第17話 ライカンスロープ

「ハァ……」


‘‘何しんみりしてんねん!‘‘


‘‘ワイらがおるやんか!‘‘


‘‘メェくんすき♡‘‘


‘‘ドサクサに紛れて告白してるやつおるんだが……‘‘


‘‘そいつの事は諦めろ‘‘


 どうやらナツミンとお別れした事で少し寂しくなっていたようだ。どうしてもダンジョン配信って孤独だからな。それでも俺はまだいい。狐火がいるからな。


 それにしてもリスナーに気付かれ、慰められるとは……。こういうちょっとした変化に気付いてくれるとちょっと嬉しくなってくる。真帆だけはそういうのに割と敏感だからすぐ気付いてくれたが、中々そういう関係性を築くのって難しいからなぁ。


 配信者の人が楽しそうにしてるのがわかる気がするな。一緒にいる訳ではないが、一体感が心地よい。これが生死を分けるダンジョン配信でなければもっと良かったんだが……。


「みんな、ありがとな」


‘‘デレた‘‘


‘‘ぐはっ‘‘


‘‘あとは頼む……‘‘


‘‘ワイの屍を越えていくンゴ‘‘


 何かお礼を言っただけでコメント欄が騒がしい。何でだ?


「あるじさまにはきつねびがいるなの!!」


 仲間外れにされたと思ったのだろうか? 狐火が俺に抱き着いてきた。突然の突撃にも段々慣れて来た俺は優しく受け止め、頭を軽く撫でると、ゆっくり狐火を地面に下ろした。


「大丈夫だ。狐火は俺の相棒だろ?」


「はいなの!!」


 俺の言葉に狐火が満面の笑みを浮かべる。


‘‘尊い‘‘


‘‘死んだ‘‘


‘‘何この空間‘‘


‘‘あれ、ここって自宅でしたっけ?‘‘


‘‘ダンジョン配信中だよ‘‘


‘‘嘘だぁ‘‘


‘‘先程まで殺伐した戦いを続けていたとは思えない‘‘


‘‘追い打ちとか草‘‘


 リスナー達が変な事を言っているが気にしない。


「ん?」


 下ろしたのと同時に狐火の耳がピンと上がり、表情が引き締まり、警戒感が高まっていく。


「どうやらお客さんのお出ましのようだな。狐火っ!」


「はいなの!!」


 そうなるのが当たり前のように狐火が刀に変化し、俺の左手に収まった。それと同時に凄まじい勢いで迫ってくるグレイウルフ。さっきまでの逃げ腰は何だったのか、今度は強気でこちらに迫ってきているようだ。


「急にどうしたんだろうなぁ?」


 なんとなく予想は付くが、実際に見てみないうちに決めつけるのは早計だ。ちょっとした広場で待ち構えていると、そいつはやってきた。


「まぁそんな感じだよな」


 五匹ほどの群れを率いてやってきたのは、灰色をした狼の中に一匹だけ人型になっている狼がいた。たぶんワーウルフってやつだな。顔は狼で身体が人間に近いって感じだ。大きさが三メートル近くあり、こちらを見おろし、ニヤニヤしている。侮っているのが丸わかりだった。


「うざいな、ワーウ」


‘‘メェくんどうした?‘‘


‘‘メェくん?‘‘


 危ない危ない。ここで安易に名前を呼ぶなんてミスを俺がする訳ないじゃないか。これ以上危険が危ない事をしてはいけない。


「…………」


 おい、魔物博士! 何で無言なんだよ!! いつ出てくるの!? 今でしょ!!


「……ワーウルフ」


‘‘なんて?‘‘


‘‘なんて?‘‘


‘‘なんて?‘


‘‘なんて?‘‘


‘‘あ、この魔物はライカンスロープだね。残念ながらボスではないみたい‘‘


‘‘メェくん……笑‘‘


‘‘やっぱメェくん可愛いな♡‘‘


 さっきまでのは前言撤回だ!


 こいつら嫌い! 狙ってんのか? あん!? そういう事しちゃいけませんって先生に教えてもらわなかったんか!!


 おっと、心が乱されてしまった。クールだ、そう、クールにいこうぜ。


 ライカンスロープはゴブリンの時と同じだな。あの時も魔法が使える杖を持ったゴブリンや、弓矢を背負っていたゴブリンがいた。そうなると今回のダンジョン配信でもグレイウルフの変異みたいなやつがいたって決しておかしな事ではない。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 凄まじい咆哮はゴブリンウォーリアに劣るかもしれないが、かなりの力強さを感じる。そしてライカンスロープの咆哮と同時に、グレイウルフがこちらに向かって走り出した。


「何でこういう時に一番強い奴ってちんたらしてるんだろうな?」


 迫ってくるグレイウルフの一番近いやつの首を刈り取る。そして刈るのと同時に抜刀の構えを取る。


「舐めてるんじゃねぇぞ? 『狐閃こせん』!!」


 横薙ぎに狐火を振り抜くと、飛び出してきた炎の刃がライカンスロープに迫る。それを飛んで避けたライカンスロープは、そのままの勢いで鋭く尖った爪を俺の頭に目掛けて振り下ろしてきた。


「ちっ!」


 凄まじいジャンプ力だ。振りきったばかりで避ける事の出来ない状況に舌打ちをしてしまう。こりゃ間に合わないか。文句をいっても仕方ないので、狐火を振り上げてライカンスロープの爪を迎え撃つ。


――――――――――――――――――――――――――――


 半端に長くなってしまったので分けます。


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