第27話 彼らの選択
ヴァルツが【
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます」
ルシアが順に人質の縄をほどいている。
彼らの顔にはすっかり不安はなくなっていた。
そして、
「……っ」
それを横目でチラチラ見つめるヴァルツ。
(僕も解放してあげたいのに!)
どうやら『人々を解放する』という優しい行為は体が
またも、ヴァルツの強力な意思力が働いているのであった。
それならばと、ヴァルツは下方へ視線を戻す。
「どんな気分だ?」
「……ぐっ」
目の前にいるのは、魔王教団の者たち。
彼らは手足を縛り上げられた上、ヴァルツの【闇】によって動けなくされている。
どう
「本当は殺すところだったがな」
だが、ヴァルツは
彼の中の「正義のヒーロー」像はそうではないからだ。
またその考えは、ルシアも一緒のようだ。
「……」
ヴァルツは、先ほどのルシアの言葉を思い出す。
破壊魔法を放つ瞬間の言葉だ。
『ヴァルツ君! その人たちを──』
あの後のセリフは、ヴァルツには手に取るように分かった。
『殺さないで』
そう言いたかったのだろう。
実際にそれは当たっていた。
(僕と君は似ている……なんて言ったら、元のヴァルツは怒るだろうか)
二人は理解しているのだ。
“憎しみは憎しみしか生まない”と。
「……」
ヴァルツはふと前に視線を向ける。
そこには、放った【
トンネルを掘ったように大きな穴が空き、先には地上の姿も見えている。
あの物理的破壊魔法は、施設を破壊したのだ。
(教団のアジトは、ここのみだったはず)
ずっと隠れて生きてきた教団には、研究施設はこの場所しかない。
唯一の居場所がなくなった教団は、これ以上研究はできないだろう。
「お前達は終わりだ」
さらに、今さっきルシアによって王国警備隊へ通報が入った。
到着するなり教団は連行されるだろう。
ヴァルツは、あくまで『罪を
これが彼なりの『ヒーロー像』なのだ。
そんなヴァルツに、老人が口を開いた。
「ヴァルツ・ブランシュ、貴様は甘い」
「……」
「いずれ後悔するぞ」
「フッ」
それでも、ヴァルツは
「それがどうした」
「……!」
「その時は
そうして、向こうから優しい声が聞こえた。
「君で最後だね」
「あ、ありがとうございます……!」
ルシアの人質解放が終わったようだ。
そちらをヴァルツもチラリと確認する。
(よかった!!)
全員ケガもなく無事だったようだ。
「……ヴァルツ君、ちょっといいかな」
「ああ」
それから、ルシアがヴァルツの方へ向かってくる。
正確には教団の方へだ。
そして、教主に向かい合ったルシアは一言。
「アトラ村を知ってますか」
魔王教団によって滅ぼされた村だ。
ここまでくれば、教主も嘘をつかない。
「知っておる」
「村を襲ったのは、あなたたちですね」
「そうじゃ」
「……」
だが、教主はニヤリと笑った。
「だったら、我らをどうする?」
「……ッ!」
その言葉に、一瞬目を開くルシア。
「……ふぅ」
それでもすぐに落ち着きを取り戻す。
一つ深呼吸を入れ、再び教主に向き合った。
「罪を、しっかりと罪を見直してください」
「それだけか?」
「……はい」
ルシアの目にはどこか怒りも感じられる。
それでも彼は
「罪を見直し、次は人に役に立ってください。これ以上、人を不幸にしないために」
それだけを言い残し、ルシアは背を向けた。
怒りを抑えきれなくなる前に、目を
(ルシア……)
それでもやはり、中のヴァルツと共通するものがある。
ルシアもまた『罪を
これ以上、憎しみを連鎖させないために。
そして、人質の元へ戻ったルシア。
彼の元にみんなが集まる。
「助かりました!」
「すげえかっこよかったぜ!」
「さすがはルシアだ!」
「い、いや、僕は全然!」
人質解放の英雄として、もてはやされているみたいだ。
「……」
寂しいヴァルツの周りとは対照的に。
(どうして!)
やはり人望の差なのかもしれない。
──だが、そんなヴァルツにも仲間はいる。
「ヴァルツ様!」
「ヴァルツ君!」
「……!」
リーシャとシイナだ。
二人はルシアにお礼をした後、ヴァルツの元へ駆け寄ってきた。
「私は信じておりました! ヴァルツ様!」
「本当に助かったよ!」
「……邪魔だ」
目を逸らしながら
それでも内心ではホッとしている。
(二人とも、本当に良かった)
さらに、もう一人。
「ヴァルツ・ブランシュ君!」
「!」
そこには、相変わらず探偵の格好をした少女──サラだ。
以前にキュオネが暴走した時より、彼女はヴァルツの行動に不信感を覚えていた。
主に、言動と行動が見合っていないということについて。
そして、意を決したようにサラが口を開く
「君はやっぱり……」
「フン」
しかし何かを言いかける前に、ヴァルツが視線を逸らした。
「
「……ふっ!」
「何がおかしい」
対して、サラは思わず笑った。
すでに気づいているのだ。
ヴァルツが本当は良い人だということは。
「じゃあ今は、そのおまけとやらに感謝しておこうかな!」
「……!」
また、それを機に他の者たちもヴァルツの元へ寄ってくる。
「た、たたた、助かりました!」
「感謝しかございません」
「私なんかでは目障りでしょうが、本当に心より感謝を!」
「……!」
どこかまだ
それでも、確かに感謝はされている。
そんな言葉に、ヴァルツはくるりを背を向けた。
「……
ヴァルツの意思力が、勝手にそうさせたのかもしれない。
「ヴァルツ様……」
「も~いじっぱりめ!」
その光景には、リーシャとシイナも嬉し気な表情を浮かべる。
同時に、入口からは到着した王国警備隊の姿が見えた。
「そこまでだ!」
「まず人質の安全を確保!」
「教団を連行する!」
この場のヴァルツの役割は終わったのだろう。
ならばと、背を向けたまま口にした。
「俺は帰る。後は好きにしろ」
「え、ヴァルツ様!」
「最後までいなよ~」
リーシャとシイナが声を掛けるが、今は聞く耳を持たない。
「黙れ。俺に指図するな」
そう言い残してヴァルツは飛び出す。
少々強引にも思えるその行動。
「……フン」
だがそれは、とても傲慢には見えない表情を隠すため、意思力が働いたからなのかもしれない。
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