第三章 ゾンビパラダイス

第1話 布団の中

「うーん……」


 『温かい布団の中』


 この誘惑に勝てる人はどれだけいるだろうか? 勿論、俺には無理だ。しかも柔らかいものを抱きしめていたら余計に厳しい。


「ん、抱き締めている……?」


 おかしい、俺は一人暮らしだし、狐火は俺の背中側にいる。という事は俺が抱いているのは何だ? そもそも前回の配信の最後ってどうなってたっけ? 思い出せない。あのリュカを倒して――――。


「あ」


 ナツミンに『霊薬』を飲ませたんだ。飲ませて意識が戻ったのを確認したところで逆に俺が意識を失ったんだった。身体中から煙が出てたしな。あの『仙薬』はかなり効き目が強い分、終わった後の反動が凄かった。今回は問題なかったが、使いどころを間違えると逆に窮地に立たされる事になるだろう。


「あれは本当にピンチになった時にだけ使う事にしよう」


 価格もそんなに安い訳じゃないしな。まぁ万が一に備えて、『霊薬』とセットで一粒だけ万が一の為に毎回購入して、使わなくてもよければそのままストックしておこう。あれは一回のダンジョン配信で何度も使えるもんじゃない。


 それにしても今回も運よくダンジョンボスを倒す事が出来てよかった。最後がどうなったかわからないからあれだが、おそらく無事にダンジョンコアを回収し、こちらに戻ってこれたのだろう。


「リスナーやナツミンにきちんと挨拶出来なかったのが心残りだ」


 配信なのにしっかり終わる事が出来なかったとか放送事故ではなかろうか? その辺詳しく知らないが、いい事ではないだろう。


「それより……俺とナツミンのキスをリスナー達に見られたんだよな?」


 穴があったら入りたい。


 まさか俺のファーストキスがこんなたくさんの人達に見られてしまうとは。人助けの為とはいえ、ナツミンには無許可でやってしまった。命を助ける為とはいえ、コンプライアンスに厳しいこのご時世。アカウントがbanされないかも心配だ。


 ちょっと待てよ? 万が一にも垢が消された場合、俺ってどうなるんだ? この配信での記憶が無くなる程度ならまだいいが、俺は一度は死んだ身だ。下手をすると命までbanされるとか笑えない事になるんじゃないか?


 既にリスナー達のコメントも自分達にとって不都合になりそうな発言が意図的に出来ない様にしてるような感じもあるしな。思考を誘導してるというか、操作? してるというか……。なんとも恐ろしい連中だ。まぁこれも何となく思ってるだけなのでたまたま俺のリスナーがそんな感じなだけかもしれない。配信中は他の人の配信の様子もコメントも読む事が出来ないからな。確認の仕様がない。


「どこまでがセーフでどこからがアウトなのか……」


 まぁあんなとんでも世界に飛ばせるくらいの技術がある連中だ。もしあれがアウトであれば既に俺の身に何か起きている筈だ。それがないって事はとりあえず今回の事はセーフだったんだろう。そもそも『霊薬』を飲まされる状況ってかなり危機的なはずなのでどうしても似たような感じになってしまうだろうし。


「とりあえず、あとでナツミンに連絡を取ってみて……。リスナー達に挨拶も碌にできなかったから雑談配信をしてみるか?」


 先日の説明にも記載されていたが、ダンジョン配信以外にも週に一度だけ自由に配信をする事が出来る。その内容は雑談配信でもいいし、自分の登録数を伸ばす為の何か企画をしてもいい。俺は今回、その中でも雑談配信をしようってわけだ。


「よし、少し頭の中がスッキリしてきた」


 やる事も決まったし、頭の中を整理出来た。そろそろ現実と向き合う時間がやってきたな。俺の背中側にいるのは狐火なのは間違いない。サイズ的には俺よりちょっと小さい感じか? とりあえず人っぽい。まぁこのままにしてても進まないし、さっさと答え合わせをするとしよう。


 一度深呼吸をし、恐る恐る布団をめくる。


「いや、誰やねん」


 するとそこにいたのは俺よりちょっと年下? くらいのメイド服を着た黒髪少女であった。


――――――――――――――――――――――――――――


 第三章、始まりました。暫くは不定期更新になってしまいますが、引き続きよろしくお願いします。


 そして暫くの間はまた日常回? になりますが第二章と同様、サクサク進めていくつもりです。


 そしてここからは作者からのお願いです。


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 評価される事、それが何より執筆への励みになります。今後も精一杯面白くなるよう頑張りますので、是非、よろしくお願いします!

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