第18話 ヴァルツの選択、二つの影

<ヴァルツ視点>


「いずれ魔王となられる者よ」


 集団の一人、老人がニヤリと語りかけてくる。


「さらなる力が欲しくはないか?」

「……!」


 黒紫に染まった、不気味な装束しょうぞく

 この特有の不審な雰囲気。


 こいつら、『魔王教団』か……!


 ──魔王教団。

 この世界における暗部組織のようなものだ。

 彼らの掲げる信念は「魔王の復活」。


 かつて勇者と血を争いあった魔王。

 勇者とは相打ちに終わったけど、今もなお裏社会では崇拝すうはいの対象だ。


 そしてこいつらは、物語後半・・でヴァルツに接触してくる。

 でも、一つ気になることがある。


 僕の所に来るのが早すぎないか……?


「……!」


 そして勘付く。


 本来ならば、ヴァルツが【闇】を発現されるのはもっと後半。

 学園で属性魔法を学んだ時に初めて灯すんだ。


 でも僕は、それを試験で披露してしまった。


 【闇】は魔王の系譜けいふである証拠。

 彼らがその噂を聞き逃すはずがない。


「……」


 同時に、僕の中でさらなる仮説が立つ。

 

 ルシアの【光】発現。

 教団のヴァルツへの接触。


 ──もしかして、僕が努力をしたことによって、本来よりとんでもなく早く話が進んでいる?

 

「ヴァルツ様……」

「!」


 そんな時、リーシャが不安げに腕にしがみついてくる。


 そうだった。

 色々と考える前に、まずは目の前のことを解決しなければ。


「どうされましたか、ヴァルツ・ブランシュ様」

「一つ聞く」

「なんでございましょう」

「お前たちは、魔王教団か?」


 まずは手探りからだ。


「なんと! 我らをご存じだったとは! 一体どこで情報を──」

「黙れ。お前に質問権はない」

「こ、これは失礼いたしました」

 

 やはり間違っていないかった。

 さらに魔王をうやまうからこそ、同じ属性を持つ僕にも下から接してくる。


「俺に何の用だ」

「我らは、あなた様の力になりたく思います」

「具体的に話せ」

「かしこまりました」


 それから、老人が話を始める。


 なんでも、王都には『魔王のほこら』なるものがあるらしい。

 そこにいけばさらなる力を得られるんだとか。


「ほう」


 このゲームをプレイした時、『勇者の祠』なら行った覚えはある。

 でもまさか、同じようなものが魔王サイドにも存在したとは。

 原作のヴァルツはここに行っていたのかな。


「いかがでしょうか」

「魅力的な話じゃないか」

「おお! では……!」

「ああ」


 だけど、僕には関係ない・・・・話だ。


「──断る」

「なっ……!」


 僕は真正面から断った。


「どうした。何か文句でもあるのか」


 僕は悪事に手を染めるつもりはない。

 魔王の復活も望まない。


 父や母、メイリィに爺や。

 二人の師匠に……そして、リーシャ。

 その他大勢のこの世界の人たちも含めて。


 僕はこの力を守るため・・・・に使うと決めたんだ。

 正義のヒーローのように!


「なぜですか! あなたは力を求めると──」

「お前に質問権はない。そう言ったはずだが?」

「……ぐっ!」


 老人は歯を食いしばる。

 それに、こいつらのやり口は知っているんだ。


しろにはならん」

「……!」


 こいつらが望むのは、あくまで「魔王の復活」。

 最終的には僕じゃないんだ。


 【闇】属性を使って、魔王を復活させる。

 そのために、やがて僕を生贄いけにえにしようとする。


「図星か?」

「お、おのれ……!」


 原作のヴァルツはそれに気づき、力のみを手にしたけどね。

 ともかく、こいつらとは今後付き合わない。


 ──それに、


「そんなものに頼らずとも、俺は自ら力をつける」


 僕は努力を惜しまない。

 ヒーローになるためなら。


「ぐ、ぐぐっ……」


 対して老人は、悔しそうに声を荒げた。


「なにを傲慢ごうまんなことを!」

「……フッ」


 その言葉には、図らずとも同意してしまう。


「ああ、そうだ。俺は傲慢こうしゃくヴァルツ・ブランシュ様だ」

「……! これは!」

「俺に口答えした罰だ」


 僕は彼らに【闇】属性魔法を付与。

 身体機能を弱体化し、動けなくする魔法だ。


「お前らのような低能は、そこで頭を冷やしておけ」

「おのれえええ……!」


 まあ、一時間もすれば解けるだろう。

 後は言葉を付け加えておくだけ。


「次はないぞ」


 そうして僕は、リーシャを連れてその場を去った──。







<三人称視点>


 その頃、主人公ルシア一行。

 彼らは学園前で会った少女に連れられ、『勇者のほこら』を訪れていた。


「す、すごいよルシア君……!」


 声を上げたのは──『サラ』。


 彼女も立派なメインヒロインのひとりである。

 探偵への憧れから、一人称は『ボク』だ。


 探偵のような格好をした彼女も、学園の先輩。

 普段は主に遺跡研究をしていて、歴史関連に興味がある。


「ボクの見込んだ通りだ!!」


 サラがルシアに接触したのは、【光】を持つ新入生が現れたと聞いたから。

 なぜヴァルツではないかは……おそらく人望の差・・・・だろう。


 そして、目の前の事象に戻る。


「サラ、これは一体なんなの?」

「ふっふ〜ん。これはだね……」


 ルシアに尋ねられ、サラは得意げに説明する。


 一行の前にあるのは、とある大きなせき

 綺麗な泉の中央に置かれ、勇者に関する“何か”が収められているとされる。


「でもね〜」


 だが、勇者が没して数百年。

 この石碑からは一切の情報が得られず、近年では「ハリボテ」、「偽の遺跡」とまで言われていた。


 それでも、サラは諦めず研究し続けた。


 そして、ようやく導いた答えは──【光】。

 【光】を持つ誰かが訪れれば、事は起きると推測していたのだ。


 そんな中、【光】を持つルシアが現れたことで、本当に石碑が光りだしたのだ。


「こんな反応、見たことがないよ!」

「そうなんだ」

「君は本当に【光】の持ち主だったんだね……!」


 ルシアに関心するサラ。


「むぅぅ」


 それをまたも後ろから眺めるコトリであった。


 ──そうして、


なんじ、【光】を持つ者であるか≫


「「「……!」」」


 どこからともなく声が聞こえてくる。


「答えて答えて!」

「は、はいっ!」


 サラの小声に促されてルシアは返事をした。


≪良い。ならば、それを証明してみよ≫


「証明?」


≪汝にこれを授ける≫


「……!」


 天からゆっくりと小さな物が落ちてくる。

 光り輝くペンダントのようだ。

 

 ルシアは水をすくい上げるような手で、ペンダントを受け取った。


「これをどうすれば?」


≪自ら導いてみよ≫


「え?」


しかるべき時、また訪れるが良い≫


「ちょっと!」


 そうして、謎の声は聞こえなくなった。

 一連のやり取りにサラは大興奮だ。


「すごい! この祠はやっぱり本物だったんだ!」

「そ、そうなんですかね」

「うん! 君の力もさ!」


 だが、具体的な行動は指示はなく、ただルシアにペンダントが授けられたのみ。

 ルシアは困惑した様子。


「うーん……」


 本来ならば、ここからたくさんの冒険を通して少しずつヒントを得ていく、そんな物語である。


 ──しかし、すでに運命は変わっていた。


「本当に【光】持ちがもう一人いたとはなあ」

「驚きよねえ」


「……!?」


 突然、物陰から聞こえてくる二人の声。

 おじさんに、おば……お姉さんの声だ。


「ま、うちの愛弟子は【闇】も宿したけどな」

「ちょっと。魔法を鍛えたのは私よ。自慢の息子みたいに言わないでくれる?」


 現れたのは、とある剣士ととある魔法使い。


「いいだろうがよ、マギサ・・・。剣を教えたのは俺だ」

「分かってないわねえ、ダリヤ・・・は」


 彼らの名前のようだが、ルシアは初対面。


「だ、誰ですか!」


「ガキには関係ねえよ」

「ごめんねえ。私たちも雇われた身だから」


「……ッ!」


 見るからに戦闘態勢の二人。


「くっ! 二人は離れて!」


 ルシアは剣を片手に、コトリとサラを引き離そうとする。


「ダメだよルシア! あの人達!」

「明らかに強そうだね。探偵のボクには分かる」


 だが、コトリとサラも武器を取った。


「良いねえ、学園生たち」

「若い子は好きよ」


 謎の二人組も本格的に構えを取る。


「【身体強化】」

「【|毒の装甲《ポイズン・アーマー】」


 そうして、ルシア達と謎の二人組がぶつかった。





 少しの戦闘後。


「ぐっ……」


 【光】を宿したルシアだが、その力は発展途上。


「こいつはもらっていくぜ」


 ルシアは敗れたのだ。

 その上、授かったペンダントを取られる。


 今の彼は知りもしないが、二人は王国元トップの剣と魔法使いだ。


「とにかく依頼は完了だな」

「そうね」


 意識がもうろうとする中、ルシアの耳には二人の会話が届いていた。


 その中で、とある人物が出てくる。


ヴァルツ様・・・・・、喜んでくれるかねえ」

「どうかしら。あの子、強情だし」

「ははっ、間違いねえ」


(ヴァ、ヴァルツ君……!?)


 その名前に、ルシアは驚きを隠せない。


(どういうことだ。どうしてヴァルツ君が!)


 傲慢でありながらも良い人だと思っていた。

 実際に助けられてもいる。


 だが、この会話で彼のことが分からなくなる。


「救援は呼んでおいたからね、坊や」

「ぐっ……」


 そうして、ルシアは意識を手放した──。





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ここで師匠二人が再登場です!

果たして彼らの目的とは……?

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