第2話
女子会と言う呼び方は嫌いだ。まるで、会には男がいるのが普通と言う前提があるみたいだから。だが、私達は女子だけで集まった。他の子が「女子会」と呼ぶのを咎めたりはしない。
そのカフェはペット同伴可で、参加の五人も全員ペットを連れて来る約束になっていた。
半年前に同じ面子で集まったとき、アオが私をスターにしてくれた。もちろん今日もその予定だ。私はその予期に胸が満たされて、顔が緩んで仕方がない。
会に到着したのは私が最後で、着き次第犬の紹介が始まる。
「パピヨンのコンブちゃん。よろしく」
「パグの大五郎」
「プードルのメーテル。よろしく」
私が促される。
「柴犬のブルードッグの、アオ。よろしく」
英子の視線に前回とは違う色が、見上げるのではなく見下ろすものを感じる。その英子が犬を出す。ピンク色だった。
「ポメラニアンのピンクドッグの、キスちゃん。よろしくね」
一同がキスに視線を集中させる。鮮やかなピンク色は確かに息をしている。私は、自分が感じているものの正確な解釈を一刻も早くしたくて、声を出す。
「ピンクドッグって、何?」
「よくぞ訊いてくれました。ブルードッグの時代はもう古いんだ。今のトレンドはピンクドッグなんだ。ちょっと頑張って、手に入れました」
「そうなんだ」
ちらと見たアオがさっきまでの輝きを失っている。英子が勝ち誇った顔をしていて、残りの三人も英子についたみたいな雰囲気だ。会はそのまま進行した。表面上はおしゃべりを多岐に渡ってしていたが、深層ではずっと、ピンクドッグに私達は踏み躙られていた。
マンションに戻り、アオを放す。
アオは変わらずに青い。
だが、その価値は暴落してしまった。
私は部屋の中央に立って、アオを見ている。
この子の世話をして来たのも、この子に価値があったからだ。今や、外に連れ出してもピンクドッグに負けてしまう。二番手じゃ意味がない。ブルードッグが一番じゃないのなら、アオが存在する意義はない。
アオが私の足にすり寄る。
どこか遠くに捨ててしまおうか。誰かが拾って、二番手でも珍しいからって喜ぶのは、嫌だ。じゃあ、ここで殺しますか。……それも何か嫌だ。保健所に連絡して処分してもらうのがいいのか。違う。本当に殺してしまっていいのだろうか。
電話が鳴る。
「明美? ちょっと大事な話があるから、今から会えない?」
アオのことは別に即断する必要はない。
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