目の前で勇者がずっと家探ししてる
夢を見ていた。
この災厄と恐れられた
なんと不愉快な夢だ。寝覚めが悪くなる。
『魔王サマ! 勇者ガ来マシタヨ!』
「む……」
側近のガーゴイルに翼でせっつかれ、目を開ける。
ガーゴイルの言う通り、まさに勇者が正面扉を押し開け、この空間に侵入せんとするところだった。
「最奥のここまで来たということは」
『ハイ。魔王城ニ配備サレタ部下ハ皆、返リ討チデ御座イマス』
ガーゴイルは「情ケナイ」と憤慨している。だが面白い。
それでこそ、我輩の前に立つに値するというものだ。
『トコロデ魔王サマ』
「何だ……」
『勇者は、一体何ヲ』
ガーゴイルは、困惑した声を上げている。
件の勇者は、部屋に並べられた壺に手を突っ込んでいた。
「あれはな。家探しだ」
『家探シ』
「我輩たちの所持するアイテムが隠されていないか、探しているのだ」
『ソレハモウ強盗デハ?』
石像で出来ているガーゴイルは、どんな時でもポーカーフェイスだ。
だが、表情に出なくても分かる。完全にドン引いている。
「まあ、魔王軍の方が悪いことやってるしな。たくさん」
『嗚呼、私ノ【ラストエリクサー】ガ……』
勇者は壺の中から、【ラストエリクサー】を見つけ出していた。
確か、ガーゴイルのへそくりだ。アレがないとこの後の戦い結構キツくなるんだがな。特にMPが。
『魔王サマ。勇者ハ今何ヲシテイルンデショウ』
「む……」
考え事をしていると、ガーゴイルが再び動揺している。
見ると、今度は壁の隅から隅まで、床の隅から隅までまさぐる勇者の姿があった。
「いや分からん。何してんだアレ」
『正気ジャ無イデス。モウコチラカラ戦イヲ挑ンデハ?』
「古の取り決めで、勇者から話しかけてこないと戦いにならん」
『エェ……』
居心地が悪くなり、足を組み直して玉座に深く腰掛ける。
その時、勇者が中央に敷かれた
途端に地響きがしたかと思うと、向かいの壁が崩れた。
その先に階段が現れている。……いや、知らん。何アレ?
『ソウイエバ先代魔王サマが、コノ城ノ地下ニ恐ロシイ魔物が封印サレテイルト仰ッテイタヨウナ』
「む、言われてみれば。……そして
こちらに一切声を掛けることなく、階段をさっさと降りていく勇者。
しばらくして、底からうなり声が響き渡ってくる。
我輩は、次第に違和感を持ち始めていた。
おかしい。あまりにも動きに迷いがなさすぎる。まるで事前に全て知っていたかのような……。
ガーゴイルを見やる。やつは忠実な側近だ。勇者に寝返ることはない。
それは、魔王軍の部下いずれもそうであろう。
『魔王サマ! 勇者ガ!』
ガーゴイルが翼を広げて威嚇した。勇者が、地下から戻ってきた。
『物凄クボロボロデスガ、戻ッテキタトイウコトハ』
「……恐ろしい魔物というのも、やられたな」
勇者が、壺から持ち出した【ラストエリクサー】を飲み干している。
それから、手帳に旅の記録をつけている。勇者はしっかりと、戦いの準備を整えていた。
突如として、我輩の脳裏にあの夢がよぎった。
勇者にあっけなく倒される夢……否、これは記憶だ。
そうだ。我輩は一度、勇者に敗れていた。
間違いない。この勇者、【強くてニューゲーム】している――!
『魔王サマ?』
「ガーゴイルよ。厳しい戦いになりそうだな」
剣を抜く勇者の姿には、確かに覚えがあった。
二度目の戦いが、絶望の中で始まろうとしていた――。
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