第7話 ゴブコダイン
相手の陣形は剣を持っているゴブリン二匹が前、その後ろにゴブリンウォーリアとそのサイドに弓矢を背負ったゴブリン。そして少し離れたところに杖を持ったゴブリンがいる。
「杖を持ったゴブリンが後衛って事は……」
考えている間に俺の間合いに入った。
「まずは一匹」
先程までと同様に剣を持ったゴブリンの首を一匹刎ねる。ゴブリンウォーリアはまだ動かない。なぜ動かないんだ?
ゴブリンウォーリアの動きに注視しながら隣にいたもう一匹のゴブリンも始末した。攻撃を終えた隙に矢がくるがそれを炎の壁で防ぐ。これで纏っていた炎を一旦失ってしまうが、すぐにまた纏えばいい。
そう思った瞬間、ついにゴブリンウォーリアが動き出した。といっても単純な動作だ。
斧を振り下ろす。
まだ俺とゴブリンウォーリアとはそれなりに距離がある。どう考えてもまだその攻撃が俺に届く事はない。狐火の炎のような飛び道具が無ければだが。
「甘い」
真横に飛び跳ねる。すると、予想通り、風を切る音が俺の真横を横切っていった。よく見ると、斧の真ん中にある石が緑色に光っている。おそらくあの斧の力で風の刃を飛ばす事が出来るんだろう。これまでの戦闘で一度も見た事がない。所謂初見殺しってやつだ。
‘‘な、なんだありゃ‘‘
‘‘クロ〇ダインじゃん‘‘
‘‘ワニじゃないだろ‘‘
‘‘ゴブコダイン?‘‘
‘‘メスになってて草‘‘
‘‘ゴブコ頑張れ!!笑‘‘
ふざけたコメントもあるが、かなりのリスナーが驚いているようだ。俺もそれなりに驚いた。
だが、甘い、甘すぎる。狐火のようなアドバンテージがこちら側だけの権利な訳ないじゃないか。相手だってこっちを殺しにきてるんだ。ただ闇雲に攻撃してくるだけな筈がないだろ?
これまでの戦力差から考えてもゴブコが一番前にいないだけでその可能性を考慮すべきなのだ。
ある程度予想出来ていた為、そこまで焦る事はなかった。だが同時に、こいつがこの程度で終わるようなそんなタマじゃない事もわかっている。
この戦闘が始まってから他のゴブリンと違ってただ騒いでいたのではなく、あきらかにこちらを観察していた。俺の動きを見られていたのだ。
つまり、炎の壁が無くなった瞬間こそ、俺の防御力が一番低い。そしてその事を既にゴブコにはバレている。炎の壁がなく、炎を飛ばすだけじゃ風の刃を防ぐ事は出来ない。防衛手段を失っている今、ゴブコ達は一気に畳みかけてくるはずだ。つまりまだ次の攻撃が待っている。
では、何をしてくるか? 後ろにいる杖を持ったゴブリンがゴブコの奥の手だ。
ゴブコの後ろにいた杖を持っているゴブリンが何か唱えている。上手くゴブコの後ろに隠れていた為、気付くのに遅れてしまった。
「ごぶあああああ!!」
杖を振るのと同時にゴブコも斧を振り下ろす。すると地面を抉るように複数の傷をつけながらこちらに風の刃が迫ってくる。あの杖を持ったゴブリンの力で風の刃を増やしたのだろう。
見える訳ではないが、地面の抉れ具合からみて避ける余裕はない。自分の身を守る炎の壁もない。
絶対絶命ってやつだ。他に手札が無かったら……だが。
「疾風の
この鎖は松井が所持していた装備だ。狐火と違ってコミュニケーションを取れないので、俺が勝手に命名した。このボス部屋に来るまでは何度か使用していたが、このボス部屋に入ってからは一度も使用していない。
そしてこの鎖は風を操る。皮肉にもゴブコが持っている斧と同じだ。だが、俺の鎖とゴブコの斧では格が違う。左手に巻き付いている鎖をほどいて円を描くように振り回すと軽快な風の音が聴こえてくる。その音は徐々に大きくなり、俺の前方に旋風が巻き起こる。すると、ゴブコが放った風の刃の勢いは旋風にのまれ、風の刃が俺のもとへ届く事なく、消え去ってしまった。
「だから言っただろう? 初見かそうでないかで戦況は大きく異なるってな」
‘‘言ってたっけ?‘‘
‘‘記憶にないけど‘‘
‘‘まぁいいんじゃね?‘‘
‘‘楽しそうでなにより‘‘
「う、うるさいっ」
‘‘照れてる‘‘
‘‘可愛い、好き‘‘
‘‘実はドジっ子?‘‘
からかってくるリスナー達は無視だ。勝手に盛り上がってろ!
とっておきを防がれてしまったゴブコから焦りの表情が見えてくる。そしてその隙を俺は見逃さない。
「さぁ、終わりにしよう」
疾風の十字鎖を再び左手に巻き付けると、狐火に最大限の力を込める。
「ゴブコ、とどめだ」
‘‘ゴブコ言うな!笑‘‘
‘‘お茶噴いちまったじゃねぇか!‘‘
‘‘この顔でゴブコか?‘‘
‘‘どちらかというとゴブゾウ‘‘
‘‘どっちでもいいわ‘‘
気にせず一閃。
ゴブコと杖を持ったゴブリンの合体技を俺も真似てみる。まぁ真似るといっても俺の場合、何度も狐火を振ってるだけだから単純なごり押しなんだけどな。
青白く燃え上がった炎の刃達を防ぐ事はゴブコ達では不可能だった。ゴブコの持っていた盾すら一瞬で溶かす炎の刃達は、その場にいるゴブコ達全員を焼き尽くすのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もし、少しでも面白かった! 応援してもいいよ!! って方いましたら、フォロー、応援、☆評価をよろしくお願いします。
評価される事、それが何より執筆への励みになります。今後も精一杯面白くなるよう頑張りますので、是非、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます