第15話 圧倒的なまでの差
「ただの試験だとしても、僕は最後まで戦う!」
ヴァルツが【光】属性を解放し、まともに攻撃を食らった物語主人公のルシア。
そこで対決は終わりかと思われた。
その間際──
「まだ、だ……!」
「面白い……!」
ヴァルツの【光】に共鳴し、ルシアの中に眠っていた【光】が目を
かつての勇者にのみ許された特別な属性。
それを手に、再び両者は向かい合う。
「【光・身体強化】」
「【光・身体強化】」
両者は再び属性魔法を高めた。
「行くぞ、ヴァルツ君……!」
「──!」
再びルシアがヴァルツへ突撃。
だが、さっきまでとはまるで速さが違う。
(さすがだ。潜在的に扱い方を知ってるなんて!)
ルシアは【光】をたった今手にしたばかり。
普通ならば扱い切れない特別な属性を、直感で使ってみせる。
(それでこそだ、主人公!)
その理由は一つ。
ルシアが
この世界である学園RPG『リバーシブル』。
その全体像は、因縁の決着。
かつて戦い合い、共に滅びた勇者と魔王。
だが、その血は脈々と受け継がれていた。
勇者の血を引くルシア。
魔王の血を引くヴァルツ。
この世界は、それぞれの
「うおおおお!」
「クハハハハ!」
まだまだ荒削りではある。
それでも、ヴァルツはルシアに確かな潜在能力を見出す。
「僕は負けない! もう二度と!」
「いい! いいぞ……!」
このアルザリア王国において、かつて最高の剣士と言われたダリヤ。
彼を超えたことで、ヴァルツはもう上は望めないかと思っていた部分はある。
だが、まだいたのだ。
ダリヤと同等……もしくは、ダリヤ以上に手に汗握るような戦いをできる者が。
その速すぎる両者の剣技は、観客を魅了する。
「なんなんだよこれ!」
「これが試験ってまじか!?」
「こいつらが入ってくるのか!?」
戦いを見守るのは、同じ受験生だけではない。
在校生や教師陣も含めた、学園関係者も多い。
そんな人々を魅了する二人のぶつかり合い。
これには【光】の本質が起因している。
人々に希望をもたらす【光】。
この属性を目にするだけで、人々の心は踊り、気持ちが引っ張り上げられるのだ。
──それでも、
「ぐうぅぅぅ!」
「……」
やはりヴァルツには届かない。
それほど、両者には圧倒的なまでの差がある。
そんな状況に、ルシアが必死に問う。
「君は一体どれほど!」
「あ?」
「どれほど積み上げてきたと言うんだ……!」
ルシアとて並大抵の努力量ではない。
そう言いたくなるのも仕方がないだろう。
しかし、対してヴァルツはニッと笑った。
「俺には努力など不要だ」
「……! くっそおおおお!」
もちろん
二年もの間、二人の鬼師匠にしごかれ続けたヴァルツだが、
ここにきて原作通りのセリフである。
「うわあああああああ!」
「……!」
そうしてヴァルツは、ルシアの異変に気づく。
ルシアの攻撃が荒くなっているのだ。
剣の型は乱れ、【光】のコントロールも失い始めている。
(これは……)
たとえ勇者の子孫とはいえど、今のルシアは
最初はうまくいっても、長くコントロールすることはできなかったようだ。
(この辺までかな。それにしても……)
「雑魚が」(強かったよ)
「……!」
一度距離を取ったヴァルツ。
片方に手に灯したのは、今使っている【光】。
そして、
「終わりだ」
「そ、そんな……!」
もう片方の手に灯すは──【闇】。
その姿にはルシアでさえ絶望の顔を見せる。
世の中でも特別と言われる二属性。
目の前の男は、その両方を
これには、観客も思わず同じ反応を見せる。
「冗談だろ……?」
「あんなの無理だろ……」
「そこまでいくともう……」
さっきまでは盛り上がっていた会場は一転。
あまりに光景に静まり返ってしまう。
ヴァルツが化け物すぎるのが原因ではある。
だが、これこそが【闇】の本質。
人々を絶望させる【闇】。
輝かしい【光】とは対極の性質が、観客の熱意を奪っている。
「
「……!」
しかし、これだけではない。
右手に【光】、左手に【闇】を灯すヴァルツ。
その対極とも言える両属性を──
「クックック……」
その瞬間、ルシアとヴァルツを囲う『魔法空間』が展開された。
輝かしい【光】とドス黒い【闇】。
二つが交互に混ざり合った不思議な色だ。
地面からも同色の魔法陣が浮かび上がっている。
「ハーハッハッハ!!」
ヴァルツに【闇】が発現してから約半年。
彼は魔法の師匠マギサと、これについて研究を行ってきた。
普通ならばできるはずがない。
かつて血を争い合った、両極端の属性を合わせることなど。
だが、ヴァルツはやり遂げた。
光のような内心、闇のような
そして、ヴァルツはこの魔法の名を口にする。
「【
ヴァルツが口にした途端、
「ぐぁっ!?」
ルシアが苦しみ出す。
「な、なにが……!」
「クックック」
ヴァルツが生み出した魔法空間【
これはいわば、光と闇の
相手には【闇】の『弱体化』を与える。
自分には【光】の『強化』を与える。
【闇】の力によって相手の魔力を吸い取り、そのまま【光】の力によって自分のものにする。
まさに
ヴァルツによる、ヴァルツのための魔法だ。
そして、ヴァルツは試験を終わらせる。
「──
「……がっ!」
この空間で、ヴァルツの命令は絶対。
この優位がひっくり返ることはないのだ。
「フッ」
膝をつき、何も動けないルシア。
対して、ヴァルツは
一切の焦りもなく、ただ一直線に。
そうして、ルシアの目の前で剣を向けた。
「言う事があるだろう」
「……僕の、負けだ」
『勝者、ヴァルツ・ブランシュ!』
あくまで自らは宣言せず。
相手に降参させる傲慢ぶり。
これがヴァルツ・ブランシュである。
「ありえねえ……」
「こんなの無理だろ……」
「相手の子が可哀想だ……」
観客の反応は絶望に染まる。
これは元より持っていた【闇】の方が強い表れかもしれない。
そうして、ヴァルツはパチンと指を鳴らす。
【
「ぐっ! ……ハァ、ハァ」
弱体化は解除されたが、まだ息を切らすルシア。
その目はヴァルツに向けられている。
「……」
本来ならば、敗者にかける言葉はない。
しかし、背を向けたヴァルツは最後に口にした。
「這い上がってこい」
「!」
それが優しさだったのか、嫌味だったのか。
まだヴァルツをよく知らないルシアには分からない。
──それでも、
「必ず……!」
ルシアの目は光を失っていなかった。
「フン。それでいい」
そうして、ヴァルツは振り返ることなく、試験場を後にした──。
───────────────────────
ヴァルツとルシアの初対決となった試験は終了!
ルシアは【光】を宿しましたが、ヴァルツが本来より強くなっていたことで、結局原作通りに進んだみたいですね!
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