第22話 ペット公爵

<ヴァルツ視点>


 昨日のことがあってから一日。

 今日は休日のため、部屋でゆっくりしている。


「最近、色々あったなあ」


 そこで、ふと昨日までのことを思い出してみた。


 事の発端ほったんは、ダリヤさんとマギサさんが余計なお世話を働いたことから。

 二人は勝手にルシアからペンダントを奪い、僕の元に持ってきたのだ。


「まあ、良かれと思ってしたことだしなあ……」


 それはもう許したので、良しとする。

 でも、ペンダントは僕が持っても意味がない。


 ということで、物語の主人公であるルシアに返すことにした(苦労しながら)。


 そうして、ルシアがペンダントを持っていたことで、イベントが進行。

 封印されていた獣が姿を現した。


「あれはさすがにびっくりしたよ」


 だけどその獣は、不安定な【光】を送られたことで、“光の集合体”となって学園で暴走。

 それを、なんとか僕が鎮圧ちんあつしたわけだ。


 その後、安定した【光】を送ったことで、獣は本来の小さな姿に。

 他の者には渡すとろくなことにならないと思い、獣は持ち帰った。


 ここまでが最近起きた出来事だ。


「ふむ」


 さて、ここで問題が一つ。


 獣を持ち帰ったのは良かった。

 良かったんだけど……


「キュイ〜!」

「……」


 なんかめっちゃくちゃなつかれた。


 僕が放った【混沌の魔力カオスマター】は、相手の魔力をい尽くす魔法。

 マギサさんに毎日しごかれていた時のように、魔力枯渇こかつ状態にする魔法だ。


 戦場で意識を失えば、それは敗北を意味する。


 だけど、体を傷つけいるわけではない。

 なので、一晩寝かせればこの子も目を覚ました。


 それからはもう大変。


「キュイイ~!」

「ははっ!」


 この子が超かわいいんだ。


 白いうさぎ・・・に似たケモ耳付きの顔に、小さな体。

 僕でも抱きかかえられるサイズだ。

 両手は羽根のようになっていて、今もふわふわ浮かんでいる。


 しかも、


「本当に気持ち良いな~」

「キュイ、キュイッ!」


 これがもうモッフモフ。

 羽毛の触り心地は最高で、ずっと触っていられる。


 あとは、体の中央に【光】を表したような不思議な模様がある。


「まあ、だよね」


 それもそのはず、この子は『勇者の精』。

 はるか昔、勇者が共に旅をした妖精ようせいだ。


 まあ、いわゆるペットだね!


 もちろん原作プレイ時には僕も一緒に旅をした。


 でも、


「キュイイ~!」

「ん~!」


 とても悪役ヴァルツと行動していい生き物ではない~!


「こっちだぞ~『キュオネ』!」

「キュイ~!」


 ちなみに名前は『キュオネ』だ。


 「キュイ」の鳴き声から名前っぽくしてみた。

 それはもう意気いき揚々ようようと名付けたよ。


 ──そんな時、


「失礼します」

「……!」


 突然メイリィが部屋に入ってきた。


 途端に目元あたりにグッと力が入る。

 すんっと傲慢ごうまんな顔になったのだろう。


「メイド、今何か聞いたか」

「いえ、特に何も」

「ならば良い」


 セーフ!

 けど、あぶなっ!

 ヴァルツのキャラが根本から崩れるところだったよ!?


「それにしてもヴァルツ様」

「なんだ」


 メイリィの顔がふにゃっと柔らかくなった。


随分ずいぶんと懐かれましたね~」

「黙れ。こいつが離れないだけだ」

「キュオネという名前も素晴らしいです!」

「……」


 ニヤニヤしながらこっちを見てくるメイリィ。

 え、本当に聞かれてないよね……?


「もしよろしければ、もう一度触らせてもらえないでしょうか」

「しかたのない奴だ」


 このモフモフはたまらないからね。


「あ~可愛い~!」

「キュイイ~!」


 すごく同感。

 あと笑顔のメイリィも相まって眼福だ。


「ですが坊ちゃま、キュオネは学園ではいかがなさるのですか」

「そうだな……」

「お困りなら私が預かりますが」

「お前はたわむれたいだけだろう」


 メイリィの欲望は置いといて、僕もちょうどそのことで頭を悩ませていた。

 けどまあ、答えは一つだね。


「連れて行く」

「ですが、この子は暴れたことで話題に──」

「構わん」


 メイリィの言う事は正しい。

 でもキュオネの価値に気が付けば、どこで誰が狙いに来るか分からない。

 それはメイリィを危険にさらすことにも繋がる。


「俺に逆らう者などいない」


 それに、今はひと時も離したくない!


「かしこまりました」

「キュ~イッ!」


 ということで僕は、キュオネを明日からの学園へ連れて行くことにした。






★ 




<三人称視点>


 週が明け、また学園の日々がやってくる。

 カッカッと近づいてくるとある足音に、人々は道をゆずった。


「おい見ろよ」

「ああ、あれが……」

傲慢ごうまんこうしゃくヴァルツ・ブランシュ……」


 今日もヴァルツの名はとどろいているようだ。

 その名に恐れおののく者、道を譲る者など、その反応は様々。

 

 しかし、中には挑戦的な奴らもいる。


「よお、ヴァルツ・ブランシュ」

「あ?」


 ヴァルツに道を譲らず、真正面から立ちはだかる男。

 彼もそれなりの地位を持つ者のようだ。


「俺様はお前と戦いた──」

「黙れ」

「ぐぉあっ!」


 だが、ヴァルツは魔力で強化された何か・・で殴る。

 持っていたのは……ペット用の小さなボール。


(((なぜペット用のボール!?)))


 周りは一斉にそんなことを思う。

 だが、ヴァルツの背中には乗っていたのだ。


「静かにしろ」

「キュイィ……」

「こいつが起きたらどうするつもりだ」


 すやすやと眠るキュオネが。

 小さなボールは、この子と遊ぶためにわざわざ買った物のようだ。


 それを見ていた周りは、ひそひそと話す。


「な、なんだったんだ」

「さあ……」

「ていうか何? あの生き物」


 この日より、傲慢公爵が変な生き物を連れてると噂が広がる。

 同時に、その生き物が眠っている間は「絶対に近づいてはならない」という暗黙の了解も。


 裏では『ペット公爵』などと呼ぶ、恐れ知らずの者まで。


 さらに一部界隈では、


「ね~可愛いよね!」

「真逆な感じが最高~!」

「はぁ尊い……」


 ヴァルツとその生き物のギャップにえ、ファンクラブが結成されたとか、されていないとか……。





 そうして、とある日の昼。


「ねえねえ」

「あ? ……!」


 広場に一人でいたヴァルツに、話しかける少女。

 顔を上げた瞬間にヴァルツは気づいた。


(この子……!)


 その少女には見覚えがあったのだ──。





───────────────────────

ふわふわと浮かぶ、うさぎのようなペット『キュオネ』を仲間にしたヴァルツ様。

一部からはなんだか可愛らしいあだ名まで付けられたみたいです笑。

ただ、まだ大半は傲慢公爵だと思っていますね。


そして、最後に話しかけてきた少女。

ヴァルツが知っているということは……?

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