……』


 審判が手を上げ、ヴァルツとルシアは剣を抜く。

 互いに準備は万端。


『はじめ!』


 そして、その戦いの火ぶたが切られた。


「うおおおおおおッ!」

「……!」


 瞬間、ルシアは真っ直ぐに距離を詰める。

 立ち止まったままのヴァルツに対して、いきなりの攻勢だ。


「──【太陽・身体強化】」


 魔法も開幕から全開。


 ルシア自身もだが、ヴァルツは【太陽】を全て理解したわけではない。

 ならば、力量でさっさと勝負を決めるのが先決。


 ルシアはそう考えたのだ。


「行くぞ!」


 何より、今のルシアには自信があった。


 学園が始まってからの修行。

 そして、それを経ての魔王教団での成功。

 それが一層ルシアに自信を持たせる。

 

 ──だが、

 

(当然そうくるよな……!)


 ヴァルツはあらかじめ読んでいた。


 立ち止まったままのヴァルツは、ルシアの動きに反応できなかったわけではない。

 距離を詰めてくる時間を用いて、属性を融合していたのだ。


「【二律背反アンチェイン】」


 発動させるのは、二属性を用いた最も得意な魔法。

 【光】と【闇】を融合した、自分に優位をもたらす魔法空間を展開する。


「──ひざまずけ」

「……ッ!」


 どちらも後先など考えていない。

 いきなり全開同士のぶつかり合いである。


「ぐぅぁっ!」


 ヴァルツの傲慢な命令により、ガクっと腰を下げるルシア。

 【闇】の弱体化で身体機能を下げられているのだ。


 ──しかし、


「今の僕は!」

「ほう」

「止まらない……!」


 ルシアは歯を食いしばりながら、足を立てる。

 魔王教団の魔力拡散装置の中ですら、魔力を溜めてみせたルシア。

 もう試験の時の彼ではないのだ。


(まあ、だろうな)


 ルシアの魔力が輝きを増していく。

 【光】と呼ぶのすら生温い【太陽】のような輝きへと。


「うおおおおおおッ!」

「くははは!」


 また、それに対抗するよう、ヴァルツは【光】と【闇】を強める。

 それが繰り返され、両者は共に魔力を上げていく。


「【太陽・身体強化】」

「【光・身体強化】」


 より出力が高い【太陽】の身体強化をするルシア。


 対して、魔法空間【二律背反アンチェイン】の効果により、【闇】で相手の魔力を奪いながら【光】の身体強化を行うヴァルツ。

 空間の性質上、相手の魔力が多ければ多いほど、その分奪う魔力量も増えていく。 

 

 両者の条件は、ほぼ一緒。


「行くぞヴァルツ君!」

「面白い……!」


 お互いの剣が交わる度、周囲に衝撃派が走る。


「うわああ!」

「観客席の結界は大丈夫か!?」

「ぶっ壊れるそうだぞ!?」

「キュイッ!?」


 二人を見守る観客(とペット)ですら驚く衝撃。

 その中心で戦う両者のそれなど、想像を遥かに超えるだろう。


 ──それでも、


「はあああああッ!」

「ハッハッハッハ!」


 どちらも一歩足りとも引くことはない。

 むしろ、交われば交わるほどにその激しさは増していく。


 それは後に、アルザリア王立学園に語り継がれる対決となるのであった──。

 



 



 月日は経ち、ここは王都の外れ。

 『魔王のほこら』と呼ばれる場所だ。


「フフフ……アハハハハ!」


 そんな場所に、不吉に笑う謎の人物がいた。

 その者はくるりと後ろに目を向ける。


「どんな気分だい?」

「や、やめてくれ……」


 震えながら答えるのは──魔王教団の『教主』。

 ヴァルツとルシアによって捕まったはずの彼は、囚人の格好をしている。

 また教主の後ろには、手足を縛られた他の教団員たちの姿もあった。


「魔王教団も落ちぶれたもんだね」


 この日、謎の人物は王国の牢獄ろうごくを襲撃。

 魔王教団をごそっと連れ出したようだ。


 だが、どう見ても協力関係ではない。


「皮肉だよねえ。魔王を研究していた君達自身が、最後は復活のための生贄いけにえにされるなんて」


 謎の人物の目的は『魔王の復活』。

 その為に教団を生贄に捧げるつもりのようだ。


「でも仕方ないか。君達が【闇】の属性を体内に持ってるんだから」


 強力すぎるヴァルツの【闇】は、未だに教団員たちの体の中に残り続けていた。

 謎の人物はそれを利用しようと言うのである。


「何か言い残したことはあるかい?」

「や、やめてください……」


 どことなく威厳のなくなった教主。

 だが、謎の人物は聞きもしない。


「無理。君達の使い道は生贄以外にないから」

「そ、そんな……!」

「さっさと行って」

「う、うわあああああ!」


 そうして、魔王が眠るとされる邪悪な色をした湖へ、教主をり落とした。


「じゃ、次」

「ひっ……!」


 さらに、体内に【闇】を持った他の教団員たちも湖へ順に落としていく。

 数分後、ようやく全員落とし終えた人物は一言。


「役に立てて良かったじゃん」


 それから呼吸を整え、謎の人物はその場で膝をつく。

 魔王へ祈りを捧げるようだ。


「ようやくお迎えすることができました、我が主・・・よ」


 目を瞑ったまま、人には聞き取れない言葉を話す。


「我が主に深淵しんえんあれ。※※※※※※※」


 その後、祠全体がうごめくような反応を見せる。

 およそ人智では計り知れない現象だ。


「おお……!」


 その現象に謎の人物は目を輝かせる。

 否、さらに目を黒く染める。


 そして、どこからともなく声が聞こえて来た。


≪よくやった。我が配下よ≫


 それは人々に絶望をもたらすような声色だった──。





───────────────────────

このお話で『第二章 本編開始』は完結です!

次に幕間を一つ挟みまして、物語は『最終章』を迎えます。

終盤で少しお休みしたのは申し訳ありませんが、完結まで書き切ります。

ヴァルツとルシアの対決の行方も後々!


そして、やはりヴァルツ様から一言!


「★★★だと? 勝手にしろ」

(皆さん、よかったら評価をお願いしますー!!)


本心を出せないヴァルツ様ですが、内心では頂きたく思ってるのかも……?

ツンデレのヴァルツ様やみんなを応援したい方!


その応援の気持ちを、ページ↓にあります『☆で称える』の+ボタンを3回押して、形にしてもらえないでしょうか!


すごく更新のモチベーションになります!

評価、そしてこれからの物語も何卒よろしくお願い致します!

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