閑話 魔法少女の初恋 後編

 温かい感触。


 それが最初の感想。それから優しい匂いと、何かに包み込まれて心地よい気分にいつまでも浸りたくなりました。ですが、現実はそうもいきません。


 目が覚めるのと同時に、目の前にいたのは緒日辻くん。唇に残る感触。これってもしかして……。


 恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になりそうでしたが、緒日辻くんの様子を見て我に返ります。いえ、嘘です。まだ心臓がバクバク言ってました。顔が真っ赤なのも隠せてないでしょう。


 ですが、惚けている場合ではありませんでした。そのまま倒れそうになる緒日辻くんを必死に受け止める為に今度は私が咄嗟に抱きしめます。緒日辻くんの身体からは煙があがり、とても苦しそう。私の為に何か無理をしたのでしょうか?


 おろおろしている間に、頭上からは黒く輝く水晶のような物がゆっくりと降ってきました。あれが『ダンジョンコア』という物なのでしょうか? 降ってくる様子を見ていると、真っすぐ迷う事なく緒日辻くんの胸元までやってきて、そのまま砕け散ってしまいました。


 すると、ほどなくして二回目の配信終了のお知らせがやってきます。一回目と同じで、倒した魔物に応じたDPが得られるようです。前回は何も出来なかったので私のDPはゼロでしたが、今回は多少ではありますが緒日辻くんのおかげで戦う事が出来ましたので、少しはDPを得る事が出来そうです。


 何となく離す事が出来なくてそのまま緒日辻くんを抱きしめたまま時が過ぎます。そして配信の終了カウントの残り一秒になったその時、変化が起きました。


 録画の一時停止といえばわかりやすいでしょうか? 周囲は灰色に染まり、何もかもが動かなくなった世界に私は驚いてしまい、思わず緒日辻くんを抱きしめる力が強くなってしまいました。


「妾の主様に気安く触るでないぞ」


 突然何かに弾かれて吹き飛ばされると、緒日辻くんの刀、『狐火』ちゃんが輝き、そこには妖艶としか言いようのない綺麗な女性が緒日辻くんをお姫様抱っこしながら立っていました。


「あなたは……誰?」


 頭が追いつきません。ただわかる事はこの状況を作っているのはこの目の前にいる綺麗な女性なのでしょう。もしかして?


「妾か? 異なことを申すな。玉藻前の子、狐火である。まぁ今は主様の忠実なるしもべであるがな?」


 予想はしてたけど、この目の前の女性が狐火ちゃんのようです。玉藻前ってあの九尾の狐で有名なあの妖怪? なのかな。けど、狐火ちゃんって緒日辻くんの装備だったはずですよね? どういう事なのでしょう?


 私の混乱をよそに愛おしそうに緒日辻くんの頭を撫でる狐火ちゃん。その姿はまるで最愛の人を愛でる家族のようでした。


 なぜかチクリと胸が痛くなった気がします。


「本来であればそなた程度、処分してしまってもかまわぬのだが、主様が助けてくれた命を妾が奪うなど、おこがましい事である。主様に感謝せよ」


 狐火ちゃんに睨まれた瞬間、見えない圧力がのしかかり、立ち上がるどころか、地面に土下座するような形で動く事が出来なくなりました。この力は先程まで戦っていた狼神 リュカよりよっぽど強いです。


「そのように地面に這いつくばる姿がそなたには相応しい。ん、クロよ、嫉妬とはなんじゃ? 失礼な事を申すでないわ。なぜ妾が小娘程度に嫉妬など――――」


 誰かと話している様子でしたが、その途中に空がひび割れ、灰色だった世界が元に戻ろうとしています。


「ふむ、まだ今の妾ではこれが限界のようじゃな。小娘よ、くれぐれも主様に近寄るでないぞ。ましてや接吻など、もってのほかじゃ。わかったな?」


「接吻? あ、もしかし――――」


 言い終わる前にひび割れていた空間が完全に崩壊して、目の前が暗転とした直後意識を失ってしまいました。


 そして目が覚めた時、私は自分のベッドの中にいました。前回と同じでいつの間にか寝ていた事になっているようです。


 それにしても最後の狐火ちゃんの姿には驚きました。何で狐火ちゃんはあんな姿になったのかはわかりませんが、緒日辻くんの事が大事なのはよくわかりました。


「ふふっ」


 最後の狐火ちゃんの姿を思い出して思わず頬がゆるんでしまいました。最初は怖かったのですが、最後の言葉を聞いて考えを改めました。もしかして最後にわざわざ私の目の前に現れたのもヤキモチ焼いちゃっただけなのかもしれません。


 圧倒的な力差はありますが、緒日辻くんを想う気持ちは負けません。


 唇に残っている感触を思い出してしまい、顔が真っ赤になってしまいます。たまらずそのまま布団に潜り込みました。


 次に会った時にどんな顔をすればいいのでしょうか……?


 色々とありすぎて頭の中がまたまだこんがらがってきてしまいました。たくさんの事があって疲れてしまったので今日はこのまま寝てしまいましょう。疲れていたのでしょう、目を閉じたらすぐに寝てしまうのでした。


――――――――――――――――――――――――――――


 これにて、本当の本当に第二章の終わりです! 次から第三章へと移ります。ちょっと長くなってしまい、すみませんでした。


 第三章もゆっくりになってしまうかもしれませんが、引き続き頑張って更新しますので応援よろしくお願いします。


 そしていつものお願いです。


 ここまで読んでくださった方、そろそろ☆一つでもいいので評価してくださってもいいのですよ? カクヨムでは☆は加点評価されるので☆が一つでも増えればそれは面白かったと評価されたのも同じなのです。


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