第25話 『霊薬』と二回目の配信終了

「ふぅ……」


‘‘おつかれ‘‘


‘‘最後凄かったな‘‘


‘‘かっこよかった‘‘


‘‘あぁご祝儀投げたい‘‘


‘‘同じく‘‘


‘‘スパチャはやく解放されないかな?‘‘


‘‘登録者数も増えてるし、そろそろかも?‘‘


‘‘もう二十万人こえてるじゃん‘‘


‘‘はっや!!‘‘


「お疲れ様でした。何とか狼神 リュカを倒す事が出来ました」


‘‘無事に終わってよかったね‘‘


‘‘今回もボスを倒したのはメェくんだ!‘‘


‘‘さすが私のメェくん♡‘‘


「確かにボスは倒しましたがまだ終わりではありません」


 リュカがいた場所にころりと落ちてきたダンジョンコアを手早く拾うと、ナツミンのところへ向かう為に走り出す。


 既に気配が消え、生きているかどうか全くわからない状態になっているナツミン。気配がない事に嫌な予感が頭によぎる。


「まだ大丈夫だ」


 自分に言い聞かせるようにナツミンのもとへと急ぐ。まだ『仙薬』の効果が残っているうちに全てを終わらせなければならなかった。もう残り時間が少ない。はやくしないとナツミンを助ける前に俺が動けなくなってしまうだろう。


「ナツミン……」


 焦る気持ちを抑えつつナツミンのところへ辿り着いた。そしてナツミンの姿を見て言葉が詰まる。顔は完全に土色になり、ぷっくりとした唇は真っ青に染まり、呼吸していない。その変わり果てた姿に俺は固まってしまった。


‘‘死んでね?‘‘


‘‘間に合わなかったか‘‘


‘‘ナツミン死んでまうの?‘‘ 


 。これは本来ではおかしい事だ。本来、死んでしまった場合には人々の記憶からナツミンという存在はいなくなる、それが普通だった。だが、これにはカラクリがある。死んでから一分以内はまだみんなの記憶に残るのだ。記憶に残る理由はわからないが、このおかげで一つ、出来る事があるんだ。


「まだ助ける事は出来ます」


‘‘どうやってナツミンを助けるの?‘‘


‘‘ポーションじゃ意味ないんだよね?‘‘


 ポーションは既に使用してるのでナツミンにケガはない。それに死んでいる人間にポーションを使っても復活する事はない。あくまで回復薬だからだ。ではどうするのか?


「これを使います」


 取り出したのは緑色だったポーションに対して虹色に輝く液体。


「『霊薬エリクサー』です」


 ゲームでもよく出てくる万能回復薬、『霊薬エリクサー』。このダンジョン攻略において唯一死んだ人間を復活させられるアイテムだ。その価格はなんとポーションの三十倍。しかも基本的には他人にしか使えないので(自分が死んでも飲めない為)、他人の為に多くのDPを使う気になるかが問題となる品だった。


 そして俺は迷ったが残っていたDPを殆ど使って二つだけ購入していた。ちなみに今回購入していたのはポーションと、『仙薬』、『霊薬』の三つだ。元々装備品の購入予定はなかったし、幸いにも前回のボスを倒した事で大量のDPもゲットしていた。そして俺は俺の見える範囲で松井のような人をもう出したくなかった。


 そしてそれが今、正しかった事が証明できる。


‘‘そんなものまであるのか‘‘


‘‘メェくん優しすぎひん?‘‘


‘‘さすがメェくん♡‘‘


‘‘はやくナツミンに使ってあげて!‘‘


「時間がありません。すぐに使いますね」


 申し訳ないと思いつつも、口を無理矢理開けて『霊薬』を流し込む。だが、思うようにいかず、『霊薬』は口から零れてしまった。おそらく舌が邪魔をしてしまって中に入ってくれないのだろう。


‘‘あぁ! 零れちゃった‘‘


‘‘ナツミン助からないの?‘‘


‘‘ここまでせっかくきたのに‘‘


「どうしたら……」


 一つだけ手段がある事はわかっている。だが、こんな配信中に、相手の同意もなくやっていいのだろうか。緊張と罪悪感に飲み込まれそうになったが、目の前のナツミンの姿を見て、俺は決意をする。


 一度深呼吸をすると、『霊薬』を全て口に含み、ナツミンの口内へ直接流し込んだ。


‘‘きゃあああああああああ!!‘‘


‘‘ちっす! ちっす!!‘‘


‘‘ナツミン〇す‘‘


‘‘ワイのナツミンが‘‘


‘‘ワイのメェくんが‘‘


‘‘コメント欄が阿鼻叫喚笑‘‘


 一滴も零さないようにガッシリと頭を掴んで舌をどかしながら『霊薬』を流し込み続ける。すると、ナツミンの土色だった顔色がみるみるうちに綺麗な白色に戻り、唇も元のぷっくりとしたピンク色に戻った。


「プハッ。ふぅ、なんとかなった……かな?」


 唇同士で糸を引きながら離れるのと同時に、俺にも限界がおとずれた。急に身動きが取れなくなり、身体中から煙があがる。そして遅れて全身に激痛がやってきた。


「ぐううううううう!」


 ナツミンに覆いかぶさるようになってしまっている為、本当は横にどきたい。だが、それどころかこのままだとナツミンに倒れこんでしまう。


「……ん? あ、あれ、緒日辻くん?」


 目が覚めたのか、ナツミンが顔を赤くさせながら困惑した表情でこちらを見てきた。そりゃそうだろう。起きた瞬間には目の前に俺の顔だ。流石に驚くだろう。申し訳ない気持ちになるが今はそれどころじゃない。やばい、限界だ。


「わ、わりぃ。あとは頼んだ」


「えっ? えっ!?」


 ナツミンの声が遠くに聴こえてくるがもう俺に返事をする余裕はない。ナツミンが無事なのを確認できた安心感もあり、俺はそのまま意識を手放した。


 こうして俺の二回目のダンジョン配信は、みんなにファーストキスを見せる形で終わる事になった。


――――――――――――――――――――――――――――


 更新が遅くなりすみませんでした。近況ノートにも書きましたが、インフルエンザにかかり、そのあとから調子があがらず、こんな体たらくに。


 まだ時間はかかりますがゆっくり更新いきたいと思います。


 これにて、『第二章 変化した日常』の終わりです! 次に閑話をはさみ、第三章へと移ります。無事ナツミンを助ける事が出来ましたが、思わぬところでちっすをしてしまったメェくんはどうなってしまうのでしょうか?


 作者も今後の展開にワクワクしております。


 第三章も面白く出来るように頑張りますので引き続き、よろしくお願いします。


 そしていつものお願いです。


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