第18話 強敵

 狐火とライカンスロープの爪がぶつかる。


「ちっ、結構重いな」


 向こうも止められると思ってなかったのか、イライラした様子で今度は逆側の爪を振り下ろしてきた。それを再び俺は迎え撃つ。ぶつかり合うたびに激しい金属音が鳴り響き、一撃ごとに火花が飛び散った。攻撃の苛烈さがどんどん増していくが、それでも俺は一歩も引かずにライカンスロープの攻撃を淡々と受け続ける。


「ハハッ。こりゃあ確かに強気になる訳だな」


‘‘メェくんとこんなに戦えてる奴って前回のボス以来じゃない?‘‘


‘‘こいつヤバくね?‘‘


‘‘メェくんがんばれっ!!‘‘


‘‘強敵にしてはメェくん楽しそうだなぁ……‘‘


‘‘メェくんだからね‘‘


‘‘戦闘狂だから‘‘


‘‘かっこいいからいいのっ!‘‘


 リスナーの言う通り、こんなに戦えてるのってボス以来かもしれんなぁ。むしろさっきまで魔物にすら避けられてたくらいだったからな。


 


 勘違いしてほしくないが、これまでも含め、戦いを遊びだと思った事はない。ゴブリンもグレイウルフも雑魚って訳じゃないし、万が一を考えたら油断は決して出来る状況ではなかった。考えても見てほしい。今回のグレイウルフの牙に首でも噛みつかれたら一巻の終わりだぜ?


 。やっぱ俺おかしいのかな? 物足りないってなんだ……。おっと、余計な事を考えてる場合じゃないな。このまま防戦一方でいく訳にはいかない。


「今度はこっちの番だぜ?」


 突かれ始めたライカンスロープの一瞬の隙を狙って狐火を振り上げ、片方の爪を斬り飛ばす。勢いよく腕も弾き飛ばしたせいか、ライカンスロープの表情が苦痛に歪んでいる。身体ごと吹き飛ばなかっただけ大したもんだよ。


 だが予定よりは体勢を崩せなかったが好機には違いない。こんな隙を逃す筈ないだろ。


「『狐閃』!!」


 振り上げた狐火を今度は縦に振り下ろした。


 ライカンスロープも何とか避けようと身体を捻ったようだが、やはり体勢が悪かった。お前と俺の違いは遠距離があるかないかだ。これがただの斬撃だったらさっきの俺のように迎え撃つだけで何とか耐えられただろうが、俺の『狐閃』を受け止めればそのまま一刀両断だ。どんなにきつかろうが避けるしかないだろ?


 ちなみに炎の壁はあえて作っていない。これは配信前から決めていた事で、遠距離からの攻撃がない限り今のところは使わないつもりだ。あれがあるとどうしても防御に甘えが出てしまう。遠距離攻撃があるような敵がいる時ならともかく、元々が戦いの素人である俺の場合、とにかく実戦で鍛えるしかない。ちなみに名前は『狐牆こしょう』。牆とは垣根だ。まぁこの字にしたかったのはただかっこよかっただけなので、あまり気にしないでほしい。


 おっと、話が逸れてしまった。


 案の定避けきれず、左腕を斬り飛ばす事に成功すると、更に距離を詰める。逃げたいライカンスロープだったが、こうなると俺の方が速い。何とか片腕で迎え撃ってはいるが、自分でもわかるほどに一撃を加えるごとに速く、重くなっていく斬撃。それに段々とライカンスロープが耐えられなくなってきていた。グレイウルフにいたっては戦闘に巻き込まれて死んでしまったか、いつの間にか逃げてしまっていた。


‘‘朗報:ヤバいのはやはりメェくんだった‘‘


‘‘さっきまで余裕そうだったライカンスロープの表情が引き攣ってるんだが……‘‘


‘‘どうなってんだ?‘‘


‘‘メェくんが振る狐火ちゃんの音がえぐい‘‘


‘‘むしろ振ってる狐火ちゃんが見えなくなってきたんだが‘‘


‘‘俺はまだギリ見えてる‘‘


‘‘俺はギブ‘‘


‘‘なんか赤い残光? みたいなのが見えるだけ‘‘


 リスナー達も驚いているようだが、俺も正直驚いている。戦えば戦う程、自分の身体が自分のモノじゃ無くなっていく感覚に陥っている。勝手に動くというか反応するというか……。ライカンスロープが動く前からどこに行こうとしてるのかが何となくわかってしまうんだ。


 愉しかった時間が終わりに近づいてきている。さっきまで苦戦していたのが嘘のようにライカンスロープが傷だらけになってしまった。俺は相手をいたぶる事は趣味じゃないのでさっさと終わらせる事にしよう。


「愉しかった。俺の糧となってくれてありがとう。『円狐』」


 距離を取るのと同時にライカンスロープの周囲に炎の渦が巻き起こる。今回は囲むだけなんて甘い事はしない。そのまま炎の渦がライカンスロープを飲み込んでいく。ナツミンを守る時には戦う意思を確認する為と、両方を傷つけない為に囲むだけにしていたが本来はそのまま炎の渦が相手を飲み込むのだ。


 炎に包まれて、断末魔を上げ、逃げ回るライカンスロープだったが、燃え上がる炎の勢いは凄まじく、蛇のように巻き付く炎に逃げ場はない。瞬く間に動けなくなり、最期は骨すら残る事はなかったのだった。


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