第12話 初めての遭遇

 最初に突っ込んできた狼に対し、ギリギリのところで横に避ける。


「甘いな」


 こんな程度じゃ俺は殺せない。避けてガラ空きになった首に向かって狐火を振り下ろすと、狼の首は簡単に胴体お別れしてしまった。


「弱すぎないか?」


‘‘メェくんが強すぎるだけ定期‘‘


‘‘一人だけバグってねぇか?‘‘


‘‘リコたんとかメッチャ苦労してたぞ‘‘


‘‘苦労してるとな? ちょっと見て来る‘‘


‘‘女に釣られてて草‘‘


‘‘私はメェくん一筋だよ♡‘‘


 リコたんって確か現在登録者数が一位の人だったか? 切り抜きでしか本人を確認出来ていない為、どんな戦い方かあまりわからなかった(ドジっ子シーンばかりだった)。とりあえず可愛らしい容姿くらいしかわかっている情報がない。


「他の配信者ももう戦闘が始まってんだな」


 当然だが、他の四人の配信者も俺と同様、このダンジョンのどこかを進んでいる筈だ。前回は誰にも会わなかったが、運が良ければ、いや、悪ければか? わからないが、進んでいく内に遭遇する可能性もある。


「てかさ、何でこいつら来ないんだよ。野生の血はどうした?」


 最初の一匹を斬ってから狼どもが寄ってこなくなってしまった。流石に逃げはしないが、萎縮してるようでこちらを見ているだけだ。


「はぁ、仕方ない。それならこっちからいくぞ」


 さて、どの技にするか。


 頭の中でどれが最適か考える。うーん、前回の最後の技では火力が高すぎるし、森を燃やし尽くす恐れがある。それに初戦から体力を使いすぎる訳にはいかない。


 俺はこの日の為に色々考え、たくさん調べた。一度は眠りについた筈の俺の内なる心がひょっこりと帰ってきてしまい、それ以降止まらなくなってしまったのだ。


 よし、これだ。

 

 狐火を鞘に入れ、抜刀の構えをとる。柄を持つ腕に力を込め、そのまま横薙ぎに狐火を抜いた。


「『狐閃こせん』」


 狐火の火を帯びた刃は凄まじい速度で狼達に迫る。そして、そのまま狼達を真っ二つにしただけでは収まらず、周囲の森林も全て斬り倒してしまった。予定より強いその威力は、まるでレーザーに焼き切られたように断面が焼け焦げている。


‘‘かっこいい‘‘


‘‘すげぇ‘‘


‘‘圧倒的じゃん‘‘


‘‘一撃かよ‘‘


 周囲を警戒するがとりあえず討ちもらしは無さそうだ。それにしても思ったより威力が強かった。これもダンジョンコアを狐火が吸収した影響だろうか?


 戦闘を終えた俺は、『狐閃』によって切り拓かれた道を進む。やりすぎたと思ったが思ったより森が延焼せず、あっさりと鎮火してしまったようだ。


「森が燃えなくてよかった」


 森が火事になったら配信どころじゃない。鎮火した原因が単純に消えたのか、それとも何らかの方法で消されたのかはわからないが、これで森で火を使っても問題無さそうなのがわかってよかったという事にしておこう(反省ゼロ)。


‘‘燃えてたらシャレならん‘‘


‘‘私を燃やして♡‘‘


‘‘っ薪‘‘


‘‘っマッチ‘‘


‘‘っダイナマイト‘‘


‘‘爆発しとるやんけ!笑‘‘


‘‘みんな仲いいね笑‘‘


「みなさん楽しそうで何よりですね。俺は魔物に避けられたのが地味にショックです」


 先程の戦闘では、最初の一匹以外の狼が全くこちらにやってこなかった。本能的にビビってたんだと思われる。こういう時って魔物はどんなに相手が強くてもなぜか突っ込んでくる系じゃないの? 普通に避けられると俺が普通じゃないみたいでつらたん。


「俺は普通、俺は普通」


‘‘普通じゃない‘‘


‘‘普通じゃないぞ‘‘


‘‘メェくんは最強だぞ♡‘‘


‘‘ガチ恋ネキですら肯定しないの草‘‘


‘‘そら普通じゃないもん‘‘


‘‘間違いない‘‘


 そ、そんな事ない筈なんだがなぁ。といっても他の配信者の切り抜き見たって強そうな人いなかったしな。そもそも戦闘シーンがメインで切り抜かれてたのって俺だけだったし。他の人は撮れ高が良さそうな部分ばっかだった。あ、つまり俺の場合は戦闘がそうだって事か。


 ちょっと他の人と扱いが違う事に若干ショックを受けるも、弱くて死ぬよりはマシなの気にしない事にする。とにかく今は攻略を進める事だ。


「そういえばさっきの狼ってなんて魔物だったんだろう? ビッグウルフ? とかかな」


 よくいそうな感じの狼だったよね。


‘‘ビッグウルフって笑‘‘


‘‘メェくんのネーミングセンス笑‘‘


‘‘残念ながらグレイウルフだよ‘‘


‘‘出た! 魔物博士‘‘


‘‘博士!‘‘


「おのれ、博士! また俺に恥をかかせるつもりだな!?」


 ゴブリンキングの件、忘れてないぞ!


‘‘またっていつ恥をかいたんだ?‘‘


‘‘魔物博士くん助かるじゃん‘‘


‘‘まさかメェくん……前回の魔物も何か間違えたのかな?


‘‘まさかそんな……ねぇ?‘‘


「そ、そ、そ、そ、そんな訳ないじゃないか」


‘‘動揺しすぎ!笑‘‘


‘‘確定ですな‘‘


「うるさいうるさい」


 このままじゃ俺は間違いなくリスナーのおもちゃにされちゃう。


「……ん?」


 揶揄おうとするリスナーのコメントを無視して歩き続けると、どこかから戦闘音が聴こえてきた。まだかなり遠いようだが……。


「どこかで戦ってるみたいだ」


‘‘まじか‘‘


‘‘見に行く?‘‘


‘‘誰だろ?‘‘


「うーん、気になるのでとりあえず向かってみましょうか」


 話すのと同時に走り出す。カメラがかなり高性能なのか、急加速しても問題なく追いかけてきてくれる。


 そして現地から少しから離れたところで止まるとそこでは一人の女性がグレイウルフと戦っているのだった。


――――――――――――――――――――――――――――


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