第14話 主人公との邂逅(かいこう)

 校門からリーシャと歩いてしばらく。

 広い敷地を歩いてようやく玄関に来たと思えば、何やら騒ぎが起きているようだ。


「この女がぶつかってきたんだよ!」


 一方はいかにも乱暴そうな声。

 どうやらこの男と、女の子がぶつかったらしい。


「違う彼女じゃない! 僕は見ていた!」


 そして、もう一方は女の子を守るような声。

 彼によれば、女の子からぶつかったのではないと言う。


「ヴァルツ様。何やら起きているみたいですね」

「ああ」


 そんな雰囲気を察してリーシャが顔をうかがってくる。

 でもこんな事態……


「雑魚どもが」


 放っておけるわけがない。


「お前はそこで見てろ」

「ふふっ。やはり助けられるのですね」

「黙れ。目障りなだけだ」


 リーシャに一声かけ、僕は足に【光】の属性魔法を込めた。

 その間にも騒ぎは激化する。


「ぶん殴られなきゃわかんねえのか!」

「やめるんだ!」

「うるせえ!」


 そうして、乱暴そうな男がいよいよ手を出そうとする腕を──


「うるせえのはてめえだ」(そこまでだ)

「──なっ!?」


 僕が止める。

 【光】属性魔法を使った高速移動だ。


 男はこちらをギラリとにらみ……みるみるうちに顔を青ざめさせていく。


「ヴァ、ヴァルツ・ブランシュ!?」

「あ?」

「はっ! ヴァルツ・ブランシュ様!」


 目付き(無意識)に気圧けおされたのか、男はとっさに敬称をつけた。

 別に敬う必要なんてないんだけどね。


 さらに、男は必死に言い訳をしようとする。


「違うんです! あの女がぶつかってきたから俺は──」

「知らん」

「え?」


 でも、それを聞く気はない。

 現場を見てない僕には、どちらが悪いか判断しようがない。


「朝から目障りだ。俺の進む道でわめくな」

「え、あ、は、はい……」


 騒ぎが収まればそれで十分。

 僕は誰も傷つけるつもりはない。

 それがヒーローってものだからな。


「さっさと散れ」

「し、失礼します!」


 一気におとなしくなった乱暴そうな男は、慌てて中へと入って行った。


 となると。


「……」


 僕はもう片方に目を向ける。

 

 いたのは二人。

 やっぱりだったんだな。


 主人公──『ルシア』。

 そして、その幼馴染──『コトリ』。


 どうやらコトリが難癖をつけられて、それをルシアがかばっていたようだ。


「あ、ありがとう……」

「ありがとうございます!」


 二人はペコリと頭を下げた。

 

「だから目障りだっただけだ」

「え、でも君は助け──」

「黙れ」


 だけど、傲慢なヴァルツにお礼にされても何も出せない。

 僕はチラリと後ろに目を向けた。

 

「行くぞ、女」

「はい! ヴァルツ様!」


 そしてリーシャを呼び、そのまま玄関へと入って行く。

 今はこのぐらいでいいだろう。


「……フッ」 


 どうせすぐに・・・会うことになるのだから。

 

 そうして歩くことしばらく。


「ヴァルツ様、先ほどは何かお楽しいことでも?」

「どういう意味だ」

「笑っておられましたので……」

「!」

 

 彼女に言われて初めて気づく。

 そうか、僕は楽しみなのかもしれない。


「さあな」


 主人公とすぐに戦うことになるのが──。







<三人称視点>


 この日はアルザリア王国学園の試験日。

 ヴァルツやリーシャが学園へ来たのもそのためである。


 試験内容は至って簡単だ。

 学園側から指定された「対戦を三度こなす」こと。

 また、その三人はいずれも違う対戦相手となる。


 実力主義をうたう、この学園だからこその試験内容だ。


『勝者、ヴァルツ!』


 そんな試験はトントン拍子に進んで行った。

 毎年同じ内容の為、進行もスムーズなのだ。





 ──そして、いよいよ迎えたのは最終戦。


「お前か」

「君は……朝の!」


 相まみえたのは、ヴァルツとルシア。

 物語のラスボスと主人公だ。


(来たな、ルシア!)


 この試験は、学園RPG『リバーシブル』におけるチュートリアル。

 プレイヤーに対して、世界観や操作方法を教えるためのものだ。


「勝っているのか」

「うん……!」


 そして、三度目のヴァルツ戦は、いわばチュートリアルボス。

 その上負けイベント・・・・・・だ。


 『学園にはこんなに強い人がいて、彼がいずれ超えるべき壁です』ということをプレイヤーに伝えるための相手である。


 ヴァルツはこれをずっと楽しみにしていた。


(さあやろう、主人公……!)


 この世界に転生して二年。

 恵まれた才能と努力で培った力を、ここで主人公に発揮したかったのだ。


「くだらん相手だ」(楽しみだよ)

「……!」


 だが、相変わらず傲慢ごうまんな口は本心を言わない。

 そんな言葉が彼の闘争心に火をつける。


「僕だって……!」


 そうして、いよいよ対決が始まる。


『それでは試験最終戦、ヴァルツ・ブランシュ対ルシア』


「……」

「……」


 互いに剣を持ったまま見つめ合い、


『はじめ!』


 同時に一歩を踏み出した。


「うおおおおお!」

「……」


 一直線に向かってくるルシアの剣。

 ヴァルツはそれをなんなく受け止める。


(基本となる型、ある程度の無属性魔法は身に付けてきてるか)


 その一瞬の攻防で、今のルシアの実力を見抜く。


 剣はそこそこ。

 属性に変換せず、魔力を操るだけの【無属性魔法】もある程度は使えるようだ。


 ──それでもやはり。


「そんなものか」

「……! ぐぅっ!」


 ヴァルツには全く届かない。

 彼にとってはまるで赤子の相手をしているよう。


「くだらんな」

「なに!」


 そうして、ニヤリとするヴァルツ。

 少し力を見せるつもりのようだ。


「教えてやろう」

「……!」

「本物の力というものを」


 ヴァルツが手に灯したのは──【光】。

 そのまばゆい輝きに、会場にいた他生徒はぎもを抜かれる。


「おいあれって!」

「まさか、冗談だろ!?」

「【光】なのか!?」

「バカな! あの伝説の勇者以来、一人も現れていないんだぞ!?」


 その輝きは、一目で【光】だと直感できる。

 それほどに美しい純粋な眩しさ。


「ついてきてみろ」

「……!」

「【光・身体強化】」

「え? ──うわぁっ!」


 強化系属性の最上級である【光】。

 それを使った【身体強化】は、無属性のそれとは比較にならない。


「ぐっ、うぅ……」


 ほんの一撃与えただけ。

 それだけでルシアが膝をつく。


(期待し過ぎだったかな)


 少し残念な気持ちも含みつつ、ヴァルツは改めて実感する。

 この属性だけは“特別”だと。


「終わりだな」

「……ぐっ」


 まだ物語は始まったばかり。

 ならば、この実力差があっても仕方ない。


 ──そう思った時。


「まだ、だ……!」

「!」


 ルシアが起き上がる。


 その行動にヴァルツは思わず目を見開いた。

 これはあくまで試験。

 ここまでする必要は決してないのだ。


──それでも。

 

「僕は学園に一番になりにきた」

「……」

「もう二度とあんな思いをしなくていいように!」

「……!」


 ヴァルツの心がドクンとする。


(なんだ、これは……!)


 危険察知……いや、違う。

 これは共鳴・・


「ただの試験だとしても、僕は最後まで戦う!」

「クックック……」


 その姿にヴァルツは思わず笑みを浮かべた。


(やっぱり君は主人公なんだな……!)


 本来ならば、学園に入ってからしばらく後に・・・・・発現するはずのもの。

 それが、ヴァルツが持つはずのない【光】を見たことで、主人公の中に眠るそれが目を覚ます。


「まだだ、ヴァルツ君!」

「面白い……!」


 主人公の魔力が、輝かしい光を放つ。

 それは紛れもない──【光】。


 両者は再び属性魔法を高めた。


「【光・身体強化】」

「【光・身体強化】」


 両者の剣は再びぶつかり合う──。

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