第6話 ちょっとした朝の変化
思ったよりスッキリと目を覚ます事が出来た。狐火ヒーリング効果だろうか?
ベッドから起き上がるとまだ隣でスヤスヤと夢の中にいる狐火さん。メッチャ温かかった。
これが朝チュンなのかな? 人生初の朝チュンで逮捕はしんどいんだが……。ていうか寝る前は刀に戻ってた筈なのにどうしてこうなった?。
だが、そのおかげで朝の目覚めがスッキリ出来たのも事実。だからここで狐火を安易に叱ってはいけない。罪に罰を。対価には報酬をだ。
とりあえず朝の支度をするか。それなりにうるさくなるだろうし、流石に狐火も起きるだろ。
うーん、今日の朝食は何にしようかな?
―――――――――――――――――――
「おーーーーい! おーーーーーーーい!! 狐火!! 起きろーーーーーーーー!!」
この娘、マジヤバい。全然起きないんだが? メッチャユラユラ揺する。起きない。さらにユラユラ揺する。起きない。どうする?
「……うにゅ?」
暫く頑張ると、漸く目が僅かにあいた。何その可愛い声。結局、思いっきり揺すって揺すって(当社比三倍程度)やっと起きてくれた。だが、脳みそは全く起きていないのか、のんびりと起き上がるとゾンビのように徘徊を始めた。
あれいつからこの世界は世紀末になったのかな?
「朝だ。ほれ、顔洗って目を覚ましてこい」
寝ぼけながら徘徊している姿を見ていても仕方ないので、準備を終えていた朝食をテーブルの上に用意する。油揚げを入れる予定だった味噌汁に白米。卵焼きと焼き魚を用意してみた。ザ和食だ。料理は嫌いではないので、自分以外の為にする料理は、昨日もそうだったが楽しいものだった。
「いいにおいがするなの!!」
目が覚めたのか、物凄い勢いで椅子へと飛び込んだ狐火。もうそのまま食べそうな勢いで箸を持って待機していた。
「まぁ待て。あと少しで終わるから」
「はいなのです! きつねびはまつことができるいいおんななのです!!」
いい女がこんなに涎が垂れそうな顔しますかね? まぁ楽しみにしてくれてるのは普通に嬉しいのでよしとしよう。よし、準備が出来た。
手と手を合わせて――――
「「いただきます」なの!」
―――――――――――――――――――――
「しんちゃん、何だか楽しそうね?」
いつも通り幼馴染である真帆と歩いていると、不意にそんな事を言われた。
「そうか?」
昨日に比べれば少ない気がするが、相変わらずこちらに対して好奇の視線を向ける有象無象。まぁ人の噂もなんとやらというし、放っておくしかないだろう。どうせ何も出来ないだろうし。
それより真帆の質問だ。楽しそう? うーん、思い当たる事といったら狐火と生活を始めたからだろう。
「そうよ。今も鼻歌交じりじゃない。ま、まさかわたしというものがありながら彼女でも出来たんじゃないでしょうね?」
そんなに俺ってご機嫌なのだろうか? 産まれてこの方、まだ彼女出来てないんだぜ? 出来てたら裸踊りを披露してる自信があるんだが。きっと、おそらく、たぶん、maybe……。
「彼女なんて出来る訳ないだろ。……まぁそれでも確かにちょっといい事があったかもしれん」
一人暮らしが長い人ならわかってくれるかもしれんが、一人というのは確かに気楽だ。だが、それと同時に、辛い事もある。一人って誰とも会話をしないし、何をやってもどうしようもなく虚しくなる事がある。普通に話し相手がいるだけで景色が変わるもんなんだ。しかも昨日はダンジョン配信の事で結構思い悩んだりもしてたしな。今普通でいられるのも狐火のおかげかもしれないな。
やっぱ狐火って他人には思えない。まだ会ったばかりな筈なのになぜだ?
頭を捻って考えているが思い当たる節はない。俺専用の装備だからか? 比較対象がないから判断出来ないんだよな。
「ちょっといい事って何? 教えて、教えて!」
適当に真帆をあしらっていると、今日もあの視線を感じた。エース様だ。拳から火が出るやつじゃないぞ? うちのバスケ部のエースの事である。相変わらず俺に敵意を向けている。知らなきゃよかったんだけどなぁ……。これが毎日続くと正直いって気が滅入る。
「ひゃうっ!」
とりあえず癒しを欲した俺は、真帆の頭一撫でする。急だったせいか変な声を上げていたが気にする事はない。顔を真っ赤にして頬を膨らませてるが、これも気にしない。てかそんなに真っ赤になる程怒る事だったのか……?
うーん、なんか面白い顔してるし、まぁいいや。
先輩だが、真帆に何かしなければ今のところは様子を見るだけにしとこう。相手にわかるように目を合わせると先輩は嫌そうな顔をしてどこかへ去っていった。学校と正反対なんだがどこへ向かうのだろうか? まぁ考えても仕方ないので先輩の事は頭の隅っこへ追いやろう。
そんな事より狐火は家でちゃんと留守番してるかなぁ? 帰りに油揚げを買って帰るのを忘れないようにせねば。真帆に叩かれながら買う物をスマホにメモしつつ(打ち込みにくい)、俺は学校へ向かうのだった。
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