第20話 不審なヴァルツ君
<ルシア視点>
「ヴァルツ君……」
昨日のことがあってから、色々と考えてみた。
あの時、コトリとサラさんは途中で【毒】にやられて気を失っていた。
つまり、最後の会話を聞いていたのは僕だけからだ。
「どうして君の名前が……」
その中でたしかに聞いたんだ。
あの二人がヴァルツ君の名前を出したことを。
──そんな時、
「おい」
「!」
前方から声が聞こえて顔を上げる。
タイミングが良いのか悪いのか、ヴァルツ君だ。
「話がある」
「……!」
彼のその言葉でピンとくる。
やっぱり来た。
もしあの二人がヴァルツ君の手下なら、おそらく僕への口止めを考える。
そう思っていたんだ。
僕は慎重に、下から
「場所を変える?」
「必要ない」
「?」
だけど、そんな雰囲気はなく。
目付きが悪いのはいつものことだけど、何かしてくるわけではないような。
すぐに終わるってどういうことだろう。
なんて考えている内に──
「!?」
ヴァルツ君の顔が急に
「……! ……ッ!」
しかも、何かもがき苦しんでいるような表情だ。
後ろに隠れている右手も、なぜかプルプルしているようにも見える。
一体何をする気なんだ!?
「ヴァ、ヴァルツ君!?」
「……ッ!」
そうして一瞬顔を引きつらせた後、
「……チッ」
「!?」
急にふっと冷静になったヴァルツ君。
まるで何かを
「だ、大丈夫?」
「黙れ。俺の前から消えろ。
「……ええ」
と思えば、僕に
もう何がなんだか分からない。
「消えないなら俺が行く。どけ」
「うわっ!」
さらに、ヴァルツ君は僕に肩を当てながら歩いて行った。
「な、なんだったんだろう……」
『話がある』と言ったのはヴァルツ君なのに。
なんというか不思議な行動だった。
大貴族の感覚はやっぱり僕と違うのかな。
「あ」
そして気づく。
昨日のことも聞きそびれたことに。
★
<三人称視点>
誰もいないトイレにて。
ここは校内でも最も
その中で一人、
「なんで!?」
ヴァルツが控えめに壁を叩く。
失敗したからだ。
ルシアにペンダントを渡すことに。
「どういうプライド!?」
先程、ヴァルツはルシアに会った。
昨日の計画通りにペンダントを返そうとしたのだ。
だが、やはりというべきか、悪い予想が当たる。
ヴァルツの
「手も痛いし……」
そんなやり取りの中で、右手に隠し持ったペンダントを差し出そうとした。
だが、意志力がそれを許さず、中と外のヴァルツの力が釣り合って
結果、ヴァルツは自ら手を
ふっと冷静になったのは、一旦諦めたからだ。
「我ながらアホすぎる……」
ペンダント一つにここまで苦労するとは。
つくづくこの
「となると、次なる手は……」
そんな事を必死に考えるのもバカらしい。
だが、いずれの事を思えば、主人公であるルシアに返さないわけにもいかないようだ。
「いくつか方法はある」
たとえば、『ルシアの
「いやいや!」
思い付いておいて、ヴァルツは自ら頭を振る。
「スマホを持ってない小中学生のラブレターじゃあるまいし!」
恥ずかしさもそうだが、さらに不審に思われて終わり。
そう考えたようだ。
「却下で。次」
そうして、考えること少し。
「これだ!」
そうして、再び相まみえたヴァルツとルシア。
「おい」
「ヴァルツ君!」
「やはり邪魔だ。どけ」
声をかけつつ、またも道を開けさせる。
行動の不審さも極まり、ルシアからすればもはや怖いが、関係ない。
「あ!」
その最中でヴァルツはペンダントを落とす。
ルシアがそれに気づいて声を上げた。
「そ、それ……!」
「なんだ」
あえてはぐらかすヴァルツ。
だが、内心はガッツポーズである。
(よし、食いついた!!)
まさに計画通りだ。
彼の考えたまま、ルシアが
「それは僕に必要なものなんだ」
「……」
「返してくれないか?」
ペンダントは、ルシアも取り返そうとしていたようだ。
協力すると決めたサラのためでもあり。
過去の悲しい出来事を繰り返さぬよう、さらなる力を得るためでもある。
対してヴァルツは、
「好きにしろ」
「え?」
興味なさげに振り返った。
まるでそれが
「い、いいの?」
「二度も言わせるな。そんなものはいらん」
「そ、そうなんだ……」
その言葉には戸惑いながらも、ルシアは慎重にペンダントを拾う。
そして、とあることに気づく。
(まだ体温がある……)
先程までぎゅっと握りしめていたためだ。
横目でルシアの行動を見ていたヴァルツは一言。
「せいぜい
「……!」
口調は悪いが、言葉に込められた確かな優しさを感じるルシア。
今の行動も相まって意思を読み取りかける。
(返しにきてくれた?)
まだ半信半疑の上、二人組との関係も謎。
それでも「返ってきた」ことには変わりない。
(大貴族って難しい……)
どこか疑心は残りつつも、今は素直に受け取るルシアであった。
そして、当のヴァルツは、
(やったー!!)
なんとかペンダントを返すことに成功。
ようやくあるべき場所に戻すことができ、内心では喜びをかみしめる。
(よかった、よかった)
これで一件落着。
しばらく心配はないだろう。
……と思っていた。
ヴァルツの頭からは抜け落ちてしまっていたのだ。
現時点でのシナリオが、本来よりとんでもなく早く進んでいるということを。
★
数日後。
学園内の広場にて。
「何はともあれ、取り返せて良かったね。ルシア君」
「はい、少し不思議でしたけど……」
サラとルシアが共にお昼ご飯を食べている。
話題はペンダントについてのようだ。
「それはそうと、あれから変化はないのかい?」
「そうですね、特にないです」
「そうかあ」
ありのままを話すルシア。
何も変化がないことに、サラは少し残念そうだ。
──と思った矢先、
「……!」
突如として、首から掛けていたペンダントが光り始める。
『勇者の
「な、なんだ!?」
混乱するルシアに、再び謎の声。
≪
「……!」
その言葉で直感した。
この場合において、力とはおそらくひとつ。
──【光】属性のことだ。
「ルシア君!」
「はい、はい!」
それはサラも勘付いている。
ルシアは言葉のままに、ペンダントに【光】属性を込める。
だが、タイミングが悪かった。
ここにきて、物語が速く進行している
「──!?」
ペンダントの光が
異変が起きているのは間違いない。
「なんだ、光が強く……!?」
ゲーム内でも存在するこのイベント。
しかし本来ならば、もっと
正確に言えば、ルシアが【光】をコントロールし始めた後。
「まずい! ルシア君!」
「……!」
今のルシアの魔力制御はまだ未熟のまま。
強すぎる【光】を完全に扱いきれず、ただ力のままに込めてしまった。
その結果、
「【光】があふれる……!?」
ペンダントが正常な反応を見せない。
言うならば『暴走状態』のようなもの。
「……!」
とっさにルシアの頭に
『せいぜい大切にしやがれ』
(もしかしてヴァルツ君はこのことを!?)
そうして、あふれた光が爆発のような輝きを見せ、
「くううっ!」
「うわあっ!」
巨大な何かが姿を現した──。
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