階段下のバージンロード
あの子が床に横たわっている。
目を閉じた横顔が、西日を浴びて鮮烈に染め上げられていた。
「あの子」とは、中学の頃から一緒だった。
お互いに節度を守った優等生で、だから距離が近くなるのは当然のことだった。
そして同じ時間を過ごしていれば、自然と見抜かれるんだ。「私」達は優等生でいるしか能のない、空っぽの人間同士なんだって。
あの子と手を繋いで、誰もいない廊下を歩く。
握った手が生温い。身体がひどく重たく感じて、息を切らした。
「あの子」のことを好きになるのに、そこまで時間はかからなかった。
どうだろう。本当に好きだったんだろうか。依存してたのかも。
とにかく、少なくとも「私」に「あの子」が必要だったんだ。
あの子の靴が片方脱げた。振り返って拾いに行く。
気が付くと、歩いてきた廊下が赤く色づいていた。もうじき終業のチャイムが鳴る時間だ。
「あの子」とは、よく今みたいに夕方まで残っていた。
先生とかクラスメイトの頼み事を率先して引き受けて、それを口実にして居残っていた。部活、何もやってなかったから。
放課後、二人きりで空き教室にいると、特別な感じがした。
だから、「私」は「あの子」のこと勘違いしてしまったんだ。
あの子を床に寝かせた。2階に続く階段の下、狭くて埃っぽい三角の
隙間は、人目の届きづらい死角になった。
この階段下で、「あの子」に想いを打ち明けた。
「私」が想いのたけをぶちまけるのを聞いた後、「あの子」は柔和な笑みを浮かべた。そして告げられたのは、優しい拒絶の言葉だった。
ありえない量の錠剤を煽った。これで死ねるらしいけど、どうだろう。
あの子の隣に寝そべって、斜めの天井を仰いだ。
「あの子」と放課後の空き教室で一緒になった。
ぎこちない言葉と、あの柔和な笑みを目の当たりにした「私」は、世界が終わるような絶望感に落とされた。また拒絶されるのが耐え難かった。
――気が付くと、あの子は額から血を流して床に伏せていた。
「私」は、あの子の身体を引きずって歩いた。あの子から垂れた血が、廊下を赤く色づかせていた。
「あの子」とずっと一緒にいたかった。「あの子」に「私」を理解してもらいたかった。
それが叶わないなら、せめてあの子に寄り添い死んでしまおう。
吐き気に苛まれ、目に涙の膜が張った。
ぼやけた視界であの子をみる。額の血は乾いたけれど、目を開くことはない。繋いだ手は生温く、肉の感触がした。
「あの子」に告げた。一言だけ、「一緒にいよう」と。
頭の奥に反射するように、チャイムの音が響いた。
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