第22話 ボス戦の始まり
振り下ろされた爪に対し、俺は狐火で迎え撃とうとした。すると、リュカはニヤリと嗤う。その表情に嫌な予感がし、咄嗟に横へ避ける。すると、振り下ろされた爪から空気の刃が飛び出し、地面を抉ってしまった。
「そのまま受け止めてたら死んでたな」
‘‘あぶねぇ‘‘
‘‘おっそろしいね‘‘
‘‘よく避けた‘‘
‘‘流石メェくん♡‘‘
背筋に冷たい汗が流れる。最初からやってこなかったのは、これまでが出すまでもないと俺達の事を舐めてただけなのか、この瞬間の為に隠してたのか。先程は確認できていなかったが、『円狐』を切り裂いたのもたぶんこの力だろう。
「攻撃の主導権を渡す訳にはいかないな」
これがもし俺だけの戦いであればこのまま駆け引きを続け、じっくりとリュカの力を暴いていけばいい。だが、今回は俺の命だけではなく、ナツミンの命も掛かっている。おそらくナツミンの残り時間はそう長くない。
そうなると綱渡りみたいな事になるかもしれないが、短期決戦だ。
「クロ!」
左手を前に出すと、クロが地面を這うようにリュカの方へと伸びていく。狼なだけにこいつは脚が速いし、跳躍力も高い。縦横無尽に動かれるだけで厄介な相手だ。
だが
だからリュカにそんな自由はさせない。まずは足を潰す。蛇のようにスルスルっと進んでいくクロを踊るように避けていくリュカ。だが、クロは止まらない。避けた先を先読みして追いかけ続けるのだ。それだけではリュカを揺さぶる事は出来ない。それと同時に俺は前へと進む。
足元だけを夢中にはさせない。狐火を横薙ぎにする。クロと俺の上下同時攻撃をお前はどうやって凌ぐ?
結論からいくと、狐火もクロも空振りをしてしまう。だが、それで問題はなかった。俺の予想通り、リュカはその強靭な脚力で空高く舞い上がる。だが、それは悪手だ。
「『狐閃』」
空中では身動きが取れないだろ?
俺はリュカの動きを注意深く観察する。さっきの空気の刃で迎撃するのか? それとも防御するのか? 先程の横薙ぎでわずかに触れた時の感覚ではあるが、こいつの鎧は相当硬い。おそらく『狐閃』ではこの鎧を貫く事までは出来ないだろう。だが、それでも少なくないダメージは与えられる筈だ。
ところが、ここでリュカは予想外の動きをしてきた。
空中で二度目のジャンプをして『狐閃』を避けると、さらに空中を蹴ってこちらへと急加速しながら迫ってきたのだ。
「くっ!?」
二段ジャンプまでは正直頭の片隅で予想してたが、まさかそこからさらに空中を自由に蹴る事が出来るとは……。やけにあっさりと上に逃げたなとは思ったが、こいつはどこまで手札を隠してるんだ?
これはまずい気がする。何だか俺の思考がリュカに誘導されてないか? 今の流れを何とかしなきゃいけないと思うが、それは今の場面を乗り越えてからだ。狐火を斜めに構え、体勢を若干崩しつつも何とか爪を受け流し、今度はリュカが地面に降りたタイミングで踏ん張りながら狐火を振り下ろす。力の篭っていないそれをリュカは容易く爪で弾き、反対の爪で俺の腹部に向かって串刺しにしようとしてきた。突き刺さる寸前、下から突き上げるようにモーニングスターのように先っぽが丸くまとまったクロが爪を腕ごと弾く。あまりダメージは与えられなかったが、この状態は、俺の方が有利だ。がら空きになった胴に向けて仕返しとばかりに突きを放った。
「やっぱかってぇ!」
予想以上に鎧は硬く、狐火の刃は、リュカの鎧に全く突き刺さる事なく弾かれてしまった。それどころか先ほどの一撃の反動で俺の腕が痺れてしまう始末だ。
「やっべぇな、おい」
‘‘そのわりには楽しそうである‘‘
‘‘推しが楽しそうで何より‘‘
‘‘マジ戦闘狂‘‘
‘‘見てるこっちもワクワクしてくる‘‘
こんな状況なのに顔がニヤけてしまう事に少し凹んでしまう。急がなきゃいけないのもわかっている。普通に戦っても勝てるかわからないのもわかっている。
だから愉しいのだろう。
俺の攻撃が通用していないのに、リュカの攻撃はもし当たれば致命傷へと繋がるかもしれない。さらにはいえば時間もないんだ追い詰められ始めている筈なのにこれが続いてほしいという矛盾。
ヒリヒリ震えるような空気。俺とリュカしかいない空間。
力は俺が僅かに上か? 素早さは正直リュカに負けている気がする。神と名乗るだけあってゴブリンウォーリアと違って戦闘技術もあり、駆け引きもうまい。おそらくだが、まだ切り札の一つや二つ残っているだろう。
短い時間の中でも考えろ。リュカに勝つにはどうしたらいい。カッコよく勝とうなんて考えるな。
ただ、ただ、一秒でも早く、リュカを殺し、ナツミンを助けるんだ。
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