第23話 新たなヒロインとの出会い

<ヴァルツ視点>


 キュオネと過ごし始めて数日。

 そんなとある日、お昼の時間。


「キュイ~!」

「よーしよし」


 僕は今日もキュオネをでていた。

 こうするためだけに、わざわざ遠い広場まで一人で来たんだ。

 これも、もはや日課になっている。


 キュオネは唯一、僕が口調を強制されない・・・・・・・・ペットだからね。


 ヴァルツの意志力もキュオネにいやされたか?

 なんてね。


「キュイッ!」

「お~満足か!」


 キュオネはあげたエサを目一杯にほおる。

 慌てて食べる姿もすごく可愛い。


 ──そんな時、


「ねえねえ」

「……!」


 突然とある少女が寄ってくる。


 しまった。

 キュオネに気を取られ過ぎて、周りの気配を探るのを忘れていた。


「なんだ」


 例のごとく、僕の顔は急にこわる。

 『人前では傲慢ごうまん』の制限がかけられたんだろう。


「君は、ヴァルツ・ブランシュ君だよね」

「そうだが?」


 僕の返事は至って単調。

 だけど、彼女の顔を見た瞬間に気づいていた。


 この子、間違いない!


「わたしは『シイナ・ステラ』だよっ!」

「聞いていない」

「も~噂通りの口調だなあ」


 やっぱりだ。

 僕も知っている通り、彼女はメインヒロインの一人。


 でも、なんでこんなタイミングで?

 ……あ。


 そう自分で問いかけて、自分で解決する。

 シイナの特徴を思い出したからだ。


「その子、見ーせて!」

「構わん」


 この子、大の動物好きなんだった……!


 ──メインヒロイン、『シイナ・ステラ』。

 通称シイナだ。


 短い栗毛色の髪に、童顔っぽいあどけない容姿。

 身長はさほど大きくないが、スタイルはそれなりのものを持つ。

 容姿からも想像できる、子どものような高めの声が特徴的だ。


 ちなみに、これでも一つ上の先輩。


「きゃ~かわいい!」

「キュイ~~!」


 シイナは早速キュオネと仲良くなっている。

 

 彼女の属性は【いやし】。

 主に動物に癒しを与えることで、懐かせることができる。


 戦闘には向いていないが、探索などにはすごく役に立つ。

 ダンジョン内の魔物や虫なども、協力関係にできるからね。


 ちなみにこの世界では、害のないものを『動物』。

 動物から魔力を得た存在を『魔物』と呼ぶ。


「こっちこっち~」

「キュイ、キュイッ!」


 それから彼女、作中屈指の人気キャラである。


 その要因は主に属性にある。

 人間も立派な動物だからね。

 彼女の【癒】属性によって……ごにょごにょ、というわけだ。


「ねえねえ」

「……! 触るな!」(わあっ!)


 そんな考え事をしていると、シイナが肘あたりをつんつんしてくる。

 僕はとっさに反応してしまった。


 そうだった。

 この子は距離が近いんだよな~。

 ヴァルツが怖くないのかな。


「俺が誰だか分かっているのか?」(僕が怖くないの?)

「もっちろん」


 彼女はふふんっと人差し指を立て、口にした。


傲慢ごうまんこうしゃくヴァルツ・ブランシュ!」

「そうだ」

「でも、実は優しいヴァルツ君!」

「は?」


 なんで!?

 まさか中身が違うことがバレたのか!?


「だってだって~」


 それに回答するよう、シイナはキュオネを抱きかかえた。


「動物好きに悪い人はいないんだよ!」

「……!」


 さらに彼女は、キュオネの手をひょいっと上げる。


「キュイ?」

「ほら、しっかりと手当てされてる~」

「キュイ~!」


 シイナが指差したのは、キュオネの手の傷。

 キュオネが部屋の中で飛び回り、ぶつけた時にできたものだ。


「やったのはメイドだ」

「でも、優しく扱っていたのは君だよね」

「……」


 か、完全にバレてる!

 僕がキュオネを思いっきりでていた事が!


「ほら、いいとこあるじゃ~ん。傲慢とかかっこつけちゃって、このこの」

「黙れ」

「お腹もちょっとぷっくらしてて……もしかして、可愛くてエサをやりすぎちゃったり?」

「だから黙れ」


 彼女のとうの口が止まらない。

 僕は内心あわあわしていた。


「それに見てたんだ~」

「何の話だ」

「君が周りの声を押し切って、この子を助けたとこ」

「……」

「君も好きなんでしょ? モフモフ」


 はい、その通りです!!

 と言いたいけど、そんな言葉が口を出ていくはずもなく。


「勝手に言っておけ」


 一度視線をらしておいた。

 シイナのぺースに合わせると、いつボロが出てもおかしくない。


 ──だけど、ピンチは続く。


「……!」


 横を向いた途端、とある人物・・・・・と目が合ってしまった。

 こちらに歩いて来ていたリーシャだ。


 待て、今はまずいんじゃないか?


「ヴァルツ様~?」


 そんなリーシャが呼び掛けてくる。

 ただし、目が全く笑っていない・・・・・・・・


 そばまで来たリーシャは、チラリとシイナに目を向けた。


「誰ですか? その女は」

「知らん」


 でも、その言葉にシイナはムッとした顔を見せる。


「えーひどい! 今友達になったじゃ~ん!」

「なっていない!」

「そうなんですか? ヴァルツ様」

「だから違うと言っている……!」


 でも、そんな言葉がリーシャに届くはずもなく。

 いつの間にか、リーシャとシイナが向かい合っていた。


「あの~、うちの・・・ヴァルツ様に何か用ですか」

「おかしいなあ、ヴァルツ君は誰のものでもないはずだけどなあ」


 すっと立ち上がり、胸を押し付け合う二人。

 なんだか、ただならぬ雰囲気になってしまった。


 なんでこうなる!

 メインヒロイン同士だから対立する運命なの!?

 

 ──そんな時、


「キュイー!」

「「「……!」」」


 キュオネが間に入って鳴き声を上げた。

 いつもの可愛い声ではなく、訴えかけるような声だ。


 僕たちの視線は、自然とキュオネへ向く。


「キュイ、キュイ!」

「……! 喧嘩はダメ、だって」


 キュオネの気持ちをシイナが代弁した。

 彼女には「なんとなく動物が気持ちが分かる」とか、そんな設定があったはず。


 少し落ち着いた二人の隙を見計らって、僕が口を開く。


「いい加減にしておけ」

「ヴァルツ様……」

「近くで騒がれると耳障りだ」

「す、すみません」


 キュオネの気持ちに、リーシャも少し冷静になったみたいだ。


 まあ、リーシャの真っ直ぐな性格は良い所でもあるからな。

 とがめる気は一切ない。

 僕もかなり救われているし。


わたし・・・もごめんなさい」

「俺の手をわずらわせるな」(大丈夫だよ)

「はい……」


 シイナが取り乱すのは中々珍しい。

 やはり、メインヒロインは最初は対立する運命にあるのかも。

 まあ、シイナにも別に怒ってなんていない。

 

 そして、女の戦い(?)を止めてくれたキュオネに、リーシャが近づく。


「キュ、キュオネちゃん?」

「キュイ?」


 彼女に話はしてあったけど、触れ合うのは初めてだな。


「あ、ありがとう」

「キュイ~!」

「……! ふふっ」


 そうして、リーシャはぎゅっとキュオネを抱きかかえた。


「可愛い……!」

「キュイッ!」


「……フッ」


 なんだかんだ、うまくまとまったな。

 やっぱりペットは正義かもしれない。


「リーシャさん、わたしからもごめんなさい」

「いえ、私も取り乱してしまいまして。すみません」


 二人はお互いに謝り、笑顔を見せる。

 ちょっと心配したが、これなら仲良くできそうだ。

 さっきのも喧嘩ってほどでもないしな。


「あと、リーシャさん」

「なにかしら」

「ちょっと抱き方が違います」

「……うるさいわね」


 ちょっと怪しげな雰囲気は残しつつ、だけど。


 こうして、キュオネを通してメインヒロインのシイナと出会った。

 『動物好きに悪い人はいない』という謎理論から、彼女も僕の本心を理解してくれるかもしれない。


 今後もシイナとは関係を深めていけたらいいな。

 そう思った一日だった。

 






<三人称視点>


 アルザリア王国、地下の秘密施設。

 ここには、とある暗部組織が住み着いている。


「フッフッフ……」


 ヴァルツにも接触してきた『魔王教団』である。

 彼らはこの日の当たらない場所で、日々魔王復活のための研究を行っている。


 そんな中、


「これさえ完成すれば!」


 教団のトップの老人がニヤリとする。

 今しがた、教団内で共有されたものに対してのようだ。


「我々を拒んだことを後悔するがいい、ヴァルツ・ブランシュ……!」

 

 その牙はヴァルツへと向く──。





───────────────────────

ここまでの原作メインヒロインと状況まとめ!



ヴァルツサイド


『リーシャ・スフィア』 属性【炎】

明るめの長い茶髪に、綺麗なスタイルを持つ。

ヴァルツが婚約破棄から救ったことで、勝手に婚約者だと言い張り、ヴァルツにまとわりつく。

ヴァルツも案外悪く思っていない。

じっとしていれば美人。


『シイナ・ステラ』(←New!) 属性【癒】

栗毛色の髪、全体的に幼めの容姿の一つ先輩。

動物が大好きで、自身も懐かれやすい特性を持つ。

人も誰でもフランクに接する明るい少女。

ヴァルツを「実は優しい人」だと思っている。


『メイリィ』(※原作ヒロインではないが、特別枠として紹介)属性【?】

黒髪を両サイドで留めた、メイド服の少女。

年齢はヴァルツ五つ上。

ドジっ子だが、ヴァルツに仕える気持ちは人一倍強く、唯一『坊ちゃま』呼びを許された部下。

たまに、ヴァルツの独り言(本心の口調)をニヤニヤしながら聞いている。



ルシアサイド


『コトリ』 属性【?】

黒髪ショートの髪をした、ルシアの幼馴染。

平民だが、好きな人ルシアの為に王立学園に合格できる努力家。

常にルシアと行動している姿が見られる。


『サラ』 属性【?】

憧れから探偵の格好をした、一つ上の遺跡研究科。

一人称が『ボク』のボクっ娘。

本来は勇者関連のイベントで役に立つ。

最初は不人気だが、親密イベントを進めるとかなりデレるらしい。

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