第24話 ルシアの覚悟

<ヴァルツ視点>


 シイナとも出会い、学園での日々が過ぎる。

 そうして、それなりに月日が経った頃だった。


「今月末に期末試験を行います」


「「「……!!」」」


 先生のその言葉に、教室がざわっとした。

 かくいう僕もだ。


(あったなー、そんなイベント)


 『学園パート』である学園内は、基本ヒロインの攻略や知人関係を広める場。

 しかし、期末の試験はしっかりと存在する。


(ということは、あれが……!)


 もちろん筆記試験なども、あるにはある。

 ただ、その中で目玉となるのが、“直接対決”。

 試験の時と同じような『一対一の対決』だ。


「ヴァルツ様、嬉しそうですね」

「そんなわけないだろう」


 リーシャにこう答えるも、内心僕はワクワクしていた。

 ここで再びルシアと戦うことになるからだ。


「……!」

「……フッ」


 チラリとルシアに目を向けると、あちらも僕の方を見ていた。

 やっぱり意識しているのだろう。

 同じ【光】を持つ者として。


「面白い」(面白い)


 久しぶりに、僕とヴァルツの口調が一致した。







<三人称視点>


 その日の放課後。

 学園内、とある修練場にて。


「うおおおおおお!」


 少年が声を上げる。

 原作主人公である──ルシアだ。


「そんなものか! 一年生ルシア!」

「まだです!」


 ルシアは、学園一の鬼教師から指導を受けている。

 教師の専門は『魔法』だ。


「ならば、もっと魔力を絞り出せ!」

「はい!」


 先日、キュオネが暴れた件はヴァルツが収めた。

 だが、ルシアは激しく後悔していたのだ。


「……ッ!」


 犠牲こそ出なかったものの、サラをはじめとして多くの人に迷惑をかけた。

 自分があの時点で【光】をコントロール出来ていれば、あんなことにならなかったのではないかと。


 そんな思いから、今まで以上に修行を重ねる。


「限界の状態でコントロールしてみろ!」

「はいッ……!!」


 【光】は特別な属性。

 それを理解している先生も、より厳しく指導しているのだ。


 そして、その様子を陰から眺める二人。


「ルシア……」

「ルシア君……」


 幼馴染のコトリに、探偵に憧れるサラだ。

 二人とも作中メインヒロインである。


 ルシアの様子を見ながら、サラが口を開く。


「ルシア君、追い込み過ぎてないだろうか」

「……分かりません。でも、あの日からずっと聞かなくて」

「みたいだね」

 

 これは誰がどう見ても無茶な訓練。

 先生も心を鬼にして指導しているようだ。


 だが、【光】をコントロールするというのは、それほどに大変なことなのだ。


「ぐうぅ……!」


(ヴァルツ君! 君は一体どれほどの……!)


 ルシアは歯を食いしばる。

 ヴァルツはこの【光】を制御し、もう一つの特別な属性【闇】さえも同時に、そして完璧に制御してみせる。


 改めてその凄さを痛感させられていたのだ。


(でも! それでも僕は君に追いつきたい!)


 そうして、ふと視線を向けたのは──コトリ。

 彼女の姿に、今は亡き・・・・故郷を思い浮かべていた。


(もう何も奪われないために……!)



────


 ルシアの故郷は、とある田舎の村。

 この村にはコトリも住んでいた。


 特に何かあるわけではない。

 それでも、ルシア達は不自由なく暮らしていた。

 田舎なりに人々が協力し合い、楽しく生活していたのだ。


 ──ある日までは。


『助けてくれ!』

『火がこんなところまで!』

『隣だ! とにかく隣の村へ!』


 起きたのは、突然の事態。

 突如として、村が火におおわれたのだ。


 未だに原因は分かっていない。


 だが、ルシアは目撃していた。

 ある集団、おそらく実行犯であろう者たちを。


『これで魔王教団もさらに発展するぞ!』


 魔王教団それが何を指すかは分からない。

 この村に秘密があったのかなども知らない。


 それでも、ルシアはちかった。


──もう二度と奪われないほど、強くなると。


 そうして、生き延びた幼馴染のコトリと共に、強さを求めてアルザリア王立学園に入学。

 今に至るのだ。


────


「うおおおおおッ!」

「……! 一年生ルシア!」


 声を上げたルシアに、先生が目を見開く。

 その反応に、ルシアも自身の手を見つめた。


「コントロール……できてる?」


 ほんの一瞬でだが、完璧に【光】を制御した。

 試験の時のようにただ直感でやるのではなく、意識して使いこなしたのだ。


「……うわっ!」

 

 だが、それはすぐにふっと消える。

 まだ長時間たせることはできないようだ。


「一年生ルシア、よくやった」

「先生……!」


 それには鬼教師もフッと笑顔を見せる。

 

「あとは、その感覚をいかに長く持続できるかだ」

「はい!」

「まだ続けるか?」

「もちろんです!」


 そこには、口調は違えど、修行をしていた傲慢ごうまんこうしゃくがと同じような目をしたルシアがいた。


(ヴァルツ君! 僕は、期末試験で君に勝つ!)


 ルシアもなんとなく予感していた。

 期末試験では、再び剣を交えることになると。

 それまでには、出来る限りのことをやるつもりだった。


「うおおおおおおッ!」

 

 そして、幸か不幸か、ルシアの真価が試される時がくる。

 さらに、それはまた、もう一人の主人公ヴァルツとも関わってくることとなるのだった。







 数日後、放課後。

 夕暮れ時を迎え、ヴァルツは帰るべく学園の玄関へと向かう。


「……」


 その中で少し考え事をする。


(珍しくリーシャが寄ってこなかったな)


 彼女にも事情があるのだろう。

 それは分かっているが、一声もかけてこなかったのは初めてだ。

 

(教室にもいなかったみたいだし……)


 とは思うものの、そこまで気にはめず。

 自立したならそれもめるべきだろう。

 

──だが、事態はとっくに悪い方向へ進んでいた。


「……!」


 突然、窓の方から鳥が入ってくる。

 その辺をよく飛んでいる鳥だが、何かをくわえているようだ。


「僕てか?」


 その鳥は、明らかにヴァルツへ咥えたものを差し出してくる。

 ヴァルツは恐る恐る手に取った。


「これは……!」

 

 咥えていたのは、急いでちぎったような紙。

 その中に衝撃の事が書かれていたのだ。


『かがいじゅぎょう ひとじち 敵はまおう教団』


 サッと書いたのか、字は汚い。

 だが、かろうじてそう読むことができた。


「どういうことだ……」


 突然のメッセージ。

 何らかのイタズラの可能性も考えた。


 だがそこで、ふと先日シイナと交わした会話を思い出す。


『今度課外授業あるんだ~』

『聞いていない』

『リーシャさんも一緒に!』

『だから聞いていない』


(その日は……今日! それに、普通なら帰ってきている時間だ!)


 さらには、


「ホー!」

「!」


 その鳥に付与されていた魔力に気づく。

 

(これは、シイナの【癒】属性か!)


 一度、シイナからその属性を食らっているヴァルツは、感覚を覚えていた。


 彼女の【癒】属性は動物へ使うことで、ダンジョン探索などで役に立つ。

 この使い方はまさに原作のそれだ。


「……!」

 

 そうなれば、いよいよ現実味を帯びて来る。

 このメッセージが本当の“SOS”なのだと。


「魔王教団ッ……!」


 ヴァルツの目が燃える。

 怒りと後悔・・の目だ。


(これは、僕の責任だ!)


 初めて会った時、彼らをこらしめるだけにしてしまった。

 その場では何もしなかったことに後悔したのだ。


「案内できるか?」

「くるっぽー!」


 その鳥に頼み、ヴァルツは三階にもかかわらず窓から飛び出す。


「──【光・身体強化】」


 ただ真っ直ぐに彼女たちの場所へ向かうために。


(今助けに行く! みんな!)





 また、同時刻。

 校舎の裏あたりにて。


「コトリー? サラさーん?」


 きょろきょろと辺りを見渡しながら、二人を探すルシアがいた。


「おっかしいなあ」


 ルシアは、課外授業があるというコトリとサラと待ち合わせをしていた。

 しかし、二人の姿が見えないようだ。


 ルシアも知る通り、とても約束をすっぽかす二人ではない。


 ──そんな時、


「……!」


 キーンと、ルシアの内側の何かが反応する。

 

(なんだ!?)


 何かは分からないが、一度体験したことがある現象だった。


 思い出したのは試験の時。

 ヴァルツの【光】にあてられ、自分の中の【光】が目を覚ました時だ。


 これはすなわち──『共鳴』。


(【光】が何かをうったえてきている……?)


 そして、光の導きか、ふと校舎を見上げる。

 そこには──たった今、【光・身体強化】を発動させたヴァルツ。


「ヴァルツ君!?」


 声を上げたが、届かない。

 相変わらず怖い顔だが、いつになく焦っているように見えたのだ。


(まさか……!)


 今の状況を考え、ルシアは最悪・・を考えた。


(コトリ! サラさん……!)


 自分が無駄に動くだけなら全く構わない。

 それよりも、もしここにいない二人に何かあったのだとしたら。


「──【光・身体強化】」


 ルシアは迷わず属性魔法を発動させる。

 少しコントロールを覚え始めたとはいえ、まだ力は発展途上。

 暴走の危険性はまだまだある。


「それでも、やるしかない……!」


 ルシアはその場をり出した。

 前方を行くヴァルツを追いかけるように──。





───────────────────────

過去の出来事や悔しさから、修行を重ねるルシア。

彼の覚悟が垣間見えたかなと思います!

そして、この流れは……初の共闘となるか!

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