第6話 初めての

 「【光】……?」


 僕の手元に灯ったのは、輝かしい属性。

 ヴァルツが本来持つはずの【闇】とは、対極の属性だったのだ。


「まじかよ!」

「これが【光】属性なの!?」


 マギサさん、そしていつの間にかそこまで来ていたダリヤさんが目を見開いて驚く。


 そうなって当然だ。

 だって、この属性はかつての勇者のみに許された属性なのだから。


「すげえな……」

「ええ……」


 だけど、ならば二人は見たことすら無いはず。

 それでもこれが【光】属性であると直感できたのは、そう思わせるほどの一寸のよどみすら感じない輝きからだろう。


「……っ」


 かくいう僕も固まってしまっていた。 

 色々な考えがよぎってんだ。

 

 これは原作を変えてしまったのか?

 中身が僕だから?

 正義のヒーローになりたいという想いが【光】属性として表れたのか?


「とにかくすげえぜ、ヴァルツ様!」

「早速試しましょ!」

「……ああ」


 だけど──


「ッ!?」


 一瞬、体の奥底に何か黒いものを感じる。

 【光】とは何か真逆・・のドス黒いようなものを。


「どうしたんだ? ヴァルツ様」

「……いや」

「それなら早く!」

「あ、ああ」


 すぐに消え去ったそれは忘れることにした。 





「どうした、ダリヤ!」

「うおっ!」


 僕の【光】属性が発現して、すぐに修行を再開した。

 そして、その効果は驚くほどすぐに現れた。


「手ぇ抜いてんならぶっとばすぞ!」

「まじかよ、ヴァルツ様……!」 


 僕の木刀がダリヤさんを剣ごと飛ばす。

 態勢を立て直したダリヤさんは、高揚こうようするような顔を見せた。


「これが伝説の【光】属性なのかよ!」


 属性にはそれぞれ『効果』が存在する。

 特徴といってもいいかもしれない。


 たとえば、マギサさんの【毒】なら『溶解』。

 触れたものを溶かすのだそう。


 他にも【火】系統なら『燃焼』、【土】系統なら『地形変化』など。

 覚える必要はないけど、それぞれ何かしらの特徴を持つ。


「さすが勇者様が持ってた属性だぜ!」

「……ああ」


 そして、【光】属性の効果は──『強化』。

 一見単純に聞こえるかもしれないけど、他の属性とは一線をかくす。

 強化バフ量がケタ違い・・・・なんだ。


 人々の希望となるその属性は、人々を奮い立たせ、戦う力を与える。

 まるで太陽のような属性だ。


「──【光・身体強化】」


 【光】属性に変換した上での【身体強化】。

 効果は並みのそれとは比べものにならない。

 

「ダリヤ」

「?」

「俺の勝ちだ」

「──ッ!?」


 瞬時に後ろを取り、剣をダリヤの首の横スレスレに立てる。

 ぶらんと剣を下ろしたダリヤは笑い始めた。


「ハハッ! まじかよ!」

「……」

「俺の負けだ、ヴァルツ様」

「……!」


 傲慢ごうまんなこの口からは出て行かないけど、僕は心底喜んでいた。


 勝ったんだ!

 初めて最高峰の剣士ダリヤさんから、一本を取ったんだ!


「ハッハッハー!」(やったーーー!!)


 感情が爆発する。

 笑い方は変換されても、喜んでいることには変わりなかった。


「むしろ遅えぐらいだ」(ようやくやったんだ!)

「「……」」

「って、なんだてめえら」


 だけど、僕が声を上げたのをよそに、二人の師匠は顔を見合わせる。

 それから──


「「あはははは!」」


 二人して大声で笑い始めた。

 

「なっ!? 何笑ってんだ、てめえら!」

「あはは、ごめんなさいね」


 マギサさんが腹を抱えながら肩に手を乗せてくる。


「今のはさすがにツンデレに見えたから」

「はあっ!?」

「嬉しかったんですよね。ダリヤに勝ったのが」

「……っ! ぶ、ぶっ殺すぞ!」


 ここまで口が悪くはないけど、恥ずかしさから思わず否定する。


「……」


 それと同時に思う。

 今のヴァルツはどんな顔をしていたんだろう。

 きっと原作では見なかったような顔だったんだろう。


「……チッ」


 しようと思っていない舌打ちが勝手に口から出ながら、空を見上げた。


 僕はこいつが嫌いだった。

 だけど、ほんの少し素直になるだけでこんな未来もあったんじゃないか。

 そんな他人事のような同情をしてしまう。

 

「もう一本やるぞゴラ」(もう一本お願いします!)


 それでも破滅の未来は待っているかもしれない。

 でも、僕は進み続ける。

 困っている人を助けるため、みんなを笑顔にするヒーローになるため。


「おう! ヴァルツ様!」

「どれだけでも付き合うわよ!」


 この日は、初めてヴァルツが人を笑顔にした。

 そう思うと、我ながら少し嬉しくなった。





───────────────────────

一応補足です!

二人はほとんど知られていない「属性は人の本質を表す」という情報を知っていたからこそ、ヴァルツをツンデレだと思ったのでしょう。

赤の他人からすれば、まだまだ傲慢なお坊ちゃまです……。

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