第19話 まさかの再会

<三人称視点>

 

 一日目を経て、ヴァルツ達の本格的な学園生活が始まった。


 校風はかなり自由のようだ。


 授業は、たくさん用意された中から、各自で必要と思ったものだけを選択する。

 『必修科目』なども存在するが、それほど多くはない。


 試験に合格した者は、それほど信頼を持たれているということなのだろう。


 また、戦闘施設や研究室も許可を取れば自由に出入りできる。

 まさに自己研鑽けんさんに最適な環境が揃っていると言える。





 そして、朝イチの授業。


「……フッ」


 ヴァルツは授業一番後ろの席を陣取る。

 いつものように腕を組み、偉そうな態度だ。


 ヴァルツレベルならば、受けなくても良いであろうこの授業。

 だが、実は誰よりも授業を真剣に聞いていた。


(楽しい……!)


 原作では、授業はそれほど細かく触れられない。

 そのため世界観を楽しめるだけで心がおどったのだ。


 しかし、外面が傲慢ごうまんな男による弊害へいがいはあった。


(動け、この体……!)


 体が真面目に授業を聞く態度を取れない。

 腕を組んでいるのもそのためだ。


 それもそのはず、教室にはたくさんの生徒がいる。

 人前も人前なのだ。


(なんだそれ! 傲慢というより、もはやひねくれ・・・・者じゃないか!)


 心の中ではそう思わざるを得ないが、動かないものはしょうがない。

 ならばと、この体で出来ることを最大限に活用した。


「あ?」

「「「ひっ……!」」」


 ジロジロと見てくる周りの生徒を、ガンを飛ばして威圧。

 周りは一斉に視線を逸らした。


 ──その隙に、


(【光・身体強化】!)


 強化系最上位属性である【光】を手先・・に集約。

 

(うおおおおおおッ!)


 ヴァルツは目にも止まらぬ速さでノートを取る。

 家に帰って復習するためである。


「……フッ」


 そして、また腕を組む。


(なんで授業を受けるだけで一苦労なんだ……)


 そんな苦労をしながらも、ヴァルツは授業を楽しむ。


 だが、ヴァルツの隣に座るリーシャ。

 彼女は一部始終をバッチリと目に収めていたのだ。


(可愛らしいです、ヴァルツ様)


「なんだ? 女」

「いえ、なんでも。……ふふっ」


 そんなこんなで、始まった学園生活を満喫するヴァルツ達であった。



 

★  




<ヴァルツ視点>


 学園から帰り、今の家である屋敷。

 寮などもそれなりに存在するけど、多くの貴族は学生街に家を借りたり、わざわざ建てたりする。


 僕のその内の一人だ。


「……」


 そして、僕は色々と考えていた。

 

 学園のこと、教団のこと、変わっているシナリオのこと。

 どれだけ考えても足りないほどに、考えるべきことはある。


 だけど、その間に来客があった。

 別にそこまではいい。

 

 問題は……その来客だ。


「へっへっへ」

「うふふ」


 僕の対面の席に座り、ニコニコしている二人組。

 いかにも褒めてほしそうな顔をしながら、こちらを見てくる。


「……」


 何からツッコもうか。

 まずは……うん、そうだな。


「なぜ、てめえらが王都ここにいやがる」


 まずはそれからだ。


「ひどいじゃねえか、ヴァルツ様」

「そうよお。そんな言い方しなくても」


 来客の正体は──ダリヤさんとマギサさん。

 二人とは、故郷で感動のお別れをしたって言うのに。


「質問に答えろ」

「おっと、そうだったな」


 そうして、ようやくダリヤさんが答える。


「俺たちはやとわれたのさ」

「誰にだ」

「すまねえ、そりゃヴァルツ様でも言えねえわな」

「……」


 まあ、それは仕方ないか。


 彼らは、依頼主からお金をもらう冒険者。

 依頼主の守秘義務は絶対だ。


「ならば、何をしにきたのか。もう一度言え」


 先ほど、目的は軽く聞いている。 

 でも、あまりに唐突で混乱してしまったんだ。


「これだよ、ヴァルツ様」


 ダリヤが袋から出したのは、一つのペンダント。


 白銀の表面に、周りにかすかに光を帯びている。

 いかにも普通のペンダントではない。


 ……というか、絶対に見たことある。


「『勇者の祠』で手に入れた。ペンダントだ」


 僕は思わず上を見上げた。


「……」(……ふぅ)


 なにやってんの、この人たち!?


 それって主人公の持ち物だよね!?

 しかも大切な授かり物!!


「詳しく説明しろ」(もっと詳しく!!)


 内心すごく動揺しているけど、ヴァルツの口は至って冷静。

 こんな時だけは傲慢口調も役に立つな。


ほこらに行ったら、ヴァルツ様と同じ【光】を持つ奴がいてな」

「ああ」


 間違いなくルシアだな。


「そいつが、謎の声でこれを授かっていたんだよ」

「ああ」

「でも、これが似合うのはヴァルツ様だろうって」


 はい、間違ってます。

 僕は【光】を宿したけど、悪役なんです。


「それで、取り返してやってわけよ」

「は?」


 考えが盗賊すぎるだろ。

 もしくは脳筋。


「それが依頼主の要望なんでねえ」

「……」


 いや、依頼主の要望なら仕方ないのか……。


 それと確信した。

 ここまでお世話焼きな依頼主は、爺やさんか父さんだ。

 どうせ「ヴァルツを最大限サポートしろ」とかそういう依頼だろう。


「チッ」


 ならば一旦、整理してみよう。


 依頼主は、僕のさらなる発展を願って依頼。

 二人は、傭兵として依頼主の通りに。

 ルシアは、原作通りに進んだだけだ。


 って、待てよ。


「おい」

「なんでしょう」

「その授かった奴の前で、俺の名前を出したか?」

「え、あ、いやあ……ははは」


 ダリヤさんは明らかに目を泳がせる。


「覚えてないっすね」

「あんた思いっきり出してたわよ」

「おい」


 と思ったら、マギサさんがジト目で突っ込んだ。


「……」(……ふぅ)


 僕は再び上を見上げる。


 二人はルシアにとっては知らない人物。

 そんな人物が、僕の名前を出しながらペンダントを奪っていった。

 となれば、ルシアは僕を疑うのが普通だ。


 あれ。

 もしかしてこれ、僕だけが悪者・・・・・・になってないか?


「ヴァルツ様、何か変なことしちまったか?」

「!」


 悩んでいたからか、ダリヤさんが控えめに聞いてくる。


 ここはどうするべきか。


 まず、このペンダントはルシアに返しておいた方が良い。

 勇者の祠イベントは、おそらく彼じゃないと進めることができないからだ。

 僕が持っていても何の価値もないだろう。


 ならば、そうだな。


「構わん」

「ヴァルツ様……!」

「むしろよくやった」


 とりあえず、こう言っておく他ない。


 その上で、これは僕が直々にルシアに返す。

 今のルシアと二人を、これ以上鉢合わせるのは危険そうだし。


「部屋は余分にあるだろう。勝手に使え」

「助かるぜ!」

「ええ!」


 なんとか話はまとまった。


 でも、一つだけ不安は残る。

 この傲慢なヴァルツに、人に物をあげるとか出来るのかな。


「……」


 いや、それでも!

 僕はルシアにペンダントを返す!

 絶対に!


 こうして、僕は謎の決意を固めるのであった。

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