第23話 逆転の切り札

 そこからの攻防はより激しいものとなっていく。


 狐火でリュカの爪を受け止め、クロで弾き返す。そしてリュカの体勢が崩れたところで攻守が逆転する。すると今度はリュカが狐火を弾き、足元から迫るクロを踏み潰す。お互いに細かい傷が増えてきた。


 戦いの勢いは止まらず、それに比例して視聴者数もぐんぐんと伸びてくる。それに反して戦況は芳しくない。不利になるのは残念ながら俺の方だからだ。


 刻一刻と迫るタイムリミット。ナツミンの気配が弱っていくのがここからでもわかってしまう分、余計に焦りを生んでしまう。負けるどころか倒すのが遅れれば遅れるだけナツミンが死ぬ確率も上がるのだから。


「どうする?」


 余計な思考は焦りに繋がってしまう。攻撃が乱れたところで、リュカの爪を狐火で受け止めきれず吹き飛ばされてしまった。凄まじい勢いで吹き飛ばされた俺は、木にぶつかったところでやっと止まると、背中の痛みに苦悶の表情を浮かべてしまう。


「くそ、いってぇ……」


‘‘メェくんが珍しく焦っとる‘‘


‘‘そりゃそうだろ‘‘


‘‘ナツミンの配信画面見て来たけどナツミンかなりヤバイ‘‘


‘‘土色みたいな顔してたもんね‘‘


‘‘メッチャリアルな感じがした‘‘


‘‘どうにかしたいけど、こいつ普通に強いもんな‘‘


‘‘こんな状況でもナツミンの事諦めてないメェくんは偉い‘‘


「別にナツミンの為にやってる訳じゃねぇよ」


 もう松井みたいな奴を目の前で見過ごすのが嫌なんだよ。だからこれは俺の為にやってるだけなんだ。


 そうだ、こんなところで躓く訳にはいかない。こんな狼野郎に負ける訳にはいかないだろ。時間がないんだ。なりふり構わずやるしかない。


 俺はアイテムバックからとある薬を取り出した。


‘‘ポーション?‘‘


‘‘ナツミンにあげたやつとは違うみたいだけど?‘‘


‘‘真ん中に『仙』って書いてあるね‘‘


 本当はあまりこれは使いたくなかったんだがな。俺の力であって俺の力じゃないようなもんだし。


 とどめを刺そうとリュカは木々の間に沿って迫ってくる。この調子だとすぐにこちらにやって来るだろう。そうなると飲んでいる暇もなくなる。もう迷ってる場合じゃない。


 薬の蓋を開けひっくり返すと、一粒の錠剤が俺の手元に落ちてくる。それを一気に飲むと、すぐに身体に変化がおとずれた。俺はそれに耐える為に目を閉じる。


「ガアアアアアアアアアアア!!」


 それを挑発と受けとめたのか、怒りの声が響く。だが、リュカを気にするどころではなかった。


 身体中が燃え上がるように一気に熱くなる。思わず狐火を持つ力が強くなってしまい、自然と炎が舞い上がる。それを警戒してリュカが手前で立ち止まったのがわかった。そして目を開いた時には全てがに見えた。そして炎が消えた瞬間、リュカが警戒しつつもこちらに迫り、そのまま爪で身体を引き裂こうとしてきた。


「遅い」


 リュカの爪を避け、狐火を振り下ろして爪をぶった斬る。突然の事に驚いたリュカは俺から離れ、爪を斬られた右腕を抑えていた。どうやら爪を斬った時、狐火から発する熱が腕にも伝わり、あまりの衝撃に驚いているようだ。


「こんなドーピングみたいな事をしたくなかったんだがな……。リュカ、お前には悪い事をしたと思っている」


‘‘はっや!‘‘


‘‘狐火ちゃんの残光すら見えなかったんだけど笑‘‘


‘‘ていうかメェくんの目が虹色に揺らめてない?‘‘


‘‘ホントだ! 何をしたんだろ?‘‘


 リスナー達も俺の変わった姿に驚いているようだ。


「これは自分の力の限界を一時的に引き出す『仙薬』だ」


‘‘そんなのもあるんだね‘‘


‘‘これってアリか?‘‘


‘‘ズルい……とも思うけど限界まで力を使うって事はそれなりにリスクもあるんでしょ?‘‘


‘‘うーん……‘‘


 さすがリスナー達は鋭い。


「飲んでから五分間だけ限界まで力を解放する事が出来る薬です。五分すぎると、凄まじい反動があるらしく、ここで倒せなければ俺の負けは確定します」


‘‘ハイリスク・ハイリターンやね‘‘


‘‘まぁこれだけ強くなれるなら納得‘‘


‘‘それに限界までって事はあくまでメェくんの力の範囲内ってことでしょ?‘‘


‘‘それならセーフっしょ‘‘


‘‘俺はこういうのは好きじゃないかな‘‘


‘‘出来れば今の実力で頑張ってほしいよね‘‘


‘‘どんなメェくんでもわたしはついていきます‘‘


 やはり仙薬を使うのは賛否両論あるようだ。俺だって本音をいえば使いたくないからな。だが、これは遊びじゃない。まぁ、リスナー達からすれば遊びなのかもしれないが。


 ちなみにこの『仙薬』はポーションの十倍の価格である。買うか迷ったが万が一に備えて買っておいた。


 一度距離を取ったリュカがこちらを威嚇するように唸っている。その表情は突然の変化に戸惑っているようだった。


「時間がないからな。一気に終わらせてもらうぞ」


 相手が落ち着くまで待っている余裕はない。一気にリュカの懐まで迫る。そしてリュカに気付かれる前に狐火を一気に振り下ろし、リュカの爪が残っている左肩を斬り落とすのだった。


――――――――――――――――――――――――――――


 最後まで読んでいただきありがとうございます! 次話でリュカとの戦闘も決着です。最後までどうかよろしくお願いします。


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