第19話 行き詰まり

 その後、ライカンスロープの他に魔法を撃ってくるグレイウルフも出て来たが、大した速度も威力もなかった為、瞬殺する結果になってしまった。


「ゴールはどこだ? 誰かボスと戦ってたりしないのかな?」


‘‘今のところ誰も戦えてないみたい‘‘


‘‘洞窟の時みたいに出口がわかりにくいから見つけにくいよね‘‘


‘‘何か条件があるとか?‘‘


 条件か……。確かにいきなり戦闘じゃなければ何かしらボスに会うための条件があってもおかしくはない。


 うーん、ただ探すだけじゃ微妙だから配信者らしくいくか。


「そしたらさ、今からリスナーのみんなが考えた事の中のどれかをやってみようなって思ってるんだけど、どうかな?」


 俺の思わぬ提案のコメント欄が騒ぎ出した。


‘‘空を飛んでほしい‘‘


‘‘このフロアを全部吹っ飛ばせばいいんじゃない?‘‘


‘‘もっとまともなやつねぇのかよ‘‘


‘‘狐火ちゃんをください‘‘


‘‘それはワイもほしい‘‘


‘‘ください‘‘


‘‘いや、ワイのやから‘‘


‘‘俺のだし‘‘


‘‘ワイのもんや!‘‘


‘‘なんだ、やんのか?‘‘


‘‘は?‘‘


‘‘は?‘‘


「は?」


‘‘ヒェッ‘‘


‘‘ごめンゴ‘


‘‘ごめんなさい‘‘


‘‘調子乗りました‘‘


‘‘許してちょんまげ‘‘


 その後もゴチャゴチャコメント欄は盛り上がっていくが、良さそうな意見は中々出ない。あとちょんまげ野郎は許さない。ちょん切ってやる。


 それにしてもどうしたものか。これはダンジョンなのだからクリアされるのが前提の筈なので、ゴールがないって事はまずない。となると何かしらのギミックがあり、それにまだ俺達は辿り着けてないって事だ。


‘‘なぁなぁ、それならとりあえずこのフロアの魔物全部燃やし尽くしちゃわない?‘‘


‘‘↑これさっきフロアを吹っ飛ばせって言ってた奴だろ笑‘‘


‘‘けど魔物を全滅させるとーってやつボスわくやつとかたまにあるじゃん‘‘


‘‘メェくんから逃げてる魔物追いかけて殺っちゃうの?‘‘


‘‘R18かな?‘‘


‘‘鬼ごっこか‘‘


‘‘確かにそれはありかも?‘‘


 うーん、DPを稼ぎたいのもあるからそれもありなのか? ただ敵さんが逃げるからなぁ……。今じゃ、ライカンスロープくらいしかこちらと戦ってくれない。


 悩んでると左腕が急に締め付けられた感覚になった。


「ん?」


‘‘どした?‘‘


‘‘話きこか?‘‘


‘‘それ騙されるやつや‘‘


‘‘メェくん騙されたらあかんよ!!‘‘


「いや騙されないから……」


 そんな事より締め付けの原因はこいつか。


「疾風の十字鎖クロスチェーン


‘‘チェーン?‘‘


‘‘メェくんのセカンド武器か‘‘


‘‘急に出してどうした?‘‘


 腕を捲ると絡みつくように俺の腕にくっついている。ちなみに最初はポケットに入れてた筈なんだが。


 こいつにも意思があるのだろうか? 狐火の事もあるし、別にいてもいいのだが、中身が松井だったら怖い。


「こいつに呼ばれた気がしたんですよ。うーん、俺を使えって事か?」


 俺と言っても男か女かわからないが、とりあえず何か意思を感じる。


「ちょっと魔物殲滅やってみますか」


‘‘けどどうやって?‘‘


‘‘走り回るには広すぎない?‘‘


‘‘さっきの技使うの?‘‘


‘‘あれは他の配信者いたら危ないでしょ‘‘


‘‘横取りしてペナルティになっても、その配信者さんに当たっても怖いしね‘‘


「そこは考えがあるので安心してください。頼む、狐火」


「……はいなの」


 ちょっと頬を膨らませて渋々といった様子で刀になった狐火。別にこの鎖が嫌いって訳じゃ無さそうなんだが、なぜか対抗意識を燃やしているようだ。


‘‘狐火ちゃんを刀にした‘‘


‘‘狐火ちゃんの新技?‘‘


‘‘ちょっと楽しみ‘‘


 楽しみにしてくれているようなので期待に応えて気合を入れるとしよう。鞘に入れたままの狐火を前に出すと、疾風の十字鎖が鞘の先端と根本にくっつき、そのまま離れなくなった。


 うーん、疾風の十字鎖って呼び方だとちょっと長いな。なんか短縮したい。クロスチェーン、チェン、クロス……。


 よし、こいつの名前は『クロ』だ。安直だが、これなら呼びやすい。心なしかクロも嬉しそうだし、問題ないだろ。


 よし、名前も決まった事だしいっちょやってみますか。


「燃え盛れ。紅蓮グレン狐鎖コサ


 俺の言葉と同時に鎖に火がついた。すると、燃え出したその火は一気に燃え上がると炎へと変わり、朱かった炎は蒼く輝いていく。


‘‘メッチャ綺麗‘‘


‘‘かっけぇ……‘‘


‘‘すき‘‘


‘‘けどこれでどうすんだ?‘‘


‘‘確かに‘‘


「こうするんだよ」


 鎖を掴み、引っ張ると首にクロと繋がれた無数の狐の形をした炎の矢が現れる。俺は自分の火だから熱くない。鎖を触ってる見た目はやばいけどな。イメージ的にはあれだ。管狐ってやつだな。あれをイメージしてみた。


「飛べ」


 鎖を離すと無数の管狐達が凄まじい速度で木の間を這うように飛び出していった。すると、すぐに魔物の悲鳴が聴こえてくる。


‘‘ヒェッ‘‘


‘‘なんちゅう恐ろしい‘‘


‘‘けど、それがいい‘‘


‘‘↑ダメだこいつ、はやくなんとかしないと……‘‘


「この管狐は魔物以外追いかけないように指示を出してます。すぐに結果が出ると思いますよ」


 俺は弓を持ったままその場に座ると、リスナー達に今の技の説明を始めるのだった。


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