第25話 二人のヒーロー

 王都、とある暗い場所にて。


「いいか? 学園生ども」

 

 黒紫のしょうぞくを着た怪しい集団が告げる。


 彼らは『魔王教団』。

 ヴァルツと一度顔を合わせるも、全く相手にされず、かえって逆恨みしている集団だ。


 教団の信条は魔王の復活。


「お前たちは人質だ」


 教団の前には、アルザリア王立学園の生徒複数名と、一人の教員。

 この近くで課外授業を行なっており、その帰りに捕まってしまったようだ。

 

「「「……」」」


 中には、リーシャとシイナ。

 さらに、コトリやサラも捕まっていた。


 だが、口と手足を縛られており、大きな身動きは取れない。


「動くなよ」


 それでも、彼らの会話の中で『魔王教団』なる単語が聞こえた。

 それをシイナが聞き逃さなかったのだ。


(わたしにできることは、これぐらいしか……)


 すると彼女は、後ろの手でメッセージを残した。


 それを近くにいたクモへ【癒】属性を与え、やがてその属性づてに鳥まで届けた。

 その鳥がヴァルツの元へ訪れたというわけだ。


 動物を癒し、操ることができるシイナにしかできないSOSである。


 そんな中、連れの先生が激しく身を動かす。


「んー!」


 教団のしたが、先生の口元を解放する。


「どうした、教員」

「あなた達の目的はなんですか! 生徒たちを解放しなさい!」

「……ほう」


 先生の言葉には、ニヤリとした表情を浮かべる教団員。


「じゃあ、お前がたのしませてくれるのか? その体で」

「……っ!」


 そのまま、先生の胸元に魔法銃を向けた。


「生徒達を……解放するのであれば……」

「はっは! こりゃ立派な先生だ!」

「下っ端、やめておけ」


 だが、それは部屋に入ってきた他の教団員に止められる。

 教団の幹部たちだ。


 幹部は下っ端に向け、注意する視線を向ける。


「我々の目的を忘れたわけではないだろう?」

「分かってますって」

「ならば人質は多いに限る」

「はいはい」


 下っ端は少し面白くなさそうにうなずいた。

 しかし、疑いの眼差しで幹部へ聞き返す。


「それにしても、こんなので来るんすか? あのヴァルツ・ブランシュが」

「フン、奴自らが来ることはないだろう」

「じゃあなんで人質なんか」

「お前は本当に何も分かっていないな」


 幹部は呆れながらに口にした。


「人質を使って学園におどしをかける。そして人質解放の条件として、ヴァルツ・ブランシュをここに差し出すよう伝えるのだ」

「あーなるほどっす」


 これが彼らの目的のようだ。

 教団とて傲慢ごうまんなヴァルツが、わざわざ人の為に助けに来るなどとは思っていない。


 それはまた、人質の学園生も同じだった。


「「「……」」」

 

(あの傲慢公爵が応じるわけないだろ)

(学園から言われても完全シカトするわよ)

(俺たちどうなるんだよ!)


 だからこそ、生徒たちは余計に不安なのだ。

 学園が条件をんだとして、傲慢公爵ヴァルツが、わざわざ他人のためにおもむくとは思えない。


 一部を除いて、の話だが。


「「……」」


 リーシャとシイナは視線を交わす。


(ヴァルツ様!)

(ヴァルツ君……!)


 彼女らは信じている。

 ヴァルツなら、いやヴァルツだからこそ、絶対に助けに来てくれると。


 そうして、下っ端が再び幹部に語りかけた。


「じゃあ早くしましょうよ、学園へ脅しとやらを」

「お前に言われるまでもない」


 そうして、魔王教団側から声明を出そうとした、その瞬間。


「──その必要はない」

「「「……!」」」


 どこからともなく、聞こえてくる声。


 さらに、


──ドガアアアアアァァァ!!


 直後には、入口方面がぶっ壊される音が響いた。

 先程と同じ声が部屋内に響く。


「聞け。クズども」

「「「……!」」」


 二度目にして、ようやく教団は確信した。

 この声は、ヴァルツ・ブランシュであると。


「俺はお前達を全力で潰す」


 舞い上がった煙の中から、ヴァルツが姿を現す。

 彼の後ろにはルシアも一緒だ。


「みんな! 助けに来たよ!」


「「「……!!」」」


 二人のヒーローの登場に、


(ヴァルツ様!)

(ヴァルツ君……!)


 リーシャ、シイナはもちろん、


(ルシア!!)

(ルシア君!?)


 コトリにサラも含め、人質が目を見開く。


(ヴァルツ・ブランシュ!?)

(うそ! あの傲慢公爵が!?)

(でも後ろの子は【光】の少年だし!)

(助けに来たのか!?)

 

 反対に、


「ヴァルツ・ブランシュ……!?」

「なんで自ら!」

「というより、どうしてここが!」

「後ろの奴は誰だ!?」


 教団は一斉に取り乱した。

 ヴァルツが「他人の為に動く者ではない」と踏んでいた彼らには、予測できなかったのだ。


 だが一人、老人のような者が前に出る。


「自ら来おったか。ヴァルツ・ブランシュ」

「久しいな。その腰の曲がり具合が」

「ほっほ。老人は大切にせえ」


 この老人は現在の『教主』。

 以前ヴァルツへ接触した時も、代表して言葉を交わしていた者だ。


「どうじゃ。我ら魔王教団・・・・に加担する気になったかの」

「そんなわけがないだろう」

「じゃろうな」


 すぐに人質を助けに行かず、ヴァルツは教主の言葉に応じる。

 周りからすれば他愛たわいもない会話だが、ヴァルツはすでに探りを入れていた。


(この余裕。やはり何かがある)


 前に一度、【闇】の属性は教団に見せている。


 その上で行動を起こしたのなら、何らかの対抗手段を用意してきているのだろう。

 ヴァルツはそこまで読み取っていた。


「おや、早く【闇】を使わんのか」

「……」


 さらに、教団は徹底して人質の近くに立つ。

 範囲攻撃的に飛び出す【闇】では、生徒たちを巻き込んでしまう恐れがあるのだ。


 それが、ヴァルツがすぐに動かず、かつに手を出せない理由だった。


「では、出し惜しみせずにいくかの」

「……!」

 

 だが、教主側がついに仕掛ける。

 パチンと指を鳴らした途端、暗い部屋が大きな揺れを起こした。


(なんだ!?)


 一瞬動揺しながらも、ヴァルツはとっさに属性魔法で抵抗しようとする。

 自身を強化する【光】属性だ。


 ──しかし、


「……!?」(なんで!?)


 属性魔法が機能しない・・・・・

 正確には、魔力を溜めることができないのだ。


「どうしてだ!」

「……!」」(ルシア!)


 それは、隣のルシアも同じのようだ。

 

(何が起きている!?)


 そう思ったのもつかの間、ガクンと“重力のようなもの”がヴァルツとルシアへのしかかる。


「……ッ!」

「ぐううぅぅ!」


 ヴァルツは直観した。

 これは、今まで自分が使ってきた・・・・・・・・現象。


「貴様……!」

「ふひひっ」


 ギロリとにらむヴァルツに、教主は嫌な笑いを浮かべた。


「真似させてもらったぞい」


 これは、【闇】の弱体化のような現象。

 ヴァルツやルシアが重力にかかったように感じたのも、身体機能が制限されたからだ。


 だが、それだけではない。


「今、お主らは魔力も使えぬ」

「……ッ!」


 教主の言う通り、魔力を溜めることができない。

 これが、百年以上魔王について研究を続けてきた魔王教団の兵器。


 『魔力拡散兵器』だ。


(く、くそ……!)


 しかも皮肉にも、ヴァルツ自分が【闇】を見せたことで完成させてしまった。

 その思いが余計にヴァルツにのしかかる。


「終わりじゃ。ヴァルツ・ブランシュ」

「……そんなわけないだろう!」

「さすがは傲慢公爵。まだ認ぬか」

「黙れ……!」


 外面は相変わらず体裁ていさいを保ったまま。

 それでも、ヴァルツは確実に焦っていた。


(なにか、なにか逆転の手はないか……!)


 今のヴァルツに「諦め」の文字はない。

 だが、策を浮かばないのもまた現実。


 ──そんな中、


「……ハァ、ハァ」


 ヴァルツの後ろで、体を震わせるルシア。

 ヴァルツと共に姿を現した彼だが、途中からは静かだった。


 ルシアは混乱していたのだ。

 教主が自らを『魔王教団』と名乗ったことで。


(この人たちが、僕たちの村をおそった魔王教団、だって……?)


「……ハァ、ハァ」


 村が襲われた時の絶望。

 それが、力に変わる。


(魔王教団……!)


 このヴァルツの【闇】のような現象。

 それが、立ち上がる力をより強くする。


(この力には、二度と負けない……!)


 重なり合う二つの要素。

 それがルシアを奮い立たせる。


(負けてたまるか……!)


「うおおおおおお!」

「なんじゃと!?」


 そして、極めつけは『血統』。

 永く受け継がれてきた勇者の血が、今ルシアの力に呼応する。


「……ッ!」(ルシア……!)


 【闇】に唯一対抗できるのは【光】。

 【闇】が深まれば、その分【光】も強まる。


 教団の兵器が【闇】に似た現象を作ったことで、【光】もまた輝きを増した。


 悔しさ、闇への対抗、勇者の血。

 様々な要素が起因し、ルシアの中に眠る【光】が覚醒を迎える。


「僕は──」


 光は輝きを増し、やがて燃え上がるように周りを照らす。


「負けない……!」


 その輝きは──まるで【太陽】のように。





───────────────────────

ルシアの【光】が【太陽】に覚醒!

ヴァルツではなくルシアだったのは、文中にもある通り『要素がたくさんあった』からです。


……ヴァルツも負けていられませんね?

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