第12話 ヴァルツの力、そして旅立ち

 「本当にいいんですよね。ヴァルツ様」

「遠慮はいらん」


 リーシャがこちらをうかがうように尋ねる。

 僕に促された彼女は、ぐっと杖を構えた。


「では、いきます……!」


 目覚めてからすぐ、僕たちは庭へ出てきた。

 一刻も早く『力』とやらを試すためにだ。


「「「……」」」


 遠くでは師匠二人、メイリィが見守っている。

 そんな中、リーシャが言う通りに魔法を発した。

 

「【豪炎マグナ・フレイム】!」


 一心に向かってくる【炎】の属性魔法。


 対して僕は、


「──!」


 心の中でずっとうずいているものをちゅうちょせずに表に出した。


「うおっ!?」

「嘘でしょう!?」

「ヴァルツ様!」


 そうして顕現けんげんしたものに、周りは声を上げた。


 目の前に現れたのは、ドス黒い属性魔法。

 それが、リーシャの強力な魔法をいとも容易く抹消まっしょうしてみせたのだ。


「ほう……!」


 その力に僕自身も驚く。


 ヴァルツから「力を使え」と言われた時、なんとなくそうじゃないかと思っていた。

 けど、実際に目にして改めて存在感を実感する。


「これが……【闇】!」


 属性魔法──【闇】。

 ヴァルツが本来持つはずだったものだ。


「こいつはいい」


 人々に“希望”をもたらすとされる【光】。

 その特性は【強化】。

 まさに人々を元気づける特性だ。


「クックック……」


 逆に、人々に“絶望”をもたらすとされる【闇】。

 その特性は【弱体化・・・】。


 相手の身体機能を下げ、ひざまずかせる。

 まさにかつての魔王にふさわしい属性だ。


「ハッハッハッハー!」


 リーシャの属性魔法をかき消したのも、この特性が働いている。


 彼女の魔法が【闇】に触れた瞬間、それを極限まで弱体化。

 結果的に【豪炎マグナ・フレイム】の魔力が0となり、消えたように見えたというわけだ。


「おいおい、ヴァルツ様よお……」

「冗談はよしてほしいわ……」


 検証が終わり、師匠二人が寄ってくる。


「いつの間にこんなものを!」

「そうよお! 【光】を宿しただけでもありえないのに! 前代未聞どころじゃないわ!」


 この場合はなんと答えるのがいいんだろう。

 実は中身が違う人でしたー、なんて言えるはずもない。

 そんな言葉がヴァルツの口から出ていくとも思えないし。


「……フッ」


 それなら、今はこう答えておこう。


「俺に不可能があるとでも?」

(俺に不可能があるとでも?)


「……ははっ!」

「今さらながら、とんでもない子の師匠になっちゃったわ」


 師匠二人はもはやあきれ半分。

 受け入れるしかないといった感じだ。


 我ながら、今のはかなりヴァルツぽかったんじゃないかな?


「ところで──」


 そして、ふと反対側に顔を向けた。


「てめえらは何をしている?」


 リーシャとメイリィの方だ。


「ああ、ヴァルツ様……!」

「私はもうダメです……!」


 二人はお互いに体を支えながら、動けないでいる様子。


「ヴァルツ様、私はもう一生あなた様に付いて行きます!」

「……」

「はい。私もメイドとして一生坊ちゃまの元に!」

「…………」


 よく分からないけど、なんだか崇拝すうはいされてる?

 顔を赤らめて苦しんでいるようにも見える。


「……バカが」


 二人はもう僕も救えないかもしれない。


 とまあそんな冗談はさておき、僕はもう一度師匠たちに向き直る。


ダリヤおい

「なんだい、ヴァルツ様」

「俺の剣に付き合え」


 僕が意識を乗っ取られた時、ヴァルツの剣はダリヤさんを圧倒した。

 明かかに今の僕より数段上だったんだ。


「そりゃいいが、今までも見てきたでしょう」

「足りん」

「! ヴァルツ様、それはどういう……?」

「今のままじゃ生温いと言ったんだ」

 

 もし原作の彼が、今の僕と同等の努力をすれば、あのレベルに辿り着くんだろう。 

 ならば、もう負けないと誓った以上、僕もなんとしても追いつかなきゃいけない。


「そうかい」

「ああ」

「じゃあ納得がいくまで付き合うぜ、ヴァルツ様!」

「それでいい」


 それと、マギサさんにも。


「おい魔法女」

「なにかしら?」

「お前は俺の研究に付き合え」


 【闇】についてもまだまだ知らないといけない。

 学園まではもう半年を切っているのだから。


「ええ、いくらでも!」

「ふん」


 そして、なんとなくだけど、僕はさらなる可能性・・・・・・・を感じていた。

 【光】と【闇】、両方を併せ持った時の凄まじいパワーに。


「仕上げだ。愚図ぐずども」


 そうして、月日はあっという間に過ぎて行った──。







<三人称視点>


 朝日まぶしく、気持ちの良い日の朝。

 まさに旅立ちにうってつけの日だ。


「行ってらっしゃいませ、ヴァルツ様」

「ああ」


 大きな馬車に乗り、ヴァルツはじいやに見送られる。


 今日この日、ヴァルツは十五年過ごした領地を出て行くのだ。

 首都に建つ学園へ行くために。

 

「くれぐれも粗相そそうのないように、メイリィ」

「はい! 爺や様!」


 ヴァルツの隣には、彼を一番に慕うメイリィが乗る。


 学園には一人まで『付きい』を連れて行くことができる。

 その者にヴァルツはメイリィを選んだようだ。


リーシャあの女は学園で合流するんだったか」

「その予定となってます」

「ふん。どうでもいいがな」


 またリーシャは、この一週間前に準備をするため祖国へ戻った。

 学園で再会することになるだろう。


 そして、


「気を付けな、ヴァルツ様」

「魔法はサボらないようにね~」


 約二年、師匠としてヴァルツを見守ったダリヤとマギサ。

 彼らもヴァルツとの師弟関係は今日で終わりのようだ。


「……」


(ちょっと寂しいな)


 二人を眺め、心の中ではそう思う。

 だが、傲慢ごうまんなヴァルツの口からは出ていくはずもなく。


 そんな均衡を破ったのはマギサだ。


「ヴァルツ様、意外と寂しいんじゃない?」

「!」

「ほら、動揺してる」

「してねえ……!」


 ヴァルツは鬼のようなぎょうそうでマギサを睨むが、そんなのはすでに慣れっこ。

 ダリヤとマギサは顔を見つめ合い、大笑いをした。


「「あっはっはっは!」」

「てめえらなあ……」

 

 ひとしきり笑い終えたダリヤ。

 最後にヴァルツに伝える。


「ヴァルツ様」

「あぁ?」

「最初は、ヴァルツ様を傲慢で怖いと思う人もいるだろう」

「……」


(そりゃそうだよなあ)


「それでも」


 ダリヤはフッと笑って口にした。


「きっとヴァルツ様を分かってくれる人はいる」

「……!」

「活躍楽しみにしてるぜ」

「……フン」


 中のヴァルツとしては頭を下げたいが、そんなことはかなわない。


「てめえら」

「「「?」」」


 それでも、外のヴァルツがほんの少しゆずったのか、言葉にすることができた。


「世話になったな」

「「「……!」」」


 その言葉には、ダリヤ・マギサ・爺や、その他の執事やメイドも含めて驚きを隠せない。


「「「ヴァルツ様、いってらっしゃいませ」」」


 傲慢で非道なヴァルツ・ブランシュ。

 彼の中に転生した、ヒーローに憧れる少年のおかげによって、なんだかんだ領地では愛される存在になっていたのだ。


「フッ、大げさな奴らめ」


 そう言い残し、ヴァルツを乗せた馬車は走っていった。

 最後の最後に少し口元がゆるんでいたのも、みんなは見逃さなかったことだろう。





「行っちまったな」

「そうね」


 それを見送り、ぽつりと言葉をこぼすダリヤ。

 二人の表情は、言わずもがな寂しそうだ。


「でも大丈夫だろ」

「でしょうね」


 だが、二人はヴァルツの成功を確信している。


「あの時の謎のヴァルツ様にはビビったが……今はそれ以上だ」

「まさか、あれからさらに修行を厳しくするとはね」


 あの日、本来のヴァルツが見せた、ダリヤを圧倒する剣術。

 今のヴァルツはそれを超えたのだという。


「それに、例のあれ・・・・も間に合ったんだろ?」

「ギリギリね」

「で、どうなんだ? そいつは」


 マギサは一呼吸の後、答えた。


「歴史を変えうるわ。あれは」

「……はっ! そりゃいい」


 ヴァルツとの日々はかけがえのないものだったようだ。


「ダリヤ様、マギサ様」


 そんな二人に話しかける爺や。


「お二人にこんなものが届いております」

「「……!」」


 手渡したのは、とある依頼書だ。

 内容に軽く目を通した二人は、ふっと笑いながら返した。


「爺やさん、あんたも過保護だねえ」

「ほんとほんと」

「いえいえ、そんなことは」


 そして、依頼を承諾する。


「承ったぜ」

「ええ、同じく」


 ヴァルツに続き、ダリヤとマギサもまたこの地を旅立っていくのだった──。





───────────────────────

このお話で『第一章 本編開始前』は完結です!

次回の更新で『幕間』を挟みまして、次々回から『第二章』を開幕する予定です!

いよいよ本編開始ですね!

【闇】の真骨頂、ダリヤとマギサが言っていた事についても、ぜひ第二章をお楽しみに!


それから、ヴァルツ様からも一言あるみたいです。


「てめえら、★★★を押しやがれ」

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