第20話 一方的な殲滅戦

 少し休憩を挟んだところで移動を始める。『紅蓮グレン狐鎖コサ』は二つの武器を利用した強力な技だが、その分俺への疲労が大きい。その代わり、管狐達は頭が良く俺の命令によく従ってくれる。


 炎なのに何で自分で考えられるのかって? ハハッ、俺も知ってるわけないだろ。その辺は考えるだけ無駄なので、割り切ってそういうもんだと思っている。


 そして今回、俺が命令したのは三つだ。


・狙うのは魔物だけ


・戦ってた場合には邪魔をしない(その場で待機)


・もし死んでいる人がいた場合燃やしてほしい


 まぁ一つ目と二つ目に関しては当然の事だろう。魔物を殲滅する為にやってる訳だし、ペナルティがあるから横取りも出来ない。ちなみに射程範囲は一キロ前後だ。慣れてくればもっと広い範囲も可能になると思う。管狐達を放っても炎の鎖に繋がれている為、動き回っている様子が完全とまではいかないが、何となくわかる。今も元気よく魔物達を燃やしているよ。


 そして問題? の三つ目。まぁこれは自己満みたいなもんだ。ここで死ぬとその人はみんなの記憶からいなくなってしまう。つまり初めから存在しなかった事になるんだ。死体はそのまま放置されるだろうし、そもそもここがどこなのかすらわからない。


 だからせめて俺が弔ってやりたいんだ。焼いてやる位しか出来ないけどな。それに必ずやってやる事も出来ない。だからこれは俺の自己満なんだ。


‘‘何これ、まるで犬の散歩じゃん‘‘


‘‘いや、これ狐だから狐の散歩だろ‘‘


‘‘別にどっちでもいいだろ笑‘‘


‘‘メェくん何でもありだな……‘‘


‘‘もう歩いてるだけじゃん笑‘‘


‘‘まぁメェくんだから……‘‘


‘‘ダンジョンを歩いてるだけで攻略しちゃってる配信者がいるだって!?‘‘


‘‘ハハッ、そんなまさか‘‘


‘‘ところが‘‘


‘‘どすこい‘‘


‘‘どすこい!?‘‘


‘‘メェくんは最強だから♡‘‘


‘‘ガチ恋さんブレねぇ……‘‘


 まぁ見た目はただ歩いてるだけだからな。そう思われてしまっても仕方ないだろう。けどこれ出すの結構疲れてるんだからね?


「お、どうした? ……あっちか」


 一匹の管狐が戻ってくると俺の肩に乗ってくる。管狐達では対処できない問題が発生した時は、俺のところに戻ってくるようにしているので戻ってきたのだろう。


 他の管狐達には引き続き魔物の殲滅を頼み、俺は問題の現場へと向かう事にする。


 おっと、その前にきちんと命令を聞いてくれたこいつを褒めとかないとな。


「よくやった。次も頼むぞ」


 頭を優しく撫でると気持ちよさそうに目を閉じている。


‘‘羨ましい‘‘


‘‘私も撫でてほしい‘‘


‘‘ていうか管狐可愛すぎね?‘‘


‘‘一匹分けてほしい‘‘


‘‘私も飼われたい♡‘‘


「きつねびもなの! きつねびもなでてほしいなの!!」


 みんな言いたい放題だな、おい。


 みんなの相手をしたいところだが、そんな事をしている場合ではない。問題の現場にも向かわなければならない。万が一、ここで立ち止まった事が原因でその人が死んでしまったら俺はあとで後悔するだろう。


「とりあえず向かいます」


 管狐の案内に従って走り出す。その間も他の管狐達は魔物を倒し続ける。むしろ行動範囲を拡げていく事で魔物を狩るペースが上がっているくらいだ。俺の感じる範囲に魔物は既に存在しない。そして他の配信者達だって魔物達をそれなりに狩っている筈だ。


「もしかしてもうそんなに魔物がいないのか……?」


紅蓮グレン狐鎖コサ』を使う前にも逃げた魔物を含め、それなりに狩ってきた。もしかしなくても今の現場に辿り着けば魔物の殲滅も終わるかもしれない。


 向かっている最中に続々と戻ってくる管狐達の様子を見て、さらに疑惑は確信へと変わっていく。


「魔物がいなくなりましたねぇ……」


‘‘やっぱ殲滅すれば終わるんじゃ?‘‘


‘‘冗談半分だったけど本当ぽい‘‘


‘‘現地はまだ遠そう?‘‘


「まだちょっとかかります。管狐達が戻ってきたので、付近にはもう魔物はいないでしょう。提案してくださったリスナー様、ありがとうございます。これで攻略が進むかもしれません」


‘‘いいって事よ‘‘


‘‘あと少しって事だね。頑張って!!‘‘


「ありがとうございます! 頑張ります!!」


 そんな事を言っている間にも現場まであとちょっとのところまでやってきた。


「血の匂いがする……」


 嫌な予感がするな。まじで急いだ方がよさそうだ。幸いにもまだ戦闘音はするので戦いは終わっていない。


「狐火!! クロ!!」


「はいなの!!」


 繋がっていた二つの武器が離れると、クロは俺の左腕に、狐火は俺の手元に戻ってきた。管狐達もそうなると維持出来なくなるので煙のように消えてしまう。


 ピリピリとしたこの空気。ひょっとしてボスが……?


 全力で走り抜けたその先では、傷だらけのナツミンと巨大な狼男が対峙していた。


「え、緒日辻くん……?」


 ナツミンは、突然現れた俺に気付いて気が逸れてしまう。そして、その隙をついた巨大な狼男がナツミンの腹部を貫いてしまうのであった。


――――――――――――――――――――――――――――


 最後まで読んでいただきありがとうございます!


 漸くボス戦です。第二章も佳境となりました。


 ナツミンの生死は如何に!?


 最後までお付き合いいただけたら嬉しく思います。


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